緑と平和のサヘルを再び

2019年6月28日

ニジェールでJICAの農業支援プロジェクトに参加中の女性

西アフリカの内陸国ニジェールは、サヘルと呼ばれるサハラ砂漠の南縁に位置し、国土の3分の2をサハラ砂漠が占めています。

サヘルとは「岸辺」という意味で、かつてこの一帯は緑が広がる豊かな大地でしたが、現在は深刻な砂漠化が進んでいます。水不足や土地の荒廃が食糧不足を生み、貧困により社会が不安定化するという負の連鎖を生んでいます。ニジェールでも、マリ、リビアなど周辺国の政情不安から、難民の流入やテロ事件の発生などの問題が起きています。

JICAは、砂漠化に取り組む国際的な枠組みを立ち上げる一方で、ニジェールでは、食料問題を解決するための農業支援を進めています。アフリカ各国で展開中の農業の市場志向化を目指す「SHEP」アプローチを導入し、生産力と収益の向上を目指した取り組みが本格的にスタートしています。また教育分野では、15年以上続く「みんなの学校」プロジェクトを通じて、初等・中等教育の充実と就学率アップという成果を上げています。

アフリカ諸問題解決へのファシリテーターとして

ニジェールの首都ニアメ。街の中心をニジェール側が流れる。左は国際会議場 

ニジェールが直面する砂漠化や食料問題をはじめ、アフリカ諸国が共通して抱えるさまざまな課題の解決に向けて、日本はアフリカの自助努力と国際社会の積極的な関与を促すファシリテーターの役割を率先して果たしています。

砂漠化問題は、サヘル地域の平和と安定を取り戻すために、ひいてはアフリカの成長、世界の平和のために、国際社会が団結して取り組むべき課題です。日本は2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で、アフリカの砂漠化に対処するための地域協力の枠組みとして「サヘル・アフリカの角 砂漠化対処による気候変動レジリエンス強化イニシアティブ(AI-CD)」を立ち上げました。JICAは、この取り組みを国連機関などと協力しながらバックアップしています。

また、TICAD VIを契機として、廃棄物問題を考えるプロジェクト「アフリカのきれいな街プラットフォーム」も発足し、アフリカの諸都市が抱えるゴミ問題に関する情報の共有、国や諸機関のネットワーク化を、JICAが中心となって進めています。

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水の確保と市場志向が農村を変える

近くの市場で初めてマーケット調査を実践するSHEP野菜栽培グループのメンバーたち

サヘル地域で農業を行う上で最大の問題は水。JICAは、ニジェールで既存の貯水池を有効活用して農村の生活基盤を改善するプロジェクトを2012年から実施しました。その過程で作成された農業普及員のためのマニュアルは、国の公認を受け、全国に展開されています。

収穫を増やし農家の収入をアップするためには、水の供給だけでは充分ではありません。JICAは、小規模農家を市場志向型の「売る農家」に変身させるプロジェクト「SHEP」を今年3月より本格的にニジェールにも導入しました。 このアプローチは、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で日本のアフリカ農業支援の柱の一つと位置づけられ、現在アフリカ23ヵ国に導入されています。

SHEPアプローチをいち早く取り入れたある農家グループでは、教育も満足に受けることができず経済的にも脆弱だった寡婦の農民が、トマトの市場価格を自ら調べて高値の時期に合わせて栽培し、その収益で牛を購入したり小売店を経営したりするまでになりました。彼女は「SHEPの知識が自信を与えてくれた」と誇らしげに語ります。SHEPアプローチは食料問題だけではなく、男女平等というジェンダー問題の解決の一助でもあるのです。

「みんなの学校」で教育の質・就学率アップ

JICAプロジェクトが開発した算数ドリルに取り組む児童たち

ニジェールでは、初・中等教育の就学率がアフリカ諸国に比べて低く、男女・地域の格差も大きいという問題がありました。JICAは「みんなの学校プロジェクト」を通じて、学校、地域、行政が一体となって教育改善に参画する「学校運営委員会」の全国普及を進めてきました。学校と保護者の信頼関係が生まれ、就学率が大きく向上するなど、大きな成果を上げています。

合わせて、このプロジェクトでは、すべての児童の読み書きや計算などの基礎学力の改善を目指す校外学習ツール「質のミニマムパッケージ」を開発。現在、パイロット校である101校で約1万3,000名の児童が使用しています。その結果、わずかの期間で学力向上が見られ、児童たちか楽しみながら学ぶようになりました。ある学校では、このパッケージの遊びながら文字や数を学ぶゲームが子供たちのブームになっているそうです。

「みんなの学校」の取り組みは、セネガルやブルキナファソなど周辺国にも広がっています。持続可能な開発目標(SDGs)のゴール4「公平で質の高い教育をすべての人に」の達成に向かって、ニジェールから一歩ずつ前進しています。

きれいな街への一歩はゴミ拾いから

ノルディレ中学校での清掃キャンペーン。ニアメ州知事も激励する中、多くの学校関係者や周辺住民たちが地域美化に取り組んだ

アフリカの多くの都市は、人口増加、処理施設不足などによって、大量のゴミの処分に困っています。不法投棄や野焼きなど環境への悪影響も懸念されます。第6回アフリカ開発会議を契機に、「アフリカのきれいな街プラットフォーム」も発足し、アフリカ諸国も廃棄物管理に動き出しています。

きれいな街への一歩は足元から、とJICAは首都のあるニアメ州と共催で市内の中学校で清掃キャンペーンを始めました。地域住民を巻き込み、啓発セミナーと清掃運動によって地域美化意識を高めることが狙いです。

今年2月に行われた第2回清掃キャンペーンは、市中心を流れるニジェール川西岸のノルディレ中学校で行われました。事前セミナーで廃棄物問題について学び、キャンペーン当日は、ニアメ州知事も来校する中、700名近い参加者が校内外の清掃を行いました。折しも、ニアメ市は今年7月のアフリカ連合臨時首脳会議の開催地となることから、市当局も大がかりな市内美化を開始しています。

アフリカを悩ますゴミ問題と砂漠化。この両者を同時に解決する技術の芽がニジェールで芽生えつつあります。ゴミを利用して荒廃地を緑化するという画期的な技術を長年にわたって研究しているのは、日本人研究者!詳しくは、JICAニジェール支所発行の「ニジェール便り」(2019年5月号)を。進行中のプロジェクトの進捗報告に加えて、この国を身近に感じることができる情報が満載です!