東ティモールのファッション分野でのボランティア活動を終えて

2019年12月13日

観光ホスピタリティスクール
石塚 美咲(服飾技術)

1.はじめに

私は、東ティモールの首都ディリのベコラ地区にある観光ホスピタリティスクールの服飾科の教員として2年半活動して参りました。観光ホスピタリティスクールは、職業訓練機能を持つ公立の高校で、服飾科の他にも、ホテル科、料理科、美容科があります。インドネシア占領時代からあり、一時閉鎖を経て2002年に再開致しました。服飾科の生徒は総勢40名ほどで、高学年になるにつれて、妊娠や家庭の事情などで辞めてしまうことも多く、入学当初には1学年20名以上でも、卒業時には5名ほどに減ってしまうような現状です。また、現代の日本の服飾の専門学校とは違い、ファッションデザイナーやパタンナーになりたくてこの学校を志望するというよりは、「近いから」、また「花嫁修行」のような理由で進学した学生も多くいました。服飾科の教員は4名で、観光ホスピタリティスクールの卒業生もおり、インドネシアで服飾や経済を学んだ方々です。

2.東ティモールとそのファッション事情

東ティモール人はおしゃれが大好きで、自分に似合う服がどういうものなのか分かっている人が多いような気がします。国民の99%がカトリックということもあり、日曜日にはそれぞれ素敵におしゃれをしてミサに出かけます。東ティモールのファッション事情としては、道端にある古着屋さんで1ドル~ 5ドル程度で購入している方が多いようです。インドネシアやシンガポール、中国などからの輸入の新品もありますが、少々お値段が張るのでこちらは贅沢品です。また、タイスという伝統生地を使って仕立て屋さんで仕立てるのも一般的です。しかし、その組み合わせは東ティモール人にはとても似合うのですが、斬新なものも多く、ファッションデザインの観点からすると、海外からの観光客に販売するにはちょっと派手すぎたり、と美意識の観点が独特だと感じます。また、縫製のクオリティの良いものを知ってしまっている観光客に販売するにはちょっと難しいものもあります。その違いを知ることがまず大切だと私は考えました。

3.活動内容と結果

東ティモールの若年層(15~24歳)の労働参画率は非常に低く(東ティモール13.8%、東南アジア・太平洋州平均52.2%(世界銀行2011))、世界の各地平均と比較してもこれは最も低い結果です。実際に、昼間でも道端でギターを弾いている若者や、座ってお喋りしている人もたくさん見られます。そこで、「ないものはつくろう!」と卒業後、起業することも意識した授業カリキュラムを作成し、授業を行って来ました。

ファッションデザイン、ファッション史、実習の授業を担当し、課外活動では配属先でやる気のある生徒を集め、ブランドを立ち上げ、お洋服やお土産品を生産し、お金がないために進学できない生徒の支援をしたりしました。

また、教室のゴミ山に埋もれていた、寄付されたが壊れてしまったために放置されていたミシンの修理の依頼をし、3台から21台に増やすことができました。

そして、ショッピングモールのTimor Plazaで開催された東ティモールJOCV10年記念イベントでは、ファッションショーを行い、タイスを使った洋服を披露しました。これらの洋服は、私と、卒業生、在校生で制作したもので、彼女たち、またタイス職人の所得向上を目指し、こちらの洋服の展示会をNGOのTimor Aidにて開催致しました。

現在の3年生の進路決定状況おいては、9名中3名が斡旋を行ったお土産店で縫製士として内々定が出ており、1名の進学希望者、1名の教会の寮に住む(教会で勉強を続ける)ことを希望しており、それ以外の生徒は只今就職活動中です。しかし、東ティモールでは、卒業するまでに就職先や、進学先を決めるというよりは卒業してから決めるようなところがあり、全員が進路を決めるまで共に過ごすことはできませんでした。ですので、昨年2018年度の卒業生の現在の状況を調査したところ、8名中4名が大学進学しており、2名は仕立屋に就職、1名は教会の寮、1名は塾に通っているなど、2018年度卒業生においては100%が進学か就職をしておりました。また、2017年度では、授業で教えていた簡単なパンツ、シャツを作って販売し、資金を貯め、進学した卒業生もいました。その卒業生は、現在では仕立屋を起業し、頑張っています。

4.活動を終えて

この2年半の経験を私にとってかけがえのない時間になりました。文化や価値観の違う人と深く関わることで、柔軟に対応することの重要性も学びました。もちろん、活動や生活において、上手くいかず頭を悩ませたことも、落ち込んだこともありましたが、その問題について深く考えると「まだ発展していないから」という答えに行き着くことが多く、だからこそ自分のようなJICAボランティアがいるのだと思うと、また頑張ることができました。

また、この2年半の間にも、東ティモールは発展したなと感じることも多く、例えば、インターネットの速さや、街並み、また私の配属先もそうです。赴任当初は、床に穴が空いていたり、またトイレにも水がないような学校でしたが、校長先生が各方面に出したプロポーザルが通ったおかげで、学習環境はこの2年半で劇的に改善されました。また、授業システムも、赴任当初は、先生の欠席、遅刻により、遊んでいる生徒がたくさんいましたが、そういったことを防ぐために見回りの先生が日替わりで設定されるなど、少しずつではありますが改善に向かっているのを感じられます。こういったことの一つ一つ、全てが発展だと私は思います。しかし、ただ発展すればいいというわけではないと思います。東ティモールの人の暖かさや、自然、素晴らしさを保ったまま、素敵な形で発展していけることを願っています。

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EHT学校における縫物グループの様子

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展示会オープニングセレモニーの様子

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授業の様子

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仕立て屋を開いた卒業生

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展示会の様子

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伝統生地タイスを使い制作した洋服