九州SDGs通信2018年8月号 北九州で「地域創生×SDGsセミナー」を開催!

2018年8月7日(火)

7月30日(月)、JICA九州はSDGsに関する初めての本格的なイベントを、今般「SDGs未来都市」に選定された北九州市において、ジェトロ北九州およびジェトロ・アジア経済研究所共催の下、「地域創生×SDGsセミナー:地域の取組みが世界を変える~『産官学民』のSDGs取組事例を中心に~」と題して開催しました。

当日は70名を超える参加があり会場は満席となりました。SDGsに対する熱量たっぷりとなったイベント当日の様子をご紹介します。

セミナー開催の趣旨

「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の具体的な行動計画として示されました。SDGsでは、「誰一人取り残さない」を理念に掲げ、日本を含む全ての国が対象となっています。その達成には政府だけでなく、自治体の取組みや民間の技術・知見・資金の活用が不可欠です。日本政府は国内地域でのSDGsの取組みが地域創生を推進するものと捉え、自治体、民間企業、市民社会、大学・研究機関等の多様な関係者とのパートナーシップのもと、地域が抱える課題解決に取組んでいくことを力強くバックアップしています。

このようなSDGsに対する気運を捉え、今般、北九州市において、自治体(官)、民間企業(産)、市民(民)、大学・研究機関(学)等を対象にSDGsについて理解を深めるとともに、SDGsを好機としてどのような取り組みができるか、そのヒントを得ることを目的として、今回の「地域創生×SDGsセミナー」を企画しました。セミナーでは「産・官・学・民」それぞれの立場からSDGsの取組み事例を紹介するとともに、どのようにパートナーシップを組んで進めていけばよいか等について意見交換を行いました。

ジェトロにおけるSDGsの取り組み

まず、主催者挨拶に続き、ジェトロ北九州の新井所長から、ジェトロにおけるSDGsの取り組みについて紹介されました。新井所長からは、企業におけるSDGsへの対応に関する認知度や経営との紐付けにおいて、日本企業は欧米企業に後れを取っているといった指摘があり、SDGsをビジネスチャンスと捉えた「攻め」の取り組みとリスク回避の「守り」の両面から支援する考えが示されました。「攻め」の取り組みの一例として、我が国が培ってきた仕組みや価値をルールとして戦略的に海外への導入を図り、新たな市場を創出するといった「社会解決型ルール形成支援プロジェクト」が紹介されました。

【基調講演】「SDGs時代の主役は誰だ」

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ジェトロ・アジア経済研究所
佐藤寛上席主任調査研究員

次に、ジェトロ・アジア経済研究所の佐藤寛上席主任調査研究員から「SDGs時代の主役は誰だ」と題した基調講演を発表いただきました。SDGsが国連で合意された背景やその個々のゴールについての説明があり、その中で「SDG=(S)すっごく、(D)大胆な、ゆびきり(G)げんまん」と覚えてほしいといった紹介がありました。

また、参加者に対して、「SDGs時代の主役は誰だ?」という問いかけがなされ、1)市民社会、2)大企業・多国籍企業、3)中小企業・地方企業、4)政府、5)地方自治体、6)投資家、7)社会的企業家、8)消費者、それぞれにSDGs時代で期待される役割を持っており、8つのアクターのどれか一つが主役なのではなく、複数アクターの「組み合わせ」による「協働体」こそが主役であるとの説明がありました。

さらに、ビジネスと開発協力の相互接近はSDG時代を迎えて更に進んでおり、開発協力はJICAや国連、世界銀行といった従前の援助機関だけの世界ではもはやなく、開発協力にビジネスの視点を持つことが肝要であるとの指摘がありました。また、中小企業にとって「国際化」には様々なハードルがあると指摘する一方で、サプライチェーン管理について、リスク回避の観点からも「社会的責任/倫理性」の視点を取り入れることは必然となると企業への理解を促すとともに、新たなビジネスチャンスに繋がる機会になっていることを具体的な企業の取組事例を紹介いただきました。

JICAにおけるSDGsの取組み

次に、JICA九州市民参加協力課江頭宏之課長から、「人間の安全保障」の実現を理念に掲げるJICAは、「人間の安全保障」とも親和性の高いSDGs達成への取り組みでも国際社会をリードしていく立場にあるとした上で、JICAが取り組む全ての事業がSDGs達成に貢献する内容であると説明し、途上国政府に対するSDGs計画策定支援の取り組みや社会貢献債としてのJICA債等について紹介しました。

さらに、様々なパートナーの参画が必要であり、JICAとしても地域での課題解決の取り組みは重要な「資源」と説明した上で、特に北九州市との連携事例は、国際協力における自治体とJICAの連携のモデルケースとなっていると紹介。「プノンペンの奇跡」と呼ばれているカンボジアで取り組んだ上水道分野の連携事例をはじめ、ベトナムやインドネシア等にける上下水道や環境分野の事例を紹介しましまた。これらの事例は全てSDGsに合致するものであり、引き継続きJICA九州としてもSDGs達成に向け様々なパートナーと連携して取り組んでいきたいといった発言がありました。

