ラオスで実施中の観光ガイド草の根技術協力事業をご紹介します

2022年10月27日

事業概要と団体紹介

富士山でガイド研修を行う新谷氏

静岡県富士宮市に拠点を置く一般社団法人エコロジックは、JICA草の根技術協力事業(パートナー型)を受託し、2022年2月から2025年1月までラオスにて「ルアンパバーンの公認ガイドの技術向上を目指したインタープリテーショントレーナーの養成事業」を実施しています。

この事業でプロジェクトマネージャーを務める新谷雅徳氏は、少年時代のボーイスカウト経験や大学で始めたダイビングからエコツーリズムに興味を持ち、アメリカ留学及びハワイ島でのガイド経験を通じてエコツアー・ガイドとしての経験や技術を深めていきました。現在はエコロジックの代表として、地元富士宮で地域の人と連携しエコツアーやグランピングを運営しています。また、JICAなどで専門家として、世界中のエコツーリズム開発支援を行なっています。

※エコツーリズムとは、地域資源を生かし、それら資源が観光によって損なわれないよう適切な保護・保全を行うことで、その地域が振興し持続的に存続することを目指す考え方です。エコツアーとは、エコツーリズムの考え方に基づいて実践されるツアーのことです。

ガイド研修を行う理由

ムアンゴイにてガイド協会のトレーナーと研修を行う

新谷氏はこの度2週間ほどラオスの古都ルアンパバーンに滞在し、10月3日から7日までの5日間、ガイド技術向上のための研修を実施しました。研修の4日目となる10月6日、ルアンパバーン中心部で行ったワークショップでは、エコツアーではガイドがどのような役割を果たすべきか、という点から研修が行われました。

従来のツアーでは、ガイドができるだけ多くの知識を持ち、その知識を旅行者に対し披露するという形がとられてきました。しかし、エコツアーにおけるガイドの重要な役割は、その土地で暮らす人々と旅行者をつなぐことです。ガイドは、「村人の語り」などを通して、旅行者がその土地のもつ文化や社会、伝統を理解する手助けを行うとともに、その土地の人々が自らの土地の価値に気付き、文化や自然環境を守る意識を持てるように働きかけます。新谷氏からは「ガイドは何でも知っているヒーローではなく、その土地の人々と旅行者の仲介者でなければならない」と何度も繰り返し伝えられました。

具体的な研修の内容

地図を見ながらツアー内容を具体的に検討する参加者

はじめに、参加者たちは2つのグループに分かれ、ルアンパバーンの市街地での1日ツアーの内容をそれぞれ考えました。なんと、結果は2つのグループともに同じ内容でした!具体的には、托鉢、朝市の見学や朝食、寺の見学及びお坊さんとの交流、博物館の見学や歴史的建造物エリアの見学、お菓子づくりといった内容でした。

次に、新谷氏と参加者たちの間で、ガイドがこのエコツアーにおいて、旅行者が土地や住民を詳しく理解するための役割を果たせているかという視点から検証が行われました。その結果、メインの活動に焦点を当てることで、より旅行者とルアンパバーンに住む人々との交流を深める内容を考えることにしました。

その後、1つのグループはお寺を中心とした「遺産と共に生きる生活」に、もう1つのグループは伝統的な暮らしをする「人々の生活」に焦点を当て、ツアー内容を絞ることになりました。最後に、本事業の現地調整員・森重千里氏(元ラオス海外協力隊)の提案により、2日間のエコツアーとして組み合わせ、1日目の午前中は「遺産と共に生きる生活」をテーマに、2日目の午前中には「人々の生活」をテーマにエコツアーを行うことになりました。
研修後には、参加者と森重氏が現場に出て、より具体的なツアー内容を作り上げていくことになります。

研修参加者の感想

参加者が新谷氏、森重氏とツアー内容を確認する

研修に参加したルアンパバーン世界遺産事務所のサティアン氏は、次のように話してくれました。
「研修前、ガイドとは歴史や文化などすべてを説明すべきだと考えていた。しかし、研修を通して、全てを説明することが大切な訳ではなく、その土地に住む人々を巻き込み、旅行者とその土地の人々の両方が〈良かった〉〈うれしい〉という思いを持つことのできる『エコ』ツアーをすることが大切であることを学んだ。このようなエコツアーは文化や伝統の保存にもつながると分かった。例えば、ルアンパバーンで有名なコロニアル様式の建築物をガイドする際、以前は歴史や建物の特徴を説明するだけであったが、今は、旅行者に人々の生活や技術に注目してもらい、生み出される商品やサービスを旅行者が〈良いもの〉と考え購入してくれるよう仲介したいと考えるようになった。旅行者によって、その土地の商品やサービスが消費され、人々の生活や収入が守られ、結果、文化や伝統を守ることができる。」

今後の展望

エコロジックの拠点・富士宮市からの眺望とルアンパバーンの雑貨

本事業を通じてルアンパバーンのガイドの質が向上することで、旅行者の満足度向上と、ガイドの収入向上の両面が期待されています。これに加え、ガイドがルアンパバーンに住む人々をエコツアーに巻き込むことで、住民にも経済的な恩恵や自らの文化に対する誇りをもたらしていきます。このことは、ルアンパバーンの文化、伝統、自然の保護にもつながるのです。
一部ガイドへの研修のみならず、今後も持続的に質の高いガイドが養成されるよう仕組みづくりまでを目指している本事業、ぜひ今後ともご注目ください。