知られざるストーリー

途上国での経験は、その後の人生を大きく変えると思います。

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私が初めてお会いした青年海外協力隊の方々は、ユニセフの活動をはじめた最初のタンザニアで、まだ若い7人の男性でした。隊員同士の連絡の手段がないので週に1度集まっているというホテルのロビーのような場所でした。皆さん離れた地域でひとりひとり活動しているとのことで、「寂しくないですか?」と尋 ねると、「スワヒリ語で挨拶できるようになって、現地の人、子どもたちも仲良くしてくれ寂しくないです!」という元気な答えが返ってきたことを覚えています。それ以来、様々な国でユニセフの活動をしてきましたが、いろいろな国で協力隊の方と出会っています。

26年の活動の中で、アジア・アフリカを中心に多くの途上国に行き、現地の問題を見てきました。とりわけ途上国の子どもの飢えは深刻な問題です。はじめて、タンザニアで子どもの栄養失調を見た時は、衝撃を受けました。報道されているものとは随分違う。アバラ骨が浮き出てとかそういうレベルではなく、6歳くらいなのにズルズルと身体を引きずって地べたを這っている。なぜかと聞くと、赤ちゃんの時にミルクをしっかりもらえずに脳の発育が遅れたため、手足が自由に動かないのです。母乳を代用するものなどありませんし、それを補う教育もありません。私はその子の手を取り、もっと早く出会えていればと日本語で話しかけたんです。すると、地べたにあった泥を私の手の中に入れてくれたんです。優しくしてくれた人に感謝のしるしとして物を渡す。脳は発達していなくとも、そんな感情はあるんですね。

インドでも同じような体験をしました。当時、とても多かった破傷風。その病気で死にかけていた10歳程の男の子と出会いました。その子は大きな目で私を見ていたんですね。その子に触れると、もう本当に足がカチカチで。私は耳元で、「先生も一生懸命やって下さるから、あなたも頑張って生きようとしてね」って言ったんですね、日本語で。そしたらその子が、硬直した喉の奥でウーって何か言っていて、看護師さんに「この子、今なんて言ったんですか」って聞いたんです。そしたら、今死にかけているその子どもが、私に、「あなたの幸せを祈っています」と言ってますって。自分が死にそうな時にも、苦しいとも言わずに、あなたの幸せを祈っていますなんて...。こんなにも子どもは純粋なものなのかと思いました。こういう子どもがいる以上、私はユニセフの活動はずっと続けていこうって思いました。その後も様々な開発途上国でたくさんの子どもに出会いました。ダイヤモンドが出るばっかりに内戦に巻き込まれて死んでいく子どもたち。お母さんがレイプをされ、兄姉は使役にするためにさらわれ、それでも前向きに生きようとする子どもたち。目を背けたくなるような惨状の中でも、出会った子どもたちに甘ったれた子などひとりもいません。みんな生きることに一生懸命で、どの国に行っても子どもが自殺をしたという話は1度も聞いたことは ありませんでした。これから協力隊で行かれる方も、世界中でいろいろな子どもたちに出会うと思います。その中でいろいろ考えさせられることもあるかと思いますが、そういう体験が今後の人生において貴重なものになっていくのだと思います。

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アフガニスタンには二度行きました。一度目は50度もあった暑い夏の時。そのすぐあと、9・11があり、アメリカの空爆があり、どうなっただろう と思って、また行きました。今度は冬で、零下25度くらいになるんです。WHOはその冬に「30~40万人の子どもが死ぬだろう」と発表していたのです が、ユニセフは「1人も死なせない」って私に約束をしてくれました。地べたに寝ている子どもたちに、毛布1枚渡してあげるだけでも命は助かるんです。ユニセフは私との約束があるから多くのロバをチャーターして大量の毛布を子どもたちに届けました。そして誰ひとり死なせなかったんです。でも、死なせないことはニュースにもなりませんし、死なせなかった人のこともニュースになりません。協力隊の活動もそういう地道なものなのかもしれません。

協力隊を目指す方はいろんな国に行かれると思いますが、人のために働くというよりは、みんな一緒だよ、現地のみんなと一緒にやるんだよという気持ちが必要かもしれません。そして、精神的にも健康な状態で行くこと。いろんな場面を見るので、自分の心をしっかり持っていないと大変だと思います。そこで、乗 り越えてゆくための強靭な心を身に付けると思います。そういう意味では、日本に戻ってきてからのことを悩むよりは、とりあえず行かれて現地の子どもと遊ぶのもいいですし、そこに行かないとわからないこともあります。いろんな所、人たちに会って感受性を養って頂ければ、きっとその後の人生がものすごく変わると思います。私もユニセフの活動とは別にシニア海外ボランティアに参加しようかしら、なんて思っていたんですよ。残念ながら69歳までという年齢制限で参加できませんけど(笑)、私も皆さんに負けないようユニセフの活動もまだまだやっていくつもりです。青年海外協力隊になって、途上国の地で私にバッタリ会った時には、是非声をかけてくださいね。今日はありがとうございました。

プロフィール

黒柳 徹子(くろやなぎ・てつこ)

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ユニセフ親善大使

ユニセフ親善大使として26年間にわたり、アフリカとアジアを中心に、28カ国を訪問。メディアを通じてその現状報告と募金活動に従事。多くのテレビ番組に出演し、日本初のトーク番組「徹子の部屋」は35年目をむかえる。著書に累計760万部を誇る界的なベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」 などがある。

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