知られざるストーリー

2015年に発足50周年を迎える青年海外協力隊。これまでに派遣されたJICAボランティア(注)は延べ4万5,114人で、現在も2,292人が世界各国で活動中だ。2012年には企業と連携した「民間連携ボランティア制度」も開始し、開発途上国での活躍はもちろんのこと、帰国後の社会還元活動やグローバル人材としての活躍などへの期待も高まっている。
国内外で活躍するJICAボランティアとその経験者の活動については、安倍晋三内閣総理大臣も高く評価。6月に行われたアフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)や2013年8月に行われた「内閣総理大臣主催 青年海外協力隊を激励する会」(以下、「激励する会」)、ジブチ視察の際にも感謝と激励の言葉をかけている。

「青年海外協力隊は日本外交の宝」


写真

「皆さんのような若者がいる限り、日本の未来は明るい」と語る安倍首相

2013年8月1日に首相官邸で行われた「激励する会」(こちらを参照)には、2012年4月1日から2013年3月31日までの間に帰国した青年海外協力隊員と日系社会青年ボランティア約1,100人のうち、87人が招待された。首相が主催する同様の会は2003年から行われており、今回は5回目となる。

安倍首相は「激励する会」のあいさつで冒頭、6月に行われたTICAD Ⅴについて触れ、「多くのアフリカの首脳から、青年海外協力隊の活動に対する感謝の声が寄せられました。私は開会式において『青年海外協力隊の皆さんは日本外交の宝である』と申し上げました。アフリカの首脳がそのことを雄弁に物語ってくれました」と紹介。続けて、「アフリカだけではなく、多くの開発途上国において、献身的な活動をされている皆さんの仲間に対して、各国の指導者から草の根の人々に至るまで、あらゆるレベルで感謝の声が寄せられています」と述べた。

さらに、「我が国に寄せられる世界の信頼、また東日本大震災の際に世界中から寄せられた支援と共感の表明は、青年海外協力隊の皆さんが派遣国の人々と共に考え、共に働き、信頼と友情の絆を世界中に築き上げてこられたことが大きく寄与していると思います」と述べ、日本と世界各国との信頼関係の礎をJICAボランティアが築いていることを称えた。

百聞は一見にしかず

首相がTICAD Ⅴで「感謝の声を寄せられた」と伝えたアフリカ地域。「激励する会」でJICAボランティアを代表して活動を報告した大庭晴香さん(2011~2013年/エチオピア/村落開発普及員)は、そのアフリカ地域で活躍した青年海外協力隊員のひとりだ。

写真

出席したJICAボランティア経験者を代表してあいさつする大庭さん

大庭さんは、より多くの人々が安全な飲料水を安定的に入手できるようになるために日本政府が派遣する「水の防衛隊」の一員として、水資源事務所で水の維持・管理・調査に関する支援活動を行った。着任当初は、水を原因とした疾患の減少や水を運搬する手間の軽減が住民のモチベーションになるだろうと考えていたが、「私が思っているほど、現地の人は安全な飲料水が得られる給水施設を求めていないという事実に直面した」という。しかし、支援対象を見直したことで給水施設が住民により自主的に運用されるようになり、この事例をモデルケースとして事務所の同僚に活動を引き継ぐことができた。さらに、「同僚たちは作業の見直し活動である『カイゼン』、時間に対する意識、『整理整頓』に関心を示し、取り入れてくれました」と、業務の効率化に関する日本の知恵を伝えることもできたと振り返った。
一方、協力隊経験で自らが得た気付きについては、「派遣前は、1日1ドル未満の生活を送る同僚と働き方について考え、話し合う自分を想像できず、まさに百聞は一見にしかずだと感じました。1ヵ所に腰を据えた草の根の活動から複眼的思考を深められ、一点を見つめることの意義を実感しました」と述べ、そうした経験を生かしながら、「世界が多文化共生へと向かうなかで、平和で豊かな社会が実現できる一助となれるように、人との縁を大事にし、歩み続けていきたい」と誓いを立てた。
大庭さんは、在籍する企業の「ボランティア休職制度」を利用して協力隊に参加。現在は復職し、海外事業を行う部署に所属している。今後について「このボランティア経験を業務でも生かし、いずれアフリカにかかわる業務ができれば」とも語った。

多種多様な青年海外協力隊活動

「激励する会」には、アフリカ以外の地域で環境教育、保健衛生、教育などさまざまな分野で困難を乗り越えながら現地の人々と信頼の絆をつくり、活動を展開してきた青年海外協力隊員たちが招待された。

中南米地域のエクアドルに派遣された田中鏡介さん(2010~2012年/エクアドル/環境教育)は、現地の環境保全NGOに配属され、小学校で環境教育の授業に取り組んだ。子どもが楽しみながら学べるアクティビティを提案し、多くの教材を開発。なかでも、海から一滴の雨水が誕生し、海に還るまでの循環を表現する「水循環体操」は、環境教育の導入アクティビティとして現地に定着している。
多くの活動を提案した田中さんだが、すべてが思いどおりに進んだわけではない。「イベントを開催する予定でいたらアイデアを盗まれたり、計画が急に中止になったりしたこともありました」と田中さん。しかし、失敗や苦労のなかから、「自らが働きかける姿勢こそが大事」ということに気が付くこともできた。
帰国後は、この「自ら働きかける姿勢」を出身地である高知県で生かしたいと考え、高知県庁に入庁。現在は、土木課で活躍するかたわら、県庁が受け入れている南米からの研修生の通訳も務める。「将来は、一過性のブームをつくるだけではなく、根本的な部分で県を元気にできればと考えています。私が環境への興味を持つようになったのは、さかのぼれば高知県の自然が私を育ててくれたことが根本です。その自然を資源にした地域おこしができればと考えています」と、日本を元気にする協力隊員のひとりとして、今後の活躍が期待される。

