薮下拓紀さん
薮下拓紀さん

ガーナ/経営管理/2023年度1次隊・千葉県出身

大学卒業後、株式会社小松製作所に入社。国内外の仕入先との交渉・調達に携わる。入社4年後の2023年から協力隊員としてガーナで活動。25年に任期を満了して帰国・復職した。

応募者へのMessage

協力隊活動を経て、英会話への抵抗がなくなったのは自身の大きな変化です。下手なことは自覚しつつも話すのを諦めないことで、上達してきたと感じます。また、現職参加の場合は帰国後の居場所があることが精神的に良かったです。先々の進路を心配せず、目の前の活動に集中できるのも職場に籍を残して参加するメリットだと思います。

新卒参加

会社員経験を途上国で生かし、
協力隊経験を日本社会へと還元する─
現職参加を経て感じる成長

現職で参加した薮下拓紀さんの場合

JICA海外協力隊員ってどんな人?
カイゼンについて説明する薮下さん。業務の優先順位を付けることや会社間で事例を共有することなど、コマツでの業務経験が活動に役立ったという

   建設機械大手の株式会社小松製作所(以下、コマツ)に勤める薮下拓紀さんが協力隊への参加を決めたのは、入社から4年目のことだった。

「仕事に生かそうと中小企業診断士の資格を取得した時期に偶然見つけたのが、西アフリカのガーナで中小企業の現場の改善をする要請。応募条件が中小企業診断士の資格や企業でのコンサルティング経験などと自分にぴったりで、これは運命だ!と応募を決意しました」

   薮下さんが国際協力に関心を持ったのは、大学時代にさかのぼる。

「ゼミのテーマが開発経済や国際協力で、卒業前には1カ月間ケニアへ行き、聴覚障害のある人に職業訓練をするNGOでの活動を経験しました。ただ、短期間では何もできずに不完全燃焼で、いつかまた力をつけて再挑戦したいとの気持ちがありました」

JICA海外協力隊員ってどんな人?
配属先の同僚たち。のんびりした“ガーナタイム”に程なく慣れた薮下さんだったが、配属先長が時間を守らないことだけは許せずにケンカしたことも。「とはいえ、僕の活動に共感して親身になってくれる好人物でもあり、文化のギャップだったと理解しています」

   過去にコマツから協力隊に現職参加したケースはあったものの、それはかなり前のことだった。長年にわたって使われていなかったボランティア休職の制度を活用するため、社内の理解を求めていく必要があった。

「ちょうど同時期に別の部署への異動が決まり、新しい上司に応募の旨と、合格した際には休職したいことを伝えて仕事の割り振りをお願いしました」

   その後、協力隊参加が決まって業務の引き継ぎなどをすることになったが、業務の都合により後任との実質的な引き継ぎができる期間はわずか3日ほどしかなく、「細かな案件はできる限り私のほうで終わらせて、資料も用意。心残りな部分もありましたが、割り切って後任に託しました」と振り返る。

JICA海外協力隊員ってどんな人?
ラジオに出演し、ガーナの民族語の1つであるチュイ語で情報発信した時の様子。公用語は英語だが、数十もの民族がそれぞれの言語を持ち、各民族語をメインに使っている人も多い

   休職5日後には、二本松青年海外協力隊訓練所での派遣前訓練がスタート。社会人として働いていた薮下さんにとって、全てが新鮮だった。

「ずっと働きながら資格などの勉強をするのが当たり前だったので、日々勉強だけに専念できる環境は恵まれていると感じました。いつも周りに誰かいる合宿生活に初めは戸惑いましたが、休日に皆と登山に行ったり、音楽経験もないのにウクレレバンドを組んだりなどして、新しい自分になったような日々でした」

   充実した訓練生活を経て赴任したのは、ガーナの首都アクラから車で約8時間のマンポン市。ビジネスアドバイザリーセンターという、地元企業を支援する商工会議所のような機関が配属先だった。最初の2~3カ月はまずセンター長に同行して現地を知ることから始め、少しずつ企業の困り事を探っていった。そして、赴任から9カ月たった頃に実施したのが「カイゼン大会」。地域にある中小企業5社の参加の下、在庫や注文の管理などを改善するためのコンサルティングを実施。2カ月後に各社から成果を発表してもらう企画だった。「結果は上々で、身近にロールモデルができたことで『自分たちもやってみよう』と取り組む企業が現れたことも良かったですね」。

JICA海外協力隊員ってどんな人?
帰国した年の11月に都内で行われた協力隊60周年記念式典では、ガーナの布の切れ端から作った衣装を着たグループを率いて、壇上で踊りを披露した

   任期満了に際しては「ガーナのゆったりした仕事環境に慣れた自分が、日本の職場で働けるか不安でした」と振り返る薮下さん。有給休暇を活用し、帰国から3週間ほど休養や引っ越しなどの期間を挟んで職場復帰した。

「戻ったのは2年前にいた元の部署で、人員はすっかり入れ替わっていました。環境には案外すぐに慣れて仕事のリズムを取り戻しましたが、同僚と何時間も雑談したりするガーナが恋しい気持ちも、半年ほどは強く感じていました」

   協力隊への現職参加を経て、仕事の在り方にも変化があったという。

「ガーナでは自分の意見をはっきり言わなければ伝わらないことも多かったので、英語で積極的にコミュニケーションを取る経験が帰国後も生きています。他国の企業との打ち合わせでも一人でどんどん前に出られて、海外の案件に関わることも増えました」

   今後は、一層いろいろな国とつながって仕事をしていきたいという薮下さんの視線は、次の世界へ向けられている。 

任地メモ

ガーナで覚えた現地流の食事マナー

   ガーナには、キャッサバと調理用バナナをゆでてつぶした「フフ」という食べ物があります。日本の餅のような質感の主食で、一口大にちぎって辛いスープなどと共に食べるのですが、かまずにのみ込むのが現地流。当初、ホームステイ先でよくかんで食べていると「これはのみ込むもので、それはマナー違反だよ」とホストファザーの指導が入りました(笑)。1回の食事で結構大きな塊が供されるのですが、かまないと満腹中枢があまり刺激されないのか、意外に食べ切ることができます。僕も帰国する頃には、“のみ込む技”を習得する以前と比べると倍くらいの量を食べられるようになりました。

JICA海外協力隊員ってどんな人?
臼ときねでフフをつく薮下さん。日本の餅つきと同じく、合いの手の人が水をつけながらこねていく
JICA海外協力隊員ってどんな人?
スープに浸されたフフ。手でちぎってスープを絡め、つるっとのみ込んで食べる

協力隊への現職参加

現職参加とは、仕事を辞めずに協力隊に参加することで、所属先の制度と承認に基づいての参加となる。民間企業と公務員などで異なるため、自身の所属先の制度をよく確認すること。現状、無給休職での参加が多くなっているものの、有給での参加が認められる場合もある。教員の場合は、一般公募に加えて、現職教員特別参加制度での応募の機会がある可能性もある。

現職参加について

現職教員特別参加制度について

Text=池田純子 写真提供=薮下拓紀さん