将来の新規プロジェクト

評価の結果、今後、新規のプロジェクトを実施する際に参考とすべき多くの教訓・提言が得られた。以下に、その主なものをあげる。

1. プロジェクトの形成段階における関係者間の共通認識の醸成

プロジェクトは、日本側と相手側による共同作業であることから、双方がプロジェクトの内容に関して共通認識を持ったうえで、協力が進められなければならない。オマーン「漁業訓練計画」(プロジェクト方式技術協力)などの評価では、計画立案段階において、ワークショップの開催などにより、プロジェクトの関係者間で明確な共通認識を得ることが、プロジェクトの効率的・効果的実施に有効であると指摘している。

また、計画策定段階での住民参加の重要性についてもいくつかの評価で指摘している。

ザンビア特定テーマ評価「農業」では、計画策定の過程においては、相手側実施機関と日本側の関係者だけでなく、直接の受益者たる地域住民の参画を得ることが重要であると指摘し、ザンビア「中学校建設事業」(無償資金協力)の評価においても、計画時には、中央政府の政策のみならず広く地域住民の参加を得ながら意向を十分に把握し、計画に反映させることが重要であると指摘している。関係者間の共通認識を得ることは、カウンターパートの所属先が複数の機関にまたがる場合にも特に重要であり、中国「河南省黄河沿岸稲麦研究計画」(プロジェクト方式技術協力)では、カウンターパートの所属先が複数の機関にまたがる場合、プロジェクトの実施体制の確立のみならずカウンターパートの共通認識の醸成を十分に行うことが、協力終了後、統一した視点に立った活動が継続されていくうえできわめて重要であると指摘している。

2. 相手側実施機関の民営化

開発途上国においては、水道事業や電気通信事業などの公営事業の民営化が進められている国がある。今回評価したプロジェクトにおいても、フィリピン「無収水低減化対策」(個別専門家チーム派遣)では、協力期間中に実施機関であるマニラ首都圏上下水道公社が民営化され、同公社は無収水低減に関する直接的な活動を行わなくなったため、協力期間が短縮された。また、インドネシア第三者評価「組織・制度造り/能力開発」でも、協力終了後、実施機関であったインドネシア電気通信公社が民営化されたため、協力の拠点であった電話線路保全訓練センターも改編された。ジョルダン第三者評価「電力」では、ジョルダン側の実施 機関であるジョルダン国営電力会社が、近々に三分割民営化される予定である。

ジョルダン第三者評価「電力」においては、民営化が予想される分野の協力は、政府間協力としてどのような対応がふさわしいか基本的な考えを整理しておく必要があり、そのためには、企画調査やプロジェクト形成調査など、さまざまな手段を使って情報収集することが肝要である、と指摘している。また、インドネシア第三者評価「組織・制度造り/能力開発」では、民営化や民間活力が顕著なセクターにおける協力は、その将来の動向を慎重に予測し、中・長期的視野で協力を検討することが重要である、と指摘している。

また、JICAの協力プロジェクトの相手側実施機関が民営化された場合、その後のプロジェクトの活動状況を評価、事後監理できるようなシステムを相手側と協議して構築することが重要である。

3. 相手側実施機関の運営・維持管理体制の強化

プロジェクトは、日本の協力終了後は、開発途上国自身の手によって維持・運営される。しかし、供与機材の故障や相手側実施機関の運営費の不足などにより、プロジェクトの運営に支障を来すことも少なくないため、プロジェクトの形成段階から、協力終了後のプロジェクトの良好な運営を視野に入れ、プロジェクトの自立発展性を高めるための措置について検討・実施していく必要がある。

