渡辺 樹里(わたなべ じゅり)さん

渡辺 わたなべ  樹里じゅりさん

職  種
養殖
派遣国
フィリピン
派遣期間
2012年10月~2015年8月
2016年2月~2016年12月
  • グローバルキャリア
  • # 養殖 # 任期延長 # 短期

持続可能な養殖を開発途上国で実現させるため、
JICA海外協力隊へ。
山岳地帯の棚田で取り組んだのはドジョウ養殖。

2018.01

応募のきっかけ

渡辺 樹里さん

幼少期からの生き物好きがきっかけで水産高校へ。
開発途上国での持続可能な養殖を目指す。

物心付いたころから生き物が大好きで、特に魚に興味がありました。水産業も農業のように、人が食べる分の魚は人の手で育てたいという思いから水産高校に進み、栽培漁業を専攻しました。しかし授業で「東南アジアでは日本による水産開発援助の影響でエビ養殖が急速に発展し、マングローブ林が失われた」と聞き、開発途上国で持続可能な養殖の普及に携わりたいと考えるようになりました。そんなとき、担任の先生から
協力隊の存在を聞いて、それが目標になったんです。
 大学で養殖を学び、1年間食品流通の仕事をしてからJICA海外協力隊に応募しました。父から「ダメだったらすぐ帰ってきたらいい」と言われたのですが、「失敗したら帰ってくればいいというような甘いものではない」と答えたことを覚えています。

現地での活動

(上)2000年の歴史を持つイフガオ州の棚田群 (下)ドジョウの産卵を促すため、メスにホルモン注射を打つ

ゼロからスタートした山岳地帯での養殖。
任期延長、再赴任で軌道に乗せたプロジェクト。

私の赴任先は、フィリピンの首都マニラから車で9時間ほどかかるイフガオ州マヨヤオ町。町役場の農業事務所に配属され、世界遺産に登録されている棚田の保全と、現地の人々の生計向上を目的とした水田での淡水魚養殖を行うことになりました。現地の人はドジョウを好んで食べていましたが、すでに絶滅に近い状態だったため、標高1000メートルの山岳地帯にドジョウの養殖を根付かせるプロジェクトを始めました。
 とはいえゼロベースからのスタートで、試行錯誤の連続です。特に養殖用の親魚の確保が難しく、遠く離れた村の水田まで採りに行っていたのですが、5回に1回くらいしか採れなくて大変でした。また自分の技術不足のため何度も種苗生産に失敗し、同僚や協力農家の意欲が下がっていったことにも悩まされました。
 転機となったのは、放棄されていた町営養殖場の再利用に踏み切ったこと。配属先の年間予算だけでは再建費用を捻出できませんでしたが、JICA事務所のスタッフが、隊員の活動経費を配属先に代わってJICAが支給する「現地業務費」の申請を提案してくれて、これが大きな足掛かりとなりました。そうするうちに現地の政府も予算を出してくれ、養殖のステーションとして本格的に稼働することができたのです。
 こうしてドジョウを養殖する環境は整いましたが、生き物相手の活動は長期戦で、とても2年の任期では普及には至りません。形に残る成果を残したい、と任期の延長と後任隊員の申請をしたところ、プロジェクトの進捗が評価され、特別に任期延長が認められました。ただ、養殖のような特殊な職種の隊員を探すのは難しく、延長した任期を終えて帰国してから半年後、短期ボランティアとして再赴任しました。
 私が帰国している間も、現地の人たちがちゃんと養殖場を管理して守っていてくれたことに感激しました。配属先は予算がないことが理由でプロジェクトが頓挫する傾向がありましたが、「予算がないなら養殖場で売上を上げて運営費に充てればいい」と意識を転換し、それが実践されていてうれしかったです。養殖場はある程度配属先で運営できるようになり、後任隊員への引き継ぎをすることもできました。

帰国後のキャリア

養殖に特化した水産関係の会社へ入社。
学生のころからの夢を追い続ける。

現在は、JICAの水産分野の技術協力プロジェクトなどを実施するコンサルタント会社で働いています。フィリピン赴任中に、日本からのドジョウの輸入についてアドバイスをもらった会社で、帰国後にお礼の挨拶に行ったときに入社を勧めてもらい、翌月入社しました。人の縁は不思議なもので、私の後任の隊員が、赴任前に養殖に関する専門技術の研修を受けていた会社でもありました。今は国内の水田養殖や、海外からの養殖の研修生のコーディネート、協力隊候補者への技術補完研修(※1)などを行なっています。
 今後の目標は学生のころから変わらず、持続可能な養殖業を開発途上国で実践することです。今までは育てるところまでしかできませんでしたが、これからは、消費者までのつながりを考えていきたいです。消費者の方にも、食物が生産される背景やストーリーをイメージしながら食べてもらえるようにしたいと思っています。
(※1) 技術補完研修は現在行われていません 。

JICA海外協力隊で得たもの

実はJICA海外協力隊に参加する前は、自分のキャリア形成の面で不安がありました。協力隊の経験は実績としてカウントされないと思っていたのです。しかし今振り返ってみると、技術面での経験の蓄積だけでなく、困難や問題に直面したときに柔軟に対処して問題の根本にアプローチしていく力など、今の仕事に生かされているものは多いと感じています。

水産分野への熱い思い

これからJICA海外協力隊を目指すみなさんへのメッセージ

私にとってJICA海外協力隊は、自由帳を1冊頂いたようなものでした。その人次第でそこに自由に、好きな色を塗ることができるからです。でも、そのためには強い意志を持って、協力隊の経験を何に、どうつなげていきたいのかを考え、達成したい具体的な目標を持つことも大切です。そうすれば、結果はどうあれ隊員としての2年間はすごくいいものになると思います。協力隊での経験を、その後のキャリアへどう生かしていくかを考えられる人には、どんどんチャレンジして、自分らしい活動をしてきてほしいですね。

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