専門嘱託・本部

政府関係者と対話を重ね、事業を創り出す……本部での仕事を通じて知った、国際協力の“もう一つの姿”。

小村 貴恵KOMURA Kie

中南米部 計画・日系社会連携課 兼 中米・カリブ課
2020年 法学部卒/2024年 有期雇用(専門嘱託)としてJICA入構

祖父の過酷な体験の
記憶をきっかけとして

私は幼い頃に祖父から、第二次大戦後に旧ソ連軍の捕虜となった過酷な体験の話をよく聞いていました。一般的にはあまり知られていませんが、戦後旧満州等で捕虜になった日本人の一部は、シベリア経由でモンゴルに送られ、ウランバートルの都市建設等、酷寒下に過酷な労働を強いられたのです。当時の環境は苛烈を極めたようで、90歳を超えてもなお、16歳から20歳までを過ごした当時の記憶が蘇って眠れない夜を過ごす──そんな祖父と身近に接して来た私は、次第に強制労働や児童労働といったテーマに関心を持つようになり、大学で学ぶ頃には、労働問題に軸足を置きながら国際協力の世界で働いてみたいと考えるようになりました。カンボジアの孤児院で日本語を教えるボランティアに参加したり、スイス、ジュネーブに本部を置く国連機関の一つ、国際労働機関(ILO)でインターンに参加したり、といった経験も重ねましたが、ILOのインターンでは、南アジアの児童労働について2ヶ月間ほど集中して学び、最終的には発表を行うという、とても鍛えられる時間を過ごすこともできました。ですから、就職に際してはもちろん、国際協力の世界に進みたいという思いも強かったのですが、労働問題に関心を持っているのであればやはり、ファーストキャリアとして民間企業で“働く”経験を持つことが必要なのではないかと考えるところもあり、最終的には、民間企業に就職することを選択しました。

就職先として選択したのは大手インターネットサービス企業でしたが、この会社で私が配属となったのは、立ち上げ間もない段階にあったモバイル通信事業。後発として事業参入したため、戦略的にも特に緊急性が高かった通信基地局の整備が、私の部署の担当業務でした。モバイル通信事業の基本インフラとなる基地局の整備は、事業を成立させるうえでの前提となるものですから、私たちに課されたミッションはとても重要なものです。例えば、決められた期間内に決められた数を稼働させるという明確な目標のもとに、全国の営業担当や工事会社の方々と綿密な計画を練り、設置場所を探して地権者の方に営業をかけ、許可がとれれば設置工事を行うということを繰り返していくわけですが、当初は不可能に思えた目標も、チーム一丸となって業務に邁進していくことで、なんとかやり切ることができました。こうした、一見無謀に思えるような目標を数年間にわたってクリアし続けてきたことで、目標達成へのプロセスをしっかりとプランニングし、確かなチームワークのもとに全力で仕事に取り組めば、決して不可能なことはない……そうした実感を持つことができたのは、前職におけるとても大きな収穫でしたし、現在も私の糧になっています。

しかし、こうした日々の業務に追われているうちに、学生時代に考えていた“本当にやりたいこと”──国際協力の世界からどんどん遠ざかってしまっていることにジレンマを感じていたことも確かです。そんな時にJICA採用ホームページで見つけたのが、現職ポストの求人でした。社会人経験も浅く、国際協力の知見も経験もないなかでしたが、先ず国際協力の世界の入り口、スタートラインに立ちたい……そうした想いに押されて応募し、現在に至っています。専門嘱託としての働き方は、自分自身のライフプランにあわせて選択をしたものですが、JICAには多様な働き方があり、業務内容や働く環境を事前にすり合わせたうえで挑戦できることは、とても魅力的だと思っています。

ようやく立つことができた
国際協力のスタートライン、
この機会を大切にしながら

2024年に中南米部計画・日系社会連携課の専門嘱託としてJICAに入構しましたが、現在まで主担当として携わっているのは、長期研修「SDGsグローバルリーダーコース」の研修生受け入れ業務です。この「SDGsグローバルリーダーコース」は、中南米地域の国家公務員・行政官といった、将来的にその国のリーダーとなっていくことが期待される人材を日本に招聘し、日本の大学の修士課程、博士課程で学んでいただくというプログラム。この応募プロセスのフォローが私の主要業務になりますが、在外拠点の募集によって集められた応募者を、北海道から沖縄まで、100以上にのぼる協力大学の募集プロセスに則って、手続きの遺漏がないようサポートしていくというのが日々の業務の中心です。私は応募者個々との連絡を行ってくださる在外事務所の担当者とやりとりすることが多いのですが、中南米という地球の裏側で仕事をされている職員やナショナルスタッフの方々と意見交換、調整しながら進めていくこの業務は、国内での勤務経験しかない自分にとってはとても新鮮で、やりがいのあるものだと感じています。

また、2024年の8月以降は中米・カリブ課も兼任させていただくことになり、日本とメキシコの間で50年以上にわたって続けられている、日墨研修という相互の研修員受け入れプログラムの運営や、カリブ13ヵ国の国担当として、担当国の外交官、大臣といった方々が来日される際のアポインメント調整、資料作成といった業務にも携わっています。2024年が日本・カリブ交流30周年という節目の年だったこともあり、この国担当としては、ガイアナで実施される記念事業のために、ガイアナ、バルバドス2ヵ国への出張も経験することができました。長らく私が国際協力に抱いていたイメージは、途上国の現場で直接人々に接するという、JICA海外協力隊的なものが強かったのですが、実際に本部で働いてみると、そうした先入観とは全く異なる側面を持っていることを知ることができたのも大きな収穫でしたね。相手国の政府関係者等と議論を重ねながら、事業を創りあげていく……それが、JICAにとっての重要な“現場”なのだということを理解できたことは、今後のキャリアを考えるうえでも大切な学び、気づきであったと思います。

学生の頃から強い想いを抱いてきた国際協力の世界に触れられたこともあり、さまざまな部署の方からお話を聞くのはとても新鮮で、「こんなことが起きているんだ」「こんな取り組みがあるのか」と、毎日が驚きの連続です。そして、そうした話をしてくださる職員の方々の目が輝いている。それは、職員の皆さん一人ひとりが、途上国への真摯な思いを持ちながら、仕事に向き合っておられる故だと思います。私自身も、ようやくスタートラインに立つことができたこの機会を大切にして、先ずは目の前の仕事に誠実に取り組み、中南米の国々に関する知識をはじめ、さまざまなことを学んでいきたいと考えています。祖父のような経験をする人を一人でも減らしたいという思いが、私の国際協力への関心の始まりであり、変わらない軸でもありますが、これから課題や地域等についての知見・経験も深めながらキャリアを築きつつ、遠い将来には、シニアボランティアとして実際に現地での協力にも携わりたいと願っています。

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