どのようにしてJICAへの転職を
考えるようになったのか?
先ず、皆さんがどのような経緯を経てJICAへの転職を考えるようになったのか、JICAへの志望動機はどのように育まれていったのかということについて、お聞きしたいと思います。
前職は、大手情報システム企業で銀行システムの開発等に携わっていましたが、この会社では現職を辞めずにJICA海外協力隊に参加できるという制度があり、これに応募してみようと思い立ったのがそもそものきっかけですね。しかしこの時は、国際協力とかJICAに興味があったというより、ずっとドメスティックな仕事をやっていて、自分の仕事の環境を大きく変えてみたかったというのが正直なところです。それで、協力隊に参加しスリランカでコンピュータ技術関連の協力に取り組んだのですが、私の場合はここから、国際協力に本格的に興味を持つようになったというところがあります。
この協力隊での仕事はとても楽しかったのですが、草の根的なボランティア活動が中心ですので、私としては、もっと相手国に対してインパクトのある事業を仕事として手掛けてみたいという思いも強くなっていきました。そんな時、グループ企業のホーチミン支店でのポストが社内公募されているのを知り、今度はそこに応募したのですが、実際にベトナムで働き始めてみると、現地でのJICAのプレゼンスは非常に大きくて、JICAの協力によってベトナムの方々の生活が大きく変わっていることを実感することになりました。国際協力というのは本当にインパクトの大きい、可能性に満ちた仕事だということを強く感じたのです。このホーチミン時代に、会社の別のチームが、ある円借款事業の見積もりに参加したことがあったのですが、それを横目で見ながら、こういう事業があるのなら、私のICTに関する知見もJICAの中で活かすことができるのではないか、私が入る意義があるのではないかと考えたことが、JICAに応募することにつながっていったように思います。

私の場合は、新卒で就職する段階から国際協力にはとても興味があったのですが、一方で金融にも非常に惹かれていて、その時点ではメガバンクで働き金融の専門性を獲得することを選んだという形でした。銀行では、都心部の支店で約4年間法人営業等を担当しましたが、その間も国際協力への関心は持ち続けていて、もし国際機関に転職するのであればこのぐらいの年齢で修士号をとっていたいという思いもあり、5年目の段階で一念発起して銀行を退職し、開発経済学を学ぶため英国の大学院に留学しました。
この英国留学は、私にとっては初めての海外生活でしたが、改めて外から日本を見ることで、さまざまなことに気づかされた経験でもありました。経済面を始めとして、世界の中での日本の存在感は一頃に比べてどんどん希薄になっていますし、このまま母国のことを何も考えずに仕事を続けていくのは嫌だなというか、日本を離れて逆に日本に愛着が湧いてきたというところもあったように思います。留学する段階では、必ずしもJICAが第一志望だったわけではありませんが、英国で学び、生活するうちに、「国際協力×日本×金融」というのを自分のキャリアの軸にしていきたいという意識が明確になっていったと言えるでしょうか。この「日本」というのは、自分が取り組みたい課題として、また働く場所として、ということですね。そこで浮上してきたのがJICAだったという形です。

古川さん、松林さんに比べると私の経歴は入り組んでいて、履歴書にも書ききれないくらいなのですが(笑)、新卒の時点では外国語学部を卒業して外資系のビジネスコンサルティング企業に就職しました。そこで3年弱働いた時点で、会社を辞めてロースクールへ入学しましたが、これは、大学時代の専門が語学だったこともあり、何か明確な専門性を身に付けたいという思いからでした。法律を選んだのは、マイノリティとして日本社会の周縁に追いやられがちな人々、特に外国人に対する法的支援に関心があったことと、自分自身が高校の一時期をアメリカでマイノリティとして過ごしたことも影響していると思います。ロースクールでは、外国人の権利や難民保護に直結する国際人権法などを勉強しましたが、在学中から難民支援に関わるようになり、卒業後はNGOと法律事務所で日本国内における難民・外国人支援に携わってきました。これが、JICAに転職する前10年間くらいの私のキャリアですね。また、私が支援に関わり始めた頃は、特にミャンマーからの難民がとても多く、在日ミャンマー・コミュニティーとのお付き合いが始まりました。そこからミャンマーに強い関心を持ち、ミャンマー語も学びはじめ、今や「ミャンマー」は自分の人生におけるキーワードになっていますね。
JICAで働くことを考えるようになったのは、ミャンマーももちろんですし、アフリカでも中東でも、難民が生まれる根幹にあるのは、やはりその国の人権状況が悪いということなんですね。そう考えると、日本国内における難民支援は、もちろんやり甲斐はすごく大きいのですが、できることに限りがあるのではないか……もっと本質に遡って、難民の出身国の状況を改善していくこと、国創りそのものに関わるようなことをしたいと考えるようになったことが大きかったと思います。とは言っても、日本国内での業務しか経験していない私のキャリアが、JICAで本当に通用するのかということに不安はありましたが。
