【日系社会研修1】バイオテクノロジーを学びブラジルの自然資源の回復・管理に貢献を

2019年8月27日

今回のインタビューにご協力くださった武田教授(左)、ルイーザさん(中央)及び横浜国立大学国際戦略室国際企画係のティオンさん(右)

2019年5月より約9ヶ月間、日系社会研修「バイオテクノロジー」コースが横浜国立大学大学院工学研究院にて実施され、ブラジルから日系4世のブラザオ・シマオ・ルイーザさんが参加しています。
南米地域において、日系社会が長年農業分野に貢献してきました。他方、その川下部門である各種生物関連事業において、遺伝子解析技術、生体物質分析技術、応用徴生物技術を中心としたバイオテクノロジー技術を持つ人材の育成は国際競争力の向上のみならず、事業の更なる展開にも付加価値を与え、現地日系社会の将来におけるプレゼンスの維持・向上に必要な取り組みとなっています。
今回はルイーザさんに日本との関わり、バイオテクノロジーへの思いについてお話を伺い、指導教官である武田穣教授にもインタビューを行いました。

日本とのかかわり

日本について熱く語るルイーザさん

ルイーザさんは、世界最大級の日本人街「リベルダージ」のあるブラジル国サンパウロ市出身で日系4世の女性です。曽祖父は和歌山からブラジルに移住し、コーヒー農園で働いていました。お父様が最近日本に引っ越したことをきっかけに日本に興味を持ち始めたそうです。「今まで日本と関わりがなかったが、日本も私の一部であり、それをしっかり背負って、来日を決意しました」と情熱的に語りました。ルイーザさんは日本留学及び日本での生活について情報を収集し、JICAと出会ったそうです。
母国と異なった環境で新しい生活を始めるのはルイーザさんにとって言語の面から、日常生活の面まで挑戦の日々です。しかし、毎日日本語を勉強し、研究室の学生と切磋琢磨しながら、日本での生活を満喫しているようです。日本文化も大好きであり、帰国後も日本の価値観を念頭に置き、勉強に臨みつつ、日系社会に恩返ししたいと話してくれました。

バイオテクノロジーへの思い

ルイーザさんはブラジルで多発する環境破壊の現状に心を痛め、環境分野を学ぶことを決意しました。ブラジルでは2018年に化学工学の学位を取得し、今回の研修では今まで興味はあったが学ぶ機会のなかったバイオテクノロジーのコースに応募しました。
バイオテクノロジー、特にバクテリア分野にルイーザさんは特別な思いを抱いています。きっかけは1997年にブラジルで発生したタンカーの座礁事故です。この事故で石油が海に流出し、環境に多大な影響を与えました。この解決策として用いられたのが、石油を分解するバクテリアです。この話に触れながら「ブラジルで学んだ化学工学の知見とバクテリアについて日本での研究を融合させることで、将来的にはバクテリアの力を用いてブラジルの自然資源の回復・管理に貢献したい」と帰国後の展望についてもお話しくださいました。日本での学びは始まったばかりですが、研究室で見る機材や日本の習慣、システムからは学びも多く、とても有意義であるといいます。日本での学びが彼女の夢実現に寄与することを期待しています。

武田教授からみた日系社会研修とルイーザさん

武田教授

所属研究室の武田教授は、2012年より本事業に関わってくださり、8名の研修員を受け入れてきました。その中には研修終了後に国際共同研究を行った研修員もいるそうです。研修員にとっての本事業の意義について武田教授は研究での学びに加えて、学生と密接に関わることで日本の文化や考え方を学ぶことにあると語ります。また、「研修員本人はもちろんのこと、研究室に所属する学生や私自身(教授)にもいい刺激がある。日本にいながら留学しているかのように新しい考え方・感じ方・語学に触れる機会になる」と研修員のみならず、同じ研究室の学生への効果も感じています。
研修終了後も研修員と学生の交流が続いていることに触れ、「こうした個人間の交流のきっかけをつくり日系社会と日本のつながりが生まれることもこの事業の一つの意義ではないだろうか」と、話してくださいました。ルイーザさんに関しては明るく気さくで日本人の学生ともすぐに仲良くなったそうです。研究の深化や日本の文化を学ぶとともに研修後も日本で培った人間関係を維持し、つながりを大事にしてくれることを期待しているといいます。

日系社会研修員受け入れ事業とは

中南米には213万人の日系人が暮らしています。彼らへの技術協力を通じ、移住先国の国造りに貢献することを目的に実施している研修が日系社会研修です。毎年約140名の日系社会研修員が農業、医療、保健福祉、教育といった分野の研修を日本で受けています。