第17回JICA理事長賞受賞者 平賀 良 氏に聞く

【写真】平賀 良(ひらが りょう)株式会社エックス都市研究所 技術顧問
平賀 良(ひらが りょう)

JICAでは、毎年、国際協力事業を通じて開発途上国の人材育成や社会発展に多大な貢献をされた方々の功績を讃える「JICA理事長賞」を授与しており、2021年度は去る12月9日に授賞式が執り行われました。今回、本年の受賞者のお一人で関西在住の平賀良さんのインタビューをお届けします。
平賀さんは、長年、大阪市環境局に勤務され、そこで培った固形廃棄物管理分野の知見を活かし、これまで約30年にわたり、開発途上国の行政官を対象としたJICA本邦研修事業にご協力頂きました。その間、指導された研修コースは58コース、人数は約470名にのぼります。大阪という大都市の環境行政の第一線で活躍された知見に基づくその指導は、実践的かつ説得力があると研修参加者から高い評価を得ています。

Q1. これまでどのような国際協力活動やJICA研修に携わってきましたか?

現地での技術指導

ワークショップで研究員と

大阪市環境事業局技術主査をしていたとき、JICA専門家としてフィリピンに行かないか?と当時の厚生省から声が掛かり、1988~1990年マニラ首都圏庁に派遣されました。任期満了時には同首都圏最初の衛生埋立処分場の建設まで漕ぎつけることが出来ました。大阪市で勤務した時には直接担当したことが無かった、ごみ処分場や収集改善の指導等も依頼され、自分自身も勉強しながら、複数の部署のフィリピン人行政官とワーキンググループを組織して取り組みました。
家族(夫人、お子さん2人)も一緒に赴任し、1989年にマニラで国軍反乱事件が発生した際は、家の上を弾丸が飛び交うなど緊迫した状況を経験したことも有りますが、フィリピンの思い出は、毎日が充実していて職場に行くのが楽しかったということが一番に浮かびます。

帰国後、大阪市環境事業局に戻りましたが、JICA大阪センター(当時)から固形廃棄物管理の本邦研修コース創設に関して相談があり、内容へのアドバイスを行い、立上げを支援しました。その後、1992年度から開始された固形廃棄物管理コースは以来脈々と実施され今に至っています。思い起こせば、フィリピンで経験したことが、本邦研修の内容や運営に役立っていると感じることが有ります。

Q2. 国際協力活動の経験は、その後の自治体でのお仕事に役立ちましたか?

自治体にとって国際協力・交流というと姉妹都市交流などが中心ですので、自身の経験が直接大阪市に裨益したかどうかは何とも言えません。
ただ、日本での仕事は細分化されていますが、国際協力活動では今まで経験したことの無いことや当たり前と思っていることを求められて新たに勉強するなど、より大局的な視野から自分の仕事を見つめなおす良い機会となり、研修講師を務める職員にとっても、廃棄物管理を深く理解することが出来たと感じます。また、多くの人とのつながりが出来、現在のコンサルタントとしての仕事にも役立っています。日本の自治体の若手行政官の方にも、これらは役立つのではないでしょうか?

Q3. ご苦労されたこと、印象に残ったことは?

研修員たちがサインしたご自宅のゲストブック

「苦労話を聞きたい」と言われて困るのが、余り苦労したと言える思い出が無いことです。大阪市での職務責任が重くなっていくに連れ、JICA研修への協力との両立は大変にならなかったか?と聞かれますが、研修員を前にすると、彼らのおおらかさややさしさが心地よく、リラックスして研修を楽しむことが出来ました。これには研修コーディネーター(通訳やアテンドを担当する方々)の存在も大きかったかもしれません。研修が休みの日には、研修員をグループで地元姫路市の姫路城見学に案内し、そのあと自宅で妻の手料理でもてなしたことも、家族の貴重な思い出です。

多くの研修員とは帰国後も連絡を取り合っていて、アクションプラン(日本で学んだことを活かし、研修員それぞれの担当地域の課題を改善するための行動計画、JICA研修員が研修の成果として作成する。)の実施状況の報告をもらったり、アドバイスを求められることもあります。
そのようななかで印象に残った話として、ベリーズの研修員は帰国後に最終処分場を改善しようとしたのですが、予算に充てるはずだった住民からのごみ処理料金の徴収が政治的に制限され、ごみを圧縮・覆土する重機を購入できなくなりました。しかし、諦めずに人力で曳くローラーでごみを圧縮する計画に変更し、処分場の改善に取り組んでいるとの報告をもらったことがあります。

Q4. 研修員にアドバイスする際に気を付けていることはありますか?

途上国と日本の背景の違いを認識したうえで、分かり易く説明すること。
改善に取り組むべきは、ほかならぬ研修員自身だということを納得してもらうことです。

研修員はそれぞれの国の役所でごみ処理に責任を負う行政官ですが、研修の最初に「(自身の固形廃棄物管理業務で)最大の問題は何ですか?」と質問すると「住民の意識が低くてごみをポイ捨てすること」など、あたかも住民に責任転嫁するかのような答えが返ってくることが有ります。紛争国からの研修員が「先進国の経済制裁」一辺倒の課題分析を行い驚かされたことも有ります。これらの答えは、問題を住民など外部の要素に転嫁し、自分のことと捉えられていないことを表していて、彼らの意識を変えて、やる気を持たせるための時間が必要です。ディスカッションやワークショップを通じて、「何が(本当の)問題なのか?」をグループで一緒に考え、たとえば「街にごみが溢れていること」が住民にとっても、研修員自身にとっても直面する問題だ、という方向に改善の目的を持って行く。如何に「それが市民だけでなく、自分自身がリーダーシップを担って解決するべき問題だ」と納得してもらえるかが肝で、その過程を経て作成されたアクションプランが改善という成果に結び付くと感じます。

「研修員の背景(職務、経験など)が多種多様で、グループとして指導するのが大変ではないですか?」という問いも有ります。確かに研修員の職種が多彩だと、指導に時間がかかりますが、研修員の背景が異なっても、固形廃棄物管理に取り組んでいるという点は共通です。むしろ、それぞれ立場が違った方が、お互いの知見を交換でき、より幅広い視野から問題を見ることができる、ということも言えます。研修員の選考の際に「この人大丈夫かな、ついて行けるかな?」と心配した研修員も、ふたを開けてみると、グループの中でそれなりの貢献をしてくれていることがあります。

Q5. 今後していきたいことはありますか?

より効果の高い研修を行うために、これまで巡り合った多数の研修員からの情報を体系的にまとめるなどし、きめの細かい、一人一人に沿ったアドバイスをしていければと思っています。



平賀 良 氏 
・略歴:
1972年 大阪市清掃局に奉職
1988年 JICA専門家としてフィリピンへ派遣
1990年~2008年
    大阪市環境事業局、住之江工場技術主査、管理課課長代理、建設課課長代理、技術主幹(舞洲工場担当)、建設課長、処理技術担当部長を歴任
2007年 大阪市環境事業協会 常務理事兼技術部長
2009年~エックス都市研究所シニアコンサルタント、大阪支店長、技術顧問
・海外派遣歴:フィリピン、パキスタン、ケニア、キューバ、南アフリカ、ドミニカ共和国等多数


インタビュアー:JICA関西業務第一課 難波緑