大洋州地域のフィジーに派遣された橋本真理子さん(2011~2013年/フィジー/小学校教諭)は、現職参加。小学校で授業を行って教員に参観してもらう教員向けの巡回指導やワークショップを行った。また、同国で情操教育にかかわる青年海外協力隊員たちと協働し、ワークショップの実施や教員向けアイデアブックの作成にも従事。このアイデアブックは、国内のすべての小学校(約740校)に配布される予定だ。さらに、活動中から社会還元活動にも取り組み、フィジーの風土や日常を紹介した「フィジー通信」を、日本の学校に向けて配信。帰国後もこれを資料として活用していければと考えている。
帰国して小学校に復職した現在、橋本さんはボランティア経験の社会還元活動について次のように考えている。
「特別なことを行う以上に、ボランティア経験を経た私が日本の未来を担う子どもたちや、その子どもを育てる親や教員と語り合うことこそが、重要な社会還元活動のひとつだと考えています。実際、私のボランティア経験に興味を持ってくれる保護者も多く、保護者会でフィジーの生活について話すこともあります。ホームルームで子どもたちにフィジーでの経験を話すことで、子どもなりに世界で起きている出来事に興味を持ち始めている様子も伺えます。これにより、開発途上国と日本との間が少しでも縮まれば、協力隊経験が生きることになるのではないかと思っています」

写真

「激励する会」の懇談会の様子。一番左が小林さん。

ベトナムに派遣された小林志野さん(2011~2013年/ベトナム/看護師)は、ドンナイ省総合病院救急・ICU病棟に配属され、現地の看護師とともに看護業務を実施し、技術指導を通して看護の技術や意識の向上を目指した。赴任当初は言葉もうまく話せず、病棟に初めて配属される「ボランティア」という立場だったために、「実習生」のように扱われてしまい、「何をしにきたのだろう」と落ち込むこともあったという。しかし、語学力の向上と人間関係の構築に力を注いだ結果、1年が経ったころから活動が本格化。日本人として感じたベトナムの医療への疑問をレポートにまとめて配属先に提出すると共に、繰り返し毎日働きかけ続けることで、必要と認められた改善はなされるようになった。「時間がかかることだけれども、何事も信頼関係を築いてから行うことが大切だと身に染みました」と小林さんは振り返る。
赴任3ヵ月後に東日本大震災が起こり、「日本にいたら何かできたのに」と感じた小林さん。それ以来持ち続けていたもどかしさを払拭するため、現在は復興庁の復興支援員として宮城県岩沼市の市役所社会福祉課で働いている。

「世界をより良い未来へ」


写真

在ジブチ日本国大使公邸で安倍首相と面会する青年海外協力隊員たち。安倍首相と水野さん(中央)、渡邊さん(左)

安倍首相は、現在派遣中の青年海外協力隊員にもエールを送る。大統領との会談などのため2013年8月27日にジブチ入りした安倍首相。同国では青少年活動、植林、教育、コンピュータ技術、統計、保健、家政などの職種で青年海外協力隊員が活動しているが、首相はタイトな滞在日程のなか、現地で10人の青年海外協力隊員と面会した。
各隊員の自己紹介を受けた後、安倍首相は「皆さんの活動は重要な日本外交のひとつです。猛暑という厳しい環境のなかでの活動は大変だと思いますが、日本とジブチの架け橋としての活躍を期待しています」と激励し、一人一人と握手を交わした。
面会した青年海外協力隊員たちは、「首相として青年海外協力隊の活動に関心をいただいているとのことで、自分たちが『日本の代表』であるということを再認識できた」「青年海外協力隊の活動の重要性について話していただき、大変光栄だった」「私たち一人一人に声を掛けてくださるなど、首相の人柄がうかがえた」などと感想を述べた。

帰国後、それぞれの職場でボランティア経験を生かしながら活躍するJICAボランティア経験者たち。また、各派遣国で人づくり、国づくりのために活躍する派遣中のJICAボランティアたち。そんな彼らに向けて安倍首相は、「激励する会」のあいさつの終わりで次のように激励した。
「世界各地で現地の人々をパートナーとして開発課題の解決に取り組んだように、これからもそれぞれの場所において全力を尽くしてほしい。皆さんの活躍が日本の新たな成長の歩みを着実に進め、世界をより良い未来へ導いていくことを信じております」

(注)これまで、延べ3万8,315人の青年海外協力隊員が88ヵ国に、延べ5,219人のシニア海外ボランティアが71ヵ国に、延べ1,145人の日系社会青年ボランティアが9ヵ国に、延べ435人の日系社会シニア・ボランティアが10ヵ国に派遣された。現在も2,292人が79ヵ国で活動している(2013年8月31日現在)。

 

 

前へ一覧へ次へ