協力隊を育てる会・明石会長が訪ねる
グローカルプログラムの現場

1976年の発足以来、50年間にわたって協力隊事業への支援を続けてきた一般社団法人 協力隊を育てる会。
今回、「グローカルプログラム(派遣前型)」(以下、GP)で実習中の候補者を同会の会長が訪ねた際の様子を紹介する。

明石要一会長
明石要一 会長

一般社団法人 協力隊を育てる会

「民間の立場で広く国民に青年海外協力隊事業への理解を求め、協力隊事業に対する民間の支援の輪を広げていく」との目的を掲げて1976年に発足した団体。現職参加推進や各種イベントでの相談対応といった派遣前の段階から、小さなハートプロジェクト(詳細はこちらへ)などを通じた派遣中隊員への支援、帰国隊員への助成金事業の実施など、各フェーズで協力隊事業を支える取り組みを行っている。

日本でも、世界でも─協力隊と共にある〝応援者〟たち

   JR佐賀駅から車で1時間弱、佐賀県佐賀市の北端に位置する三瀬村は、山々の間に田畑が点在するのどかな山村である。人口は村内3つの地区を合わせて1,000人余りで、多くの自治体の例に漏れず少子高齢化などの課題を抱える一方、他の地域からやって来て農業などに取り組む移住者もいる。今年3月、この三瀬村でGPに取り組む筒井愛紗さん(ベナン派遣予定/コミュニティ開発/2026年度1次隊)を、協力隊を育てる会の明石要一会長が訪ねた。

日本でも、世界でも─協力隊と共にある〝応援者〟たち
明石要一会長(左)と筒井愛紗さん(右)。筒井さんの活動先、農家民宿 具座では、建物の目の前に広がる畑で採れた野菜で食事を提供している

   2024年に就任した明石会長。自身は協力隊経験がなく、派遣前の候補者の実習・訓練の場をじかに見ることは今回が初めてだ。教育社会学を専門として長年にわたって千葉大学で教壇に立ち、また、千葉県地方創生総合戦略懇談会の会長を務めるなど日本の地方創生にも心を砕いている会長にとって、新卒参加でまだ大学在学中(取材時)の若者世代である筒井さんが地方で活動している様子を視察することは貴重な機会でもあった。

「GPの現場の様子については詳しく知らないので楽しみです。なぜ協力隊に参加したのか、なぜGPでの活動を選んだのか。そうしたことについて、生の声を聞くことができればと思っています」

筒井愛紗さん
筒井愛紗さん
ベナン派遣予定/コミュニティ開発/2026年度1次隊

   筒井さんの出身地は千葉県。GPでの実習先を選ぶにあたって、全く縁がないという佐賀県を選んだのはなぜか。

「一度も来たことがない県なので、“初めて訪れる土地で、何もわからない中、自分のできることを探す”という、協力隊員としてベナンへ派遣された後と同じような体験ができるのではないかと考えました。それに加えて、九州ということで暖かくて過ごしやすい気候という漠然としたイメージがあったことも理由の一つですが、来てみると、たまに雪も降るような寒い場所でした(笑)」

   GPでの活動拠点となっているのは、この三瀬村で約20年前に開業した「農家民宿 具座」。古くから建つ農家の建物を活用した民宿で、いろりや五右衛門風呂など、昔ながらの風情をそのまま生かした施設となっている。宿泊だけでなく農業体験などの各種体験プログラムも提供しており、国内のみならず国外からも多くの人が訪れるという。筒井さんはこの民宿の宿泊客対応など日々の業務に携わる一方、宿の外にも積極的に出て村内の人々と関わり、地域の保健センターなどを介して高齢者と関わることにも力を入れている。

日本でも、世界でも─協力隊と共にある〝応援者〟たち
昔ながらの農家の建物が生かされていて、浴室は五右衛門風呂。筒井さんもかまどで火をたくことがあるという

「これまで高齢の方たちと関わる経験があまりなかったのですが、地域活動で一緒に手足の体操などのレクリエーションをしたり、昔の三瀬村の様子について聞かせてもらったりして接することは楽しい体験です。最初は方言もさっぱりわからず驚きましたが、2カ月ほど暮らして少しずつ上達してきました。突然よそから来た私のことがどう思われるのか不安でしたが、『よう来んしゃったねえ』と包み込むように受け入れてもらえて、地域の温かさを感じています」

   赴任予定のベナンでは、コミュニティ開発隊員として農業を通した住民の収入向上・生活改善のための活動をする予定だという筒井さん。

   GPを通じて得た気づきについて明石会長が尋ねると、「改まって話をするより、一緒に何かの作業をしながらコミュニケーションを取るほうが私に合っているとわかりました。特に、地域の一員として溶け込むならば、やはり共に地域活動やサークルの類いに参加して自分の顔を知ってもらうことが大切なのだと、このプログラムで実感しました」と振り返り、「土を触ることが楽しいと感じているので、まずそういう楽しさをベナンの人々と分かち合い、そこから徐々に地域課題に踏み込んでいきたいと思います」と活動への展望を語った。

日本でも、世界でも─協力隊と共にある〝応援者〟たち
民宿を経営する藤瀬吉徳さん(写真右から2人目)とみどりさん(左端)夫妻

   長らく千葉県で教育に携わってきただけに、「千葉で育った方がさまざまな経験を経て、協力隊に行かれるというのは素晴らしいことですね」と嬉しげに話す明石会長。

   そんな筒井さんが協力隊を志すに至った経緯は中学生時代にさかのぼる。元々負けず嫌いでどの教科にも熱心に取り組む性格だったというが、特に中学校で初めて学んだ英語には楽しさを感じて積極的に学び、千葉県立成田国際高等学校に進むと、英語を使って海外の人々と関わる仕事に就くという将来図を持ち始める。さらに進学した津田塾大学の多文化・国際協力学科で国際協力について学び、今後の進路を模索するため、実際に途上国の現場を経験したいと考えて3年生の秋に協力隊に応募。3月に大学を卒業して派遣前訓練に入る。

「一介の大学生という立場で、こうしてGPで知らない土地に入ってみると、自分にできることの少なさを実感してもどかしい思いもあります。協力隊での2年間を経て、自分自身をもう少し成長させたい。そして、胸を張って三瀬村に戻ってきて活動報告ができるよう、精いっぱい活動したいと思っています」と話す筒井さん。三瀬村での暮らしを通じて、自身が地元のことをあまり知らないことにも改めて気づかされたという。

「町の歴史についてはいくらか学んでいても、今どのような人がいて、どのような地域活動をしているのかは全くわかりません。むしろ、三瀬村の事情のほうがよく知っているくらいです。少子高齢化の課題は私の地元にも共通しているでしょうし、この活動を経て、自分の生まれ育った地域にも目を向けたいと思うようになりました」

   隊員候補者の活動を間近に見た明石会長は、その生の声を聞いて大いに刺激を受けた様子で「派遣前訓練など、今後の様子も引き続き追っていきたい」と話す。“応援者”たる協力隊を育てる会の代表として協力隊事業に対する日本国内での理解促進も強く意識しており、「筒井さんの国際協力への興味のルーツが中学時代にあると聞いて、大きなヒントをもらったと感じています。そうした世代へのアピールも含め、今後もさまざまな形で協力隊を支援していきたいと思います」と意気込んだ。

Text&Photo=飯渕一樹(本誌)