知られざるストーリー

官・民連携で実現した国際協力プロジェクト

150以上の国と地域で国際協力事業を展開しているJICAと、グローバルな視点で社会貢献活動に取り組むソニー。「官」と「民」が連携して開催したのが、HIV・エイズ予防啓発活動とサッカーの試合のパブリックビューイングとを融合させたユニークなプロジェクトだ。 昨年からアフリカ・ガーナ共和国の15地域18会場で開催され、大きな成果を上げて注目されている。同プロジェクトに携わった3名の方々に、官・民連携の意義や成果などについて語っていただいた。

パブリックビューイング イン・ガーナ概要

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ワールドカップ開催期間(6月11日~7月11日)中に、青年海外協力隊員ら現地のJICAスタッフと日本から赴いたソニー社員がキャラバン隊を組み、ガーナ国内15地域、計18会場をまわり、大型映像装置で18試合の映像を生中継で届けた。

上映前やハーフタイム時には、青年海外協力隊や地元住民によるHIV・エイズに関する知識を高めるためのクイズ大会や劇を実施。カウンセリングやHIV検診は夜間まで行ったため、数多くの人が受検することができた。

200インチの大型スクリーンと16個の防水スピーカーが設置された会場では、ガーナ代表チームの得点シーンに歓声を上げるなどワールドカップを満喫した。

今回のイベント参加者総数は18650人、エイズ・HIV抗体検査の総受検者数も、予想をはるかに上回り3000人を超え、官民連携によって行われたプロジェクトの相乗効果がはっきりと示された。使用されたプロジェクターやスクリーンなど、機材のほとんどはガーナへ寄贈された。今後コミュニティーで行われるさまざまな活動やイベントに活用されていく予定だ。

サッカーの力でHIV・エイズの撲滅に貢献

『映像の力で感動を伝えたい』

司会 野村彰男さん 朝日新聞ジャーナリスト学校長
1943年静岡県生まれ。朝日新聞社で論説委員、アメリカ総局長、論説副主幹などを歴任。2003年~05年には国連広報センター所長として企業のCSR活動普及に向け尽力。

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沼田拓也さん ソニー株式会社
コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ
99年ソニー入社。エンジニアとしてプレイステーションや音楽配信などを担当した後、プロジェクターの商品企画に携わる。海外ボランティアの経験も。

野村 JICAとソニーが連携した「パブリックビューイング ・イン・ガーナ」が大きな成果を上げたそうですが、どんなきっかけで始まったのですか?

沼田 きっかけは、サッカー好きな社員の「アフリカの人たちにもサッカーの感動を届けたい」という熱い思いでした。

野村 ワールドカップにも代表チームが出場したガーナは、アフリカでも大変サッカー熱の高い国なんですよね。

松尾 そうなんです。ガーナの人たちのサッカーに対する情熱は、日本人の私からすると驚くほど。でも、ガーナのテレビ普及率は20%程度と低く、私たち青年海外協力隊員が活動している農村部では、テレビを持っている家庭はまだまだ少ないというのが現状です。サッカーの試合がある日は、テレビのある家に大勢の人が集まって、みんなで小さなテレビに映る試合を見ているという光景をよく目にしました。

沼田 そんなアフリカの事情を知り、ソニーの強みでもある映像の力を生かすことのできる、パブリックビューイングのプロジェクトが立ち上がりました。せっかくなら、より現地の人たちに役立つ活動にしたいということになり、現地で国際協力事業に精力的に取り組んでいるJICAに相談をさせていただきました。

北野 ちょうどJICAでも、官・民連携による国際協力事業に力を入れようと「民間連携室」を立ち上げたばかりの頃でした。結局、青年海外協力隊がガーナで行っているHIV・エイズ予防啓発活動にパブリックビューイングを組み込んではどうかということになり、協働することになったのです。

野村 実際にはどのような活動を?

沼田 松尾さんはじめ現地で活動中の青年海外協力隊の方々と、日本から赴いた我々ソニーの技術者がキャラバン隊を組み、ガーナ国内18会場をまわりました。200インチの大型スクリーンでワールドカップの試合を上映したのですが、映像を食い入るように見つめる子どもたちのキラキラ輝く瞳には感動しました。そんな子どもたちにとって「サッカー選手になりたい」とか「人が喜ぶ製品を開発するエンジニアになりたい」とか、将来の夢につながるきっかけとなっていれば嬉しいです。

青年海外協力隊が築いた信頼関係

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松尾詩子さん JICA 青年海外協力隊隊員
1981年生まれ。2008年からガーナ・アシャンティ州に派遣。郡役所職員と地域を巡回しエイズ教育支援やHIV・エイズ対策のワークショップの企画・実施に参加。

