JICAの挑戦

新型コロナウイルス感染症は世界中の人々の命や健康を脅かすだけでなく、 社会・経済に甚大な被害をもたらし「人間の安全保障」の脅威にもなっています。
そうしたなかでJICAは、人々を健康危機から守る「JICA世界保健医療イニシアティブ」を推進しています。

瞬く間に全世界に拡大した新型コロナウイルス。人類は約100年前に大流行したスペインインフルエンザ(スペイン風邪)をはじめ、さまざまな感染症の脅威にさらされてきました。近年では重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)などが流行しましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大は、かつてない規模で人々の命や健康、社会・経済に甚大な影響をもたらしている歴史的な出来事です。

JICA世界保健医療イニシアティブを始動

特に開発途上国では、脆弱な保健医療体制やワクチン接種の遅れなどにより新型コロナウイルスの影響が長引き、貧困と格差が拡大することが危惧されています。

JICAは人間の安全保障を実現するため、これまで約150カ国に協力してきました。コロナ禍にある世界の人々の命を守るため、長年にわたる経験と相手国と築いてきた信頼を基に、JICAは2020年7月に「JICA世界保健医療イニシアティブ」を立ち上げました。

このイニシアティブは「人間の安全保障」と「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」※の達成を支援する取り組みであり、「予防」「警戒」「治療」を3つの柱として各国の保健医療システムを強化しています。

「誰の健康も取り残さない」ための3つの柱

まず「感染症予防の強化・健康危機対応の主流化」の観点から、国際的なワクチン共同調達の枠組みであるCOVAXなどと連動し、開発途上国・地域に新型コロナワクチンを普及。また、UHCの達成を目指した保健医療サービスの提供体制や医療保障制度の拡充に協力しています。さらに、水・衛生、都市計画、教育、栄養、その他の社会サービスなど、保健医療分野以外の開発課題における感染症対策の主流化にも取り組んでいます。

次に「感染症研究・早期警戒体制の強化」の観点から、新型コロナウイルス感染症の流行拡大を防ぎ、将来の健康危機への備えにも貢献するため、これまでの協力で培った感染症検査・研究拠点とのネットワークを活用。感染症検査・研究拠点の新増設・拡充や専門人材の育成に取り組んでいます。また、新型コロナウイルスの検査体制の整備を通じ感染者の早期発見や接触者の追跡、国境での水際対策の強化なども進めています。

そして「感染症診断・治療体制を強化」する観点から、誰もが安心して治療を受けられる質の高い保健医療体制の構築に貢献するため、これまでの協力で培った中核病院とのネットワークを活用。中核的な病院約100カ所の新増設・拡充や医療人材の育成を通じた医療提供システムの強化に取り組んでいます。また、新型コロナウイルス感染症による重症化や死亡を防ぐためのケースマネジメント(診断・治療・ケア)に加え、遠隔医療技術を活用した集中治療の強化なども進めています。

DXを活用した遠隔集中治療支援

JICAは2021年7月からアジアや中南米などの国々で、新型コロナウイルス感染症の患者の集中治療に従事する医師・看護師と、日本の集中治療専門医・看護師を通信システムでつなぎ、集中治療医療に関する研修や技術的助言を行うとともに、臨時用の集中治療室(ICU)などの医療設備や資機材の供与を進めています。

コロナ禍によりICUを必要とする患者が急増するなか、重篤患者を治療する医師・看護師の対応力の強化や、感染者を他の患者と隔離して集中治療するICUの整備を通じて、各国の新型コロナ対策および保健医療システムの強化を進めています。

ケニアから東アフリカ地域へ感染症検査と研究体制を構築・強化

ケニア中央医学研究所(KEMRI)は1979年の設立以来、40年以上にもわたりJICAが協力してきたアフリカの中核的な医学研究拠点です。

KEMRIはピーク時にはケニア国内で実施される新型コロナウイルス感染症のPCR検査数の5割を担っていただけでなく、アフリカ連合の専門機関であるアフリカ疾病対策センターから検査キットの性能試験を委任されています。さらに近隣の東部アフリカ6カ国が合同で実施した感染症の検査能力強化のための研修でも、KEMRIは指導的な役割を果たしました。

JICAはこうした重要な役割を担うKEMRIに対しPCR検査キットを供与したほか、新型コロナを含む感染症対策を担うラボラトリーで検査にあたる人材などの育成に協力しています。

ほかにも、JICAはケニアに対して、2020年にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成するための財政支援として80億円の政策借款を供与。また、感染症対策人材育成のための留学生の受入れや保健省に派遣されているJICA専門家によるサポートのほか、治療の最前線である病院に対して、感染症患者を移動させずに診療できる日本製の超音波画像診断装置やX線診断装置を供与するなど、感染拡大の防止に貢献しています。

感染拡大防止に効果を上げたベトナムを支える包括的な協力

JICAはベトナムで新型コロナウイルス感染症対策として「JICA世界保健医療イニシアティブ」の3つの柱である「予防」「警戒」「治療」の強化を包括的に推進しています。

JICAは長年、バックマイ病院、フエ中央病院、チョーライ病院の3つの中核病院をはじめ24の病院や感染症の研究と検査を担う国立衛生疫学研究所(NIHE)を支援し、ベトナム全土の医療体制の基盤整備と専門人材の育成に協力してきました。

こうした協力に加え、「予防」の観点では、2003年から民間製薬企業の協力を得て、ワクチン・生物製剤研究・製造センター(POLYVAC)に対し日本の麻しん風しん混合ワクチン製造技術を移転しました。この技術や経験を基に、現在POLYVACは新型コロナウイルスの国産ワクチンを開発しています。

「警戒」の観点では、NIHEは全国規模のPCR検査体制を整備するとともに、検査ガイドラインの作成なども主導しています。

「治療」の観点では、3つの中核病院が新型コロナ患者の受入れや診療を積極的に行い、院内感染対策などさまざまな経験や知見を蓄積。医師や看護師を地方病院へ派遣することで、それを波及させています。また、新型コロナ対策として感染症の診断・治療に必要な検査試薬や体外式膜型人工肺(ECMO)などの資機材を緊急的に支援したことが、感染拡大の抑え込みと重症患者への対処能力の強化にもつながっています。

麻しんワクチンを製造するワクチン・生物製剤研究・製造センターのベトナム人技術者

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