バランスの取れた開発でアジアと結ぶ「玄関口」の成長を

2019年9月30日

野菜栽培を通じて生活改善に取り組む人々。生活改善アプローチは「食と栄養プロジェクト」でも活用されている

アフリカの一部でありながら、アジアの文化を基層に、アフリカ、アラブなど多様な文化を取り込んでいる島国マダガスカル。アジアとアフリカを結ぶ交通の要衝としての顔も併せ持っており、観光資源のほか、水産資源、天然資源にも恵まれて発展のポテンシャルは高いものの、残念ながら世界の最貧国の一つにとどまっています。

JICAはマダガスカルの貧困削減につながるよう、経済開発と社会開発のバランスを取りながら成長を促す協力を行っています。代表的なものが「コメ生産性向上・流域管理プロジェクトフェーズ2」。コメの収穫量が1ヘクタール当たり2トンから5トンに増えるなど、すでに成果が表れています。

また、「アンタナナリボ・トアマシナ経済都市軸総合開発計画策定プロジェクト」で、貿易の玄関口トアマシナ港と首都をつなぐ経済圏開発計画を作成し、経済成長のための基幹インフラの整備に協力しています。

さらに、これまで青年海外協力隊員とJICA研修員が行ってきた活動を活用して農村の栄養状態を改善する「食と栄養改善プロジェクト」も始まっています。

経済開発と社会開発のバランスを重視した協力

首都アンタナナリボ。政治危機の遅れを取り戻すべく現政権が急ピッチで国家開発計画を推進中
写真:久野真一

動植物の8割が固有種という豊かな観光資源のほか、水産資源や鉱物資源にも恵まれ、経済発展のポテンシャルが高いマダガスカル。しかし2009年から5年間続いた政治危機の影響もあって、いまだに世界の最貧国の一つに数えられています。

JICAはマダガスカルの貧困削減につながるよう、経済開発と社会開発のバランスを取りながら「農業・農村開発」「経済インフラ整備・都市開発」「基礎生活の向上」の3分野で重点的に協力を行っています。

これら3分野は、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で日本が表明した支援の優先分野「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」「繁栄の共有のための社会安定化促進」「質の高い生活のための強靱な保健システム促進」に合致したものです。また、国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)のうち、貧困撲滅、飢餓・栄養、健康、経済成長・雇用、インフラ・産業、都市、教育、格差是正の各ゴール実現にも貢献するものです。

プロジェクト生まれのコメ生産技術の全国普及が決定

マーケットで市をする日本人専門家と農業省の職員
写真:久野真一
場調査

マダガスカルは、一人当たり年間消費量が日本人の2倍に上る、アフリカ最大のコメ消費国です。しかし、労働人口の75パーセントが農業に従事するものの、農業がGDPに占める割合はわずか25パーセントで、生産性の低さが課題になっています。

JICAは「コメ生産性向上・流域管理プロジェクトフェーズ2」を通じてこの課題解決に協力。先行するフェーズ1プロジェクトで編み出した、小規模農家に適したコメ生産技術「PAPRIZ」と、住民による流域管理技術の定着を図るため、「PAPRIZ」技術を教えられる農民トレーナーを育成するとともに、種子、肥料、技術解説パンフレットをパッケージ化したスターターキットを販売。流域管理研修や水利組合支援などにも取り組んでいます。

すでにプロジェクト対象地域では、コメの収穫量が1ヘクタール当たり2トンから5トンに増えるなど成果が出始めており、マダガスカル政府も、国内全22県に対して「PAPRIZ」技術を普及していくことを決定しました。

待ち望まれた基幹地域の開発計画作成に協力

丘陵部から首都アンタナナリボ中心部を臨む。急激な人口増加が進むアンタナナリボはインフラ不足に悩んでいる
写真:久野真一

インド洋に面するトアマシナ港は、国際貨物の7割以上を扱う、マダガスカル最大の商業港です。トアマシナ港の荷揚げ貨物の7割以上が国道2号線で首都アンタナナリボへ運ばれており、トアマシナとアンタナナリボ、国道2号線は、マダガスカルの成長に欠かせない基幹都市・路線です。2004年にマダガスカル政府は両市の開発計画を作成しましたが、一部の工事が行われただけの状態で中断。時代に即した新しい開発計画が望まれていました。

JICAは「アンタナナリボ・トアマシナ経済都市軸総合開発計画策定プロジェクト」で、新たな計画の作成に協力しました。協力の相手機関である大統領プロジェクト・国土整備・設備省が自らプロモーションビデオを作成し広報活動に努めるなど、マダガスカル政府も心待ちにしていた計画は、2019年9月に完成し、政府に手渡される予定です。

JICAは両市の開発計画と併せてトアマシナ港の港湾拡張事業にも資金提供で協力しており、2018年に工事が始まっています。

協力隊員と研修員の活動が新「食」プロジェクトのベースに

完成したレシピ集はマダガスカル全国で活用されている。レシピ集の料理を紹介する協力隊員
写真:久野真一

第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)でJICAが立ち上げた「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」(注)につながる「食と栄養改善プロジェクト」が、2019年3月、マダガスカルでスタートしました。その現場で、これまで青年海外協力隊員とJICA研修員が行ってきた活動が活用されています。

マダガスカルの農村では畜産や野菜栽培も盛んに行われていますが、それらは換金作物として出荷され、農村の人々が食べるのはコメが主体の料理。おかずの種類は少なく、タンパク質も不足がちで、5歳以下の子どもの4割以上が慢性的な栄養不良状態にありました。

「せっかく地元で手に入る食材がたくさんあるのにもったいない」。2015年から活動する家政・生活改善分野の協力隊員が、手に入る食材を使って栄養バランスがよい47のレシピを編み出し、2017年にはレシピ集として発行。料理番組制作や新聞での連載も行ってレシピの全国普及に努めました。

一方、JICAが日本で行う研修「生活改善アプローチ」に参加した農業畜産省や国家栄養局の職員が、帰国後にコミュニティレベルの生活改善普及員を育成。普及員が組織した住民による生活改善グループが全国で活動し、今では「Seikatsu Kaizen」として人々に親しまれています。

「食と栄養改善プロジェクト」では、生活改善グループを通じて活動が展開され、レシピ集の普及も予定されています。JICAはこれまでの取り組みを生かしてマダガスカルの人々の栄養状態改善に協力していきます。
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(注)食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA):アフリカ各国と援助機関が連携し、栄養改善が必要なコミュニティレベルでの取り組みを進め栄養改善目標を達成しようという取り組み。