語学力と技術力不足に悩みながらも
生徒たちと誠実に向き合った2年間。
私が配属されたのは、モザンビーク共和国中部のマニカ州にある、国立シモイオ農業専門学校。農業コースの教員として、畜産学基礎の授業と実習を担当しました。赴任して間もないころは、同僚の先生たちが話している内容がうまく聞き取れず、作り笑顔でごまかす日々。語学力向上のために必死で勉強を続けましたが、つたない語学力で行う私の授業でも、生徒たちが一生懸命聞いてくれたことが唯一の救いでした。
そんな生徒たちを将来畜産業に従事できる人材に育てるため、活動で力を入れたのは実践に直結した授業の導入です。モザンビークにあるものを使って畜産技術を向上できるよう気を付けつつ、理論に偏った教科書を補足するために日本の農業高校の教科書を翻訳して使用。同時に、実践力をつけるために実習に多くの時間を充てました。
例えば、日本に古くから伝わる「頭絡(とうらく)」(※1)の技術。1本の縄を、家畜を縛る道具へあっという間に形を変えて見せたとき、生徒たちは手品のようなこの技術に歓声をあげ、自分もできるようになりたいと真剣に取り組んでくれました。
現場経験の少ない新卒参加だったため、時には実習に失敗することもありました。そのときは、分からないことをそのままにせず、時間をかけて調べた上で、一つひとつ丁寧に対応。この心掛けが実を結び、ゆっくりですが信頼を得て、1年後には教科を任せてもらえるまでになりました。
帰国直前の最後の授業。「君たちはこの国の希望だ」と今までの感謝を込めて伝え、生徒たちが「先生もこの国の希望です」と返してくれたときは、涙があふれました。
(※1) 頭絡(とうらく)…家畜を移動させたり農耕作業を手伝わせたりする際に、家畜を縛って管理するために用いる縄。