Q.パキスタンをテーマにした理由
2005年10月にパキスタン北部で大地震が起きました。
その時に9万人もの人々が犠牲になったんですけれども、学校などの教育施設、5,000もの校舎や建物が倒壊してしまいました。
未だに半数以上の校舎が再建されない状態なんですけれども、「国境なき子どもたち」としてその校舎を再建するプロジェクトを行っています。
私も写真家でもあるんですけれども、「国境なき子どもたち」の職員として現地に行って、その再建の様子とかプロジェクトの進行を見つつ、子どもたちの様子の写真を撮っています。
Q.印象的な写真とエピソード
先生が女の子に、指をこのようにして、算数を教えている写真があるんですけれども、ここの村は学校が倒壊してなかなか予算がないせいか、学校が再建する目処が立っていなかったんですね。
村人たちは子どもたちに何とか学校に来てもらいたい、ちゃんとした場所で勉強してもらいたいって気持ちが強くて、村の人達がお金を出し合って、簡単な小屋みたいなものなんですけれども校舎を作りました。
その狭い校舎の中で、小学校の1年生から6年生までが勉強してるんですけれども、一部屋しかないので、それに対して先生は一人しかいないんですね。
一部屋しかないので、先生が1年生を教えた時は、他の学年の子たちは自習をしているといった、そういった状況で授業を進めていくんですけれども、数は50人、60人くらい子どもたちが集まってるので、子どもたちからすると1日ほとんど自習の時間になっています。
先生に、「この子にちょっと何か教えてもらえますか?」ってお願いをしたんですね。
そしたら、ある女の子に教科書を開いて、先生が「リンゴがいくつある?」。
足し算だと思うんですけれども、りんごを2個と3個足したらいくつだよってことを丁寧に教えてくれて、女の子の手を取って指をこういう風にしてたんですけれども、その女の子の表情を見た時に、嬉しいっていう表情と、あと「何で今日は先生こんなに教えてくれるんだろう?」っていうような戸惑いの表情もちょっと見えたんですね。
悪い言い方すると、やらせみたいなものであると思うんですけれども、ただ、外部の人間、私が写真家として外部から入ったことによって、この子は多分初めて、今1年生なんですが、初めて先生に丁寧に教えてもらったっていう、その瞬間だったんですけれども、それが僕にとっても、写真としても印象に残っていますし、彼女のその表情というんですか、嬉しいような驚いたような戸惑ったような表情というのがすごく印象に残った写真ではあります。
Q.現地が抱える問題について
校舎がない学校って、子どもたちが通って勉強してるんですけれども、一言で言うと青空教室なんですね。
青空教室と言うと、イメージ的にはなんかすごい楽しそうな、ピクニックのようなイメージがあると思うんです。
ただ、イスラム教の女の子、特に年頃の女の子にとっては、外で勉強するということは、もちろん雨もそうですし日差しもそうですし、それだけではなくて、村人の男性からの目にもさらされることになるんですね。
それは女の子たちにとってすごく辛いことで、一番辛いことはなんですか?っていう質問を女の子たちにした時に、僕は雨とか、天気とかそういったもので授業が遮られることが大変なんだっていう答えをちょっとイメージしてたんです。
けれども彼女たちの口からは、いっぱい男性から見られることが一番辛いんだっていうのがすごく印象に残った言葉でした。
山奥なので山を一つ二つ越えて通ってくる子どもたちもいるんですね。
あぜ道というか、道のないような道を1時間も2時間もかけて通ってくるっていう子たちもいて、そこまでしてやっぱり勉強したいのかっていう、その子どもたちの気持ちと、あとは勉強したいだけではなくて、子どもたちが、特に女の子は学校に来て友達と話をしたり、先生と話をしたりっていう、自分の楽しい時間を過ごすことができる場所が学校なんだなっていうのをすごく感じました。
そこで新しく校舎ができると、そこには机があって、椅子があって、もちろんトイレもあって、綺麗な建物ができるんですね。
そうすると子どもたちの出席率も高くなります。
それは、もちろんトイレがあるということもあるんですけれども、家から送り出す親御さんも、子どもたちが安全に、安全な場所で勉強ができるということ。
知らない男性の目に触れないっていうものも、母親としてはすごく安心する部分ですね。
Q.タイトルに込められた思い
今回このタイトル、「取り残された村」というタイトルをつけたんですけれども、「取り残された」というのは、やはり地震から、もう15年が経っていて未だに校舎が再建されていないっていう事実も驚くべきことではあるんです。
けれども、そのことを日本の人たちは知る由もないと思うんですね。
そういった学校に校舎がなくても、そこは学校で、そして子どもたちが通ってきていて。
でもそれをほったらかしにするわけではなくて、やはり大人たち、村の人たちも子どもたちに勉強させてあげたいってことで、本当に自力で小屋のような校舎を建てて、子どもたちに環境を作ってあげている。
そういった地域の人たちの努力や気持ちがあって初めて支援に繋がるんですね。
村の、本当に山奥にある村々なので、どうしてこんなとこに、不便なとこに住むんだろう、という所にみなさん住んでいるんですね。
そういった所ってどうしても忘れられがちであって、しかも問題としても、緊急的な支援とか、ということではあまりないので、人がなかなか見向きもしないような所で写真を撮って皆さんにお伝えするというのは、とても意義があるんじゃないかなとは思っています。
Q.清水さんにとってパキスタンとは
パキスタンに行く前は実は少し怖いイメージがありました。
ただ、行って街を歩くと、みんな笑顔で声をかけてくれるんですね。
パキスタンという国は、「いい意味で裏切られる」、そういう国だと思います。