効率性

今回評価対象となったプロジェクトについては、全般的に、協力の内容や方法、協力期間などはおおむね適切であり、一部、プロジェクトの進捗に遅延があった事例を除けば、日本側、相手国側双方の関係者の努力や工夫によって、概して円滑に効率よく協力が実施された。効率性の観点から指摘された主な事項は以下の通りである。

1. 投入のタイミング

多くのプロジェクトにおいて、日本側および相手国側による投入はおおむね当初の計画どおり適切に行われた。タイ「パトムワン工業高等専門学校拡充計画」(プロジェクト方式技術協力)では、長期専門家の赴任前にカウンターパートの日本研修を実施したことにより、専門家赴任後の技術移転が効率的に行われた。

その一方で、日本側、相手国側による投入の遅れがプロジェクトの進捗を阻害した事例もみられた。

日本側に起因する要因としては、一部のプロジェクトにおいて、機材の現地到着の遅れがみられる。これに対して、フィリピン「農地改革支援地図・図面作成」(個別専門家チーム派遣)では、機材がなくても実施可能な活動を前倒しして実施したり、チリ「構造物群の地震災害軽減技術」(研究協力)では、機材の到着にあわせて専門家の派遣時期を調整するなど、機材の現地到着の遅れがプロジェクトの活動に大きな影響を与えないよう、さまざまな努力がなされた。

相手国側に起因する要因としては、カウンターパートの配置、負担工事およびローカルコストの予算確保の遅れが挙げられる。中国「国家水害防止総指揮部指揮自動化システム計画」(プロジェクト方式技術協力)では、カウンターパートが他の業務を兼務していたことによりプロジェクト活動に専念できず、また、コスタ・リカ「中米域内産業技術育成計画」(プロジェクト方式技術協力)では、カウンターパートに離職者が出たことが、効率的な技術移転を妨げた要因として指摘されている。相手国側の負担工事の遅れについては、テュニジア「人口教育促進」(プロジェクト方式技術協力)など、プロジェクトの活動拠点となる施設の改築・改装工事が1年以上遅れた事例もあり、技術移転に大きな影響を及ぼす要因となった。

2. 他の援助形態との有機的連携

従来より、無償資金協力と技術協力との連携の重要性が指摘されているが、今回の評価結果から、技術協力の各形態間の有機的な連携や文部省の留学生受入制度との連携も、より効率的な技術移転の実現に向け、非常に有効な手段であるということができる。

たとえば、タイ「北部セラミック開発センター」(プロジェクト方式技術協力)では、マレイシアで実施していた第三国集団研修「セラミック解析計測化」(注)にカウンターパートが参加し、ファインセラミックスの材料特性の解析技術を習得した。また、オマーン「漁業訓練計画」(プロジェクト方式技術協力)では、技術交換事業によるモロッコのJICA水産プロジェクトの視察・関係者との意見交換が行われ、ラオス「森林保全・復旧計画」(プロジェクト方式技術協力)では、同国で実施されていた開発調査の調査結果が活用されるなど、さまざまな事業との連携を図り、より効果的・効率的な技術移転の実現に努めている。

3. 相手側の実施体制

プロジェクトの効率的な実施のためには、相手側のプロジェクト実施能力・体制がおおいに影響する。特に、相手側実施機関が研修の計画、実施、運営を担当する第三国集団研修においては、実施機関の体制や能力の程度が効果的・効率的な研修を行うための非常に大きな要素となる。

このため、エジプト「建設機械訓練(パレスチナ対象)」(第三国集団研修)では、日本から派遣された研修講師が講義以外に研修の実施・運営面についても助言を行ったり、同じくエジプトの「感染症対策」(第三国集団研修)では、相手側実施機関が過去にJICAとの協力実績があまりなかったことから、初回は研修員の受入人数を少なく設定し、無理のない計画にするなど、効率的・効果的な研修を実施するためにさまざまな工夫がなされた。このような努力に加え、各研修においては、研修終了後の研修員や講師などへのアンケート結果を次回の研修にフィードバックさせており、研修の回数を重ねるごとに、内容的にもより充実し研修員のニーズに合った研修が実施されている。