【パネルディスカッション】「産官学民」の取り組み事例

続いて、基調講演された佐藤氏がモデレーターとなり、「産」の対場からシャボン玉石けん(株)研究開発部部長兼品質保証部長の川原貴佳氏、「官」の立場から北九州市企画調整局政策部長の桝尾美栄子氏、「学」の立場から北九州市立大学教授の眞鍋和博教氏、そして「民」の立場から(公財)アジア女性交流・研究フォーラム理事長の堀内光子氏、それぞれにパネリストとして登壇いただき、それぞれの立場からSDGsの取り組みについて意見交換を行いました。

SDGsの先進都市を目指して~北九州市の取り組み~

まず、桝田部長からは、北九州市はこれまで「北九州環境未来都市」として低炭素・省エネ、水・大気汚染対策等に長年取り組んできたことを挙げ、SDGsの多くは北九州市の方針や既存施策と関連していると紹介されました。その結果が、アジア初の「SDGsモデル都市」選定や、「SDGs未来都市」選定にも繋がっていると説明いただきました。
更に、北九州市はSDGs推進の取り組みは「都市のステータス」を向上させるものとして位置付けており、「オール北九州」で取り組むことで、1)世界に「北九州市」を発信、2)市民生活の質(QOL)の向上、3)都市ブランド力の向上、が期待できると紹介いただきました。

世界問題を地域課題につなげる~北九州市立大学の取り組み~

次に、眞鍋教授からは自身がセンター長を務める「北九州市立大学 地域共生教育センター」の活動紹介の後、SDGsの取り組み事例の一つとして社会人を対象に開講している「SDGs社内リーダー育成研修」を紹介いただきました。こちらの研修では、「SDGs」の理解を深めるとともに、企業活動の中に「SDGs」のエッセンスを取り入れる上で必要となるリーダーシップやファシリテーション技術を養うことを目的に実施されています。その特徴は大学生と企業との協働実践型のプログラムにあり、学生にとってもSDGsを通して課題を見ることで、世界問題が実は身近な社会問題に繋がってことを知る機会となり、世界と地域とを分けて考えるのではなく、同じフィールドで捉える良いツールであるとの指摘がありました。

健康な体ときれいな水を守る~シャボン玉石けんの取り組み~

続いて、川原部長よりシャボン玉石けん社とSDGsのつながりについて説明いただきました。同社は1910年「森田範次郎商店」として創業した北九州市の老舗企業ですが、1973年には合成洗剤を販売中止し、無添加石けんに完全に切り替えたそうです。企業理念である「健康な体ときれいな水を守る」に基づき、人と環境に優しい製品を製造・販売することに注力されています。
そのような長年続けられてきた企業活動はもともとSDGsとも親和性が高い内容と言えますが、川原部長によればSDGsを通して自社の企業活動を整理することで「経済・社会・環境」3側面での分析に加えて、特に社会・環境面でのリスクを回避するための分析も行うことができるとの説明がありました。また、同社が新しく開発した石けん系泡消火剤はインドネシアにおける森林・泥炭火災への活用が期待されており、今後、JICAと協力して現地で実証実験を行う予定と報告がありました。

誰一人取り残さないために~アジア女性交流・研究フォーラムの取り組み~

最後に、堀内理事長からは、アジア女性交流・研究フォーラム(以下、「KFAW」)は1989年の「ふるさと創生事業」として北九州市に設立された点を踏まえ、その設立経緯からも地域創生を目的としているとの説明がありました。また、KFAWはいち早くSDGs推進の取り組みを始め、2016年11月にKFAW主催で開催したアジア女性会議(シンポジウム)ではSDGsをテーマに取り上げたと紹介されました。
KFAWではSDGs「ゴール5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」を中心に取り組んでおり、「働き女子の夢をかなえるキャリアアップ講座」など女性の経済エンパワーメントの構築・向上につながる取り組みを行っており、今後はどうやって若者の参加を増やしているのかが鍵であるとの発言がありました。

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北九州市企画調整局制作部
桝尾美栄子部長

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北九州市立大学
眞鍋和博教授

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シャボン玉石けん株式会社
川原貴佳部長

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アジア女性交流・研究フォーラム
堀内光子氏理事長

今回のパネルディスカッションでは、北九州市でSDGsに積極に取り組んでいる「産官学民」の各々の立場から、SDGs推進に取り組む意義やメリット、地域創生から見たSDGsの役割、また関係者の巻き込みや対外発信する上で「世界共通言語」でもあるSDGsの使い勝手、最後にパートナーシップ構築に向けたそれぞれの考えや期待、未来への展望等について、活発な意見交換が行われました。
パネリストからは、SDGsの取り組みは北九州市の「シビックプライド」醸成にも繋がっている、海外の問題や地域の課題を「自分ゴト」として当事者意識を引き出しやすい、戦略の再整理に活用できるなど、多くの示唆に富む意見が述べられました。

「SDGs時代の主役は誰か?」
主役は全ての方であり、「自分ゴト」として取り組んでいくことが期待されています。また、SDGsは一部の人々が行えばいいのでなく、いかに多くの市民を巻き込んでいくかが重要です。今回のセミナーを通じ、様々なパートナーが多様な組み合わせで連携して「オール北九州」として取り組むことの大切さを共有できたと思います。
“地域が変われば日本が変わる、日本が変われば世界が変わる”をスローガンのもと、JICA九州としても引き続き地域のパートナーと連携してSDGs推進に取り組んでいきたいと思います。

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セミナー参加者でSDGs17の目標を掲げて記念撮影