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北野一人 JICA 青年海外協力隊事務局 次長
1959年大阪府生まれ。青年海外協力隊として2年間モルデイブで水泳を指導。青年海外協力隊訓練所、アフガニスタン事務所勤務などを経て09年5月より現職。

野村 HIV・エイズ予防啓発活動とパブリックビューイングをどのように組み合わせたのですか。

松尾 はい。たとえば私の任地のフンタノというコミュニティーでは、小中高生や若者ら約500人を対象にイベントを開催しました。地元の中学生チームによるサッカー大会を行い、ハーフタイムにHIVに対する正しい知識に関するクイズゲームを実施。さらに、HIV・エイズへの偏見や差別を軽減するためのダンスドラマや、HIV陽性者による講演などを行いました。その後で、パブリックビューイングによるサッカー観戦を楽しんでもらいました。

野村 今回のプロジェクトに対する現地コミュニティーや行政府の人たちの反応はいかがでしたか?

松尾 とても喜ばれましたね。イベントが終わって1週間ほどたった頃、わざわざ私に会いに来て「本当にいいイベントだった」と言ってくれた人もいたほどでした。今回、私たちは「パブリックビューイング ・イン・ガーナ」を、地元コミュニティーの人々が主体となって企画、準備、実施するイベントにしたいと考えていました。そこで、イベントの主旨を正しく理解してもらおうと、現地に何度も足を運んで交渉を重ねたのです。おかげで、私たちの狙い通り、ガーナの人たちが自分たちの手で、自分たちのために実施したイベントになりました。そういう意味でも、今回の成功はうれしかったです。

野村 イベント全体では、どれぐらいの人たちが参加されたのですか?

松尾 総参加者数は約1万9000人にのぼりました。日頃、私たち青年海外協力隊員が現地の保健局や郡役所の協力を得て行っているイベントよりも、はるかに多くの人を集めることができたのは、やはりパブリックビューイングという、新鮮なイベントを提供することができたおかげだと思います。

沼田 我々ソニーの力だけではあそこまでたくさんの人たちを集めることはできなかったと思います。松尾さんたち青年海外協力隊の隊員の皆さんが、PR活動や地元の人たちへの協力要請をし続けてくれたからこそ、あそこまで多くの人たちに集まってもらえたのだと思っています。

松尾 会場ではイベントと並行してHIV・エイズ抗体検査を実施したのですが、パブリックビューイングを行った今回は夜間も電気を使うことができ、そのおかげで検査も夜まで行うことができました。結果、3000人を超える人が検査を受けることができました。昼間は仕事があるため、これまで検査を受けることができなかった人たちにも、今回初めて検査を受けてもらえた。それもよかったと思います。

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プロジェクトの意義や成果を語るメンバー。松尾さんはガーナからテレビ会議で参加した。

野村 JICAとソニーが連携して行ったからこその成果だったわけですね。北野さんは今回の成功のカギはどこにあるとお考えですか?

北野 まず一つは有志社員のアイデアを会社として受け止め、社内プロジェクトにしたソニーという会社の度量の大きさがあると思います。そしてもう一つは、アフリカという厳しい環境の中でもソニーの機材がちゃんと稼働したこと。これによって、日本企業の誇る技術をアフリカの大地で証明することができました。
一方、青年海外協力隊の隊員たちが、これまでの活動を通して培ってきた、現地の人たちとの信頼関係も大きいと思います。現地の人たちと信頼し合うことは、青年海外協力隊はじめ、JICAの海外ボランティアが現地で協力活動をする上で最も大切にしていること。それはまた、企業が海外で仕事をするときにも、まず最初に必要なものではないでしょうか。

官民連携でグローバルな人材を育成

野村 松尾さんと沼田さんは、今回のプロジェクトへの参加を通して、今後の仕事や活動に生かしていきたいと思ったことはありましたか?

松尾 残りの任期が3カ月だった私は、それまでの活動の集大成のような気持ちで参加しました。プロジェクトを通して、これまでの活動の中で知らないうちに築けていた人間関係や、ネットワークを実感できたことは大きな収穫だったと思います。 帰国後は、現地の人たちと一緒に暮らしたからこそわかるアフリカの素晴らしい面、明るいイメージを身近なところから発信していきたいと思っています。

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沼田 二つあります。一つ目は、今回のプロジェクトを経験したことで、これからの製品にもつながる様々なインスピレーションを受けたこと。
二つ目はアフリカの可能性です。アフリカにおけるビジネスチャンスは今後ますます高まっていくだろうということを、現地へ行ったことによって肌で感じました。

