所長あいさつ

【画像】

ヨルダンは北海道ほどの面積の国で、四方をシリア、イラク、サウジアラビア、パレスチナ、イスラエルに囲まれており、歴史的にも複雑な経緯を辿ってきています。現在は立憲君主制を掲げ、欧米やアラブ諸国、またイスラエルとの間で絶妙のバランスを取り安定した国家運営が行われています。ヨルダンが安定していることは、中東全体の安定に大きな役割を果たしていると考えられています。

その一方で、石油やガスの産出に恵まれている周辺国と異なり、ヨルダンの天然資源は非常に限定的で、それらのほとんどを輸入に頼っています。
人口1人当たりの年間の水資源量も、世界平均7,800トンに対して約129トンと極端に少なく、世界で最も水資源の乏しい国の一つです。大きな製造業もなく、外貨収入源としては観光業や金融、サービス業以外にはほとんどありません。人口は約1千万ですが、失業率は約25%、若者に限ると約40%に跳ね上がると言われています。

このようなヨルダンに2011年以降、約130万人のシリア難民が流入しています。難民の生命や生活をどう維持して行くのか、また難民を受け入れているヨルダン政府やコミュニティの負担を軽減し、どう支援して行くのかが大きな課題となっています。

このような中、JICAは「安定の維持と産業基盤の育成」を基本方針として、
・自立的・持続的な経済成長の後押し
・貧困削減・社会的格差の是正
・地域の安定化
を3本柱とした対ヨルダン支援を進めています。

外貨獲得や雇用を生み出す観光分野では、死海文書を所蔵するアンマンの国立博物館や、有名なペトラ遺跡の博物館の建設、地元の方々を巻き込んだ観光開発などを通じて地域の発展を目指しています。古都サルトでは山口県萩市のご協力も得て「まちじゅう博物館」に倣った協力を行い、見事UNESCOの世界遺産登録への道を開きました。
水資源分野でも長年協力を行い、特に首都アンマンや、シリア難民が多く流入する北部一帯では日本の協力による給水が非常に大きな役割を果たしています。
このほかにもパレスチナ難民やシリア難民、彼らを受け入れているヨルダン社会の格差是正を図る協力を多く行っています。

日本は中東地域から原油の約90%、天然ガスの約20%を輸入していますが、今日ではエネルギーのみならず、一地域の混乱がグローバルに影響を及ぼす時代です。ヨルダンの安定は日本にとっても重要と言えます。これからも様々な活動を通じてヨルダンの経済社会・地域の安定、人々の生活の向上に取り組んでいきたいと思います。

JICAヨルダン事務所長
涌井 純二