理事長メッセージ

ODAを通じて
自由で豊かな世界を
国際協力機構理事長 北岡伸一

ODAを通じて自由で豊かな世界を
国際協力機構理事長 北岡伸一

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界は大きな打撃を受けています。このような危機は、世界の構造的変化を加速させます。権威主義的な体制が台頭する一方、民主主義への信頼が低下する傾向が見られます。日本は他の民主主義諸国と協力し、自由で豊かな世界の実現に向けて力を尽くさねばなりません。日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP: Free and Open Indo-Pacific)」を外交政策の柱としています。これは、太平洋からインド洋を経てアフリカに至る地域において、自由、民主主義という共通の価値観の下、法の支配に基づく秩序、平和と繁栄を実現しようとするものであり、国際社会も支持しています。ICAが実施する政府開発援助(ODA: Official Development Assistance)は、開発途上国のインフラ整備、人材育成などを通じてこの実現に貢献するものであり、日本が国際社会で信頼を勝ち得るうえで極めて重要な手段です。

新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の命に対する脅威であるだけでなく、社会的脆弱層にはより大きな被害を及ぼし、「人間の安全保障」にとって大きな脅威です。「人間の安全保障」の実現をミッションとするJICAは、2020年7月に「JICA世界保健医療イニシアティブ」を立ち上げました。これは、各国の保健医療システムを強化し、新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症から人々の命を守る取り組みです。また、甚大な経済的影響を受けた開発途上国に対し、緊急財政支援も行ってきました。これらを通じ、「人間の安全保障」の実現を希求していきます。

一方、日本国内では、地域社会が日本で働く外国人材を受け入れ、共生する取り組みをパートナーと協力して進めています。その一環として、2020年11月に「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」を、日本国内の民間企業、地方自治体、NPO、学識者、弁護士など多様なステークホルダーと共に立ち上げました。日本もかつて移民を海外に送り出していました。移住者の送出機関を前身とし、開発途上国から多くの研修員・留学生を受け入れてきたJICAには、異なる文化を持つ人々と協働するノウハウがあります。長年の実績と経験を活用し、開発途上国と日本の地域の結びつきの強化に取り組んでいきます。

開発途上国との信頼関係をさらに深めるための取り組みも拡大していきます。JICAが長年重視してきたのは「国づくりは人づくり」という信念です。JICAは、開発途上国の経済・社会発展の基礎となる農業、教育、インフラ、産業開発などあらゆる分野で行政官や技術者の育成に取り組んできました。日本は非西洋国で初めて先進国となった国であり、この日本独自の近代化経験を学び、自国の開発に役立ててもらうことを目的とした「JICA開発大学院連携事業」や、この海外展開版である「JICAチェア(日本研究講座設立支援事業)」などの取り組みも実施しています。

また、JICAのもう一つのミッションである「質の高い成長」を実現するための協力も不可欠です。開発途上国との対話を通じ、持続可能性、包摂性、強靭性を伴う経済社会づくり、その土台となるインフラ整備の協力にも努めます。さらに、これまで培った開発途上国との信頼関係を基に、気候変動対策、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などの課題にも果敢に取り組んでいきます。

JICAは、これからも開発途上国の人々に寄り添い、自由で、民主的で、インクルーシブな格差のない社会を希求し続けます。関係者の安全対策を徹底し、「信頼で世界をつなぐ」というビジョンの下、世界の平和と繁栄のため最善を尽くしていきます。

2021年9月
国際協力機構理事長
北岡伸一