北野 時代の流れが変わってきていますよね。これまで青年海外協力隊が活動してきたアフリカやアジアの開発途上地域は、日本企業のターゲットではありませんでした。ところが最近は、企業の多くが海外でCSRを始めたり、BOPビジネスに高い関心を示す企業があったりと、我々が活動している開発途上地域が、ビジネスのターゲットになってきています。そういう意味では、民間企業と青年海外協力隊が一緒に活動することで、お互いにこれまで得られなかったような成果をもたらし合えることは多いと思います。

野村 「日本にはグローバルな人材が不足している」とよく言われますが、民間企業も、今回のような国際協力事業を行うことによって、沼田さんのような人材、グローバルな視点を持って活躍できる人材を育てることができるのではないでしょうか。グローバルな人材を育てるという意味では、青年海外協力隊も大変大きな可能性を持った活動だと言えると思うのですが、その点に関してはどうでしょうか。

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北野 グローバルに活躍するためには、先ほどお話ししたような、相手の国の人々と信頼関係を構築できる能力、相互理解を促進できる能力が必要だと思います。でも、そういった能力は、半年から1年以上現地で暮らし、現地の人たちと同じ言葉を話し、同じものを食べて、というような地道な努力の上にはじめて体得できるものだと考えます。2年間、現地の暮らしにどっぷりつかりながら、それぞれの活動をやり遂げる青年海外協力隊に参加することで、そういう素養は自ずと磨かれていくと思います。これからグローバルな人材を欲している民間企業には、青年海外協力隊にもっと注目していただきたい、という思いはありますね。

野村 「パブリックビューイング・イン・ガーナ」の成功は、今後の官・民連携事業にとって、大変いい事例になったようですね。

北野 はい。一民間企業とここまで大きなプロジェクトを共同し、それが大きな成果を収めたことは大変喜ばしいことだと思っています。我々JICAでは、今後も民間企業との接点をもっともっと強め、官・民連携による国際協力事業の可能性を探っていきたいと思っています。

青年海外協力隊~日本を担うグローバル人材~

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緒方貞子
独立行政法人 国際協力機構 前理事長 (特別顧問)

JICAでは、青年海外協力隊やシニア海外ボランティア等、国際協力の志を持った人々を開発途上国に派遣し、彼らの活動を支援しています。参加されたボランティアは、途上国の人々とともに生活し、彼らと同じ言葉を話し、異なる文化・習慣に溶け込みながら、草の根レベルで途上国が抱える課題の解決にチャレンジしています。

途上国の人々や社会に貢献すると同時に、彼ら自身も広い世界観と問題意識、異文化適応力、逞しい精神力、高度なコミュニケーション能力を身に付け、真の「グローバル人材」となって帰国します。

今後日本が生きていくためには、職業人としても、一市民としても、世界的な視野を持ち、行動できる人材が重要です。グローバル化が急速に進む中で、世界の課題に目を向け、それに果敢にチャレンジする人々の志と決意が、今後の日本の原動力になると信じています。

ソニーが取り組む社会貢献活動

時代や社会のニーズに"ソニーらしさ"で応えたい

インタビュー

日本企業の中で社会貢献活動に最も早くから積極的に取り組んできた会社の一つが、ソニーである。

その原点は創業者・井深大氏が記した設立趣意書にある。「国民科学知識の実際的啓発」を創業の目的の一つに位置付けた井深氏は、戦後日本の復興には国民への科学的知識の普及が重要だと考え、1959年に「ソニー小学校理科教育振興資金」を開始した。これがソニーの社会貢献活動の第一歩である。

以来50年以上にわたって、環境負荷の低減や社員のための職場づくり、消費者の期待に応える製品づくりなど、さまざまな場面で企業としての社会的責任を果たす活動を行ってきた。

グローバルカンパニーとして世界を舞台に事業を展開するソニーが、最近特に力を入れているのが、時代や社会のニーズに合わせたグローバルな貢献活動である。地球上すべての人々が平和に健やかに暮らせる国際社会の実現を目指し、2000年に国連が掲げた「ミレニアム開発目標」を重視。アジアやアフリカなど開発途上国を中心に、初等教育の普及、HIV・エイズやマラリアなどの蔓延防止など八つの目標達成に向けたさまざまな取り組みを行ってきた。

2010 FIFA ワールドカップで実施した社会貢献プログラム「Dream Goal 2010」もその一つだ。JICAと連携した「パブリックビューイング・イン・ガーナ」をはじめ、サッカーの持つ力を最大限に生かし、アフリカの未来を支える活動に熱心に取り組んだ。

ソニーでは社会貢献活動においても製品、技術、社員の力、世界に広がるネットワークを駆使し、"ソニーらしい"活動を目指している。

キャッチフレーズは「For the Next Generation」。持続可能な社会を目指し、海外の国際機関やNGOなどとのパートナーシップを通した活動を、世界各地で展開し続けていく。

詳しくはDream Goal 2010をご覧ください。

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