まず、相手側実施機関のプロジェクトの実施体制について、ネパール国別評価では、ネパール側の実施体制の脆弱さが多くのプロジェクトで指摘されている。特に、プロジェクト実施機関の組織改編やカウンターパートの度重なる異動、プロジェクト運営費の不足などによって、協力効果の持続拡大に支障を来している傾向が強い、と指摘されている。また、インドネシア・タイ特定テーマ評価「農業分野高等教育」では、カウンターパートへの技術移転のみならず、相手側のプロジェクト責任者に対しても、プロジェクト管理について研修する機会を与えるなど、人事・管理運営上の技術移転はきわめて重要である、と指摘している。パキスタン特定テーマ評価「灌漑農業」では、援助を契機として組織が新設される場合、その施設や機材を有効活用するための体制(運営費、スタッフなど)を十分整備できる目途が立っていないままに相手側から要請がなされる可能性があるため、新規に組織を設立する場合、相手側の運営能力や活動状況の進捗をモニタリングし、その結果をみながら段階的に協力を実施していくことも検討すべきである、と提言している。

次に、供与された機材の活用・維持管理について、ボリヴィア「コチャバンバ市上水道整備計画」(無償資金協力)では、供与された井戸掘削機材を使用したオン・ザ・ジョブ・トレーニングを通じ、掘削機械の操作・管理技術がカウンターパートに移転され、機材は継続的に利用されていると報告されている。また、スリ・ランカ「地方病院整備事業」(無償資金協力)では、機材が適切に維持管理され、持続的に活用されていくためには、スペアパーツの入手が容易な機材の選定、スタッフへの操作・維持管理訓練が不可欠である、と指摘している。パキスタン特定テーマ評価「灌漑農業」では、仕様さえ満たしていれば、極力、相手側の維持管理コストを低くできる機材が選定されるようにする必要があり、そのような改善の積み重ねが、現在問われている「援助の質の向上」につながるといえる、と結論している。

4. 研究協力型プロジェクトの効果的な実施

JICAでは、対象国の環境に適した新たな技術の研究開発や高等教育機関における研究能力向上などの、研究協力型のプロジェクトを実施している。今回の評価においても、このようなプロジェクトが数多く評価されており、今後の効果的なプロジェクト実施のための方法が提言された。

サウディ・アラビア「海水淡水化技術協力計画」(開発調査)の評価では、研究テーマを絞り、投入を集中することによって、成果を効率的にあげることができ、また、研究成果の現場への適用や現場の状況の研究への反映を促進するために、早い段階から現場関係者のプロジェクトへの参加を図ることが重要である、と指摘している。また、韓国「水質改善システム開発」(プロジェクト方式技術協力)の評価では、研究機関と行政との強い協力関係により、プロジェクトの成果の実社会への反映が促進される、と指摘された。さらに、タイ「チェンマイ大学植物バイオテクノロジー研究計画」(プロジェクト方式技術協力)の評価では、基金や民間との共同研究などによる研究費の確保・調達について、対策を講じておくことが重要である、と提言している。インドネシア・タイ特定テーマ評価「農業分野高等教育」では、研究協力型プロジェクトが持続可能かどうかはプロジェクトと他の研究機関などとの間に恒常的で機能的な研究ネットワークが形成されるかどうかにある。専門家派遣、研修員受入、機材供与などのJICAレベルの連携協力に加えて、大学間交流協定の締結や日本学術振興会による学術交流システムとの有機的連携を図ることが望ましい、と提言している。

5. 技術革新が速い分野の協力

電気通信や電力、コンピュータなど、技術革新が速い分野については、日本の協力終了後、相手側実施機関が積極的に新技術の導入・習得を図らなければ、技術の陳腐化などにより、協力の成果を維持・発展させていくことが困難となる。

このような分野の協力への対応として、インドネシア第三者評価「組織・制度造り/能力開発」においては、電話線路の保全技術自体はもちろんのこと、その周辺の電話線路保全要員の意識、作業環境などは、技術革新に伴いながら有益なノウハウとなって定着するものであり、これは、本分野における開発途上国への技術移転、特に組織・制度造りにおいて重要な要素である、と指摘している。また、フィリピン「技術教育教材作成」(第三国集団研修)の評価では、コンピュータ分野は、技術革新の周期が短く、ハードウェア、ソフトウェアとも新規更新が短期に求められるため、更新のたびに多大な経費が必要となる。よって、コンピュータを利用した教育教材作成分野の研修を実施する際は、教材開発の考え方など、特定のハードウェア、ソフトウェアに依存しない部分の研修の比重を高める工夫が必要である、と提言している。