今からおよそ10年前に中東地域で起きた「アラブの春」。
若者を中心とした民主化運動で掲げられた課題に対し、現地の人々は、そしてJICAはどのように向き合ってきたのか、その変遷をたどる。
「アラブの春」はどのような気づきを世界に投げかけているのだろうか。
文:久保田 真理 写真:高岡 弘
10年前といえば、入構1~2年目の若手職員は、勉強や部活動にいそがしい日々を過ごす中学生や高校生だった。
思い返すと、当時は遠い世界の出来事だった国際情勢。「アラブの春」の中心にいた若者たちと同世代となった今、彼らが置かれていた状況や民主化運動のその後をあらためて考える。
-今から10年前といえば、日本では2011年の東日本大震災に関する報道が連日行われていたことを思い出します。当時、中東地域で起きた「アラブの春」とは、どのような出来事だったのでしょうか。
-民主化運動はチュニジアから他国にも広がっていったのですよね。
-ひとつの国だけでなく、同時期に複数の国で次々に変化が起こったのは驚きです。こうした運動の広がりには、SNSの力が大きかったと聞きます。
-「アラブの春」は、その後どうなっていったのでしょうか。
「アラブの春」の発端となったチュニジアでは新しい憲法の制定や議会選挙、大統領選挙と、他の国に比べて民主化の動きが着実に進みました。それには、チュニジア国内に穏健なイスラム政党が残ったことが大いに関係しています。民主化運動が他国に波及してシリア、リビアやイエメンが内戦状態になり、チュニジアのイスラム過激派がこれらの国へ移りました。国内に残った穏健なイスラム政党が、近代的な政治制度の下でイスラム教以外の政党と協力しながら国を統治していこうという考えを持っていたからこそ、民主化の動きを進めることができたのです。ヨルダンやモロッコでも民主化運動が起きましたが、国民から敬愛されている国王下での王政の場合、決定的な対立は起きずに混乱は収束し、両国では憲法改正が実現しています。
冬が厳しい地域では「春」と聞くと雪解けなど肯定的なイメージを持つことが多いでしょう。でも、中東地域では「春の後には耐え難い夏がくる」と表現する人がいるように、「アラブの春」はかならずしもよい結果をもたらさなかったケースもあります。民主化運動後、民主的に大統領が選ばれても、その後すぐに政権が交代した国もありました。またシリアでは、民主化運動に対し政府が厳しい態度で臨み、現在でも政府と反体制派の間で内戦状態が続いています。死者は約50万人、周辺諸外国に約550万人以上の難民が流出し、今世紀最大の人道危機といわれるほどの混乱を招きました。国によってもたらされた状況はほんとうにさまざまです。
-なぜこんなにも国によって異なる結果になったのでしょうか。
-民主主義を担っているのが私たち自身だという考えは、ふだんあまり意識しないことかもしれません。民主化運動が求めていたものや民主主義の基礎-日本で生きる私たちにとっても、考えさせられますね。
-「アラブの春」が広がった中東地域は、ほとんどの日本人にとってあまりなじみがないと思います。アラブの石油王や砂漠といったイメージもありますが、紛争やテロを連想する人も多いです。池上さんは中東地域に対して、どのような印象や思いがありますか。
-池上さんが中東地域を訪れたときの、印象的な経験をお聞かせください。
「お茶を飲んでいきませんか」と言って客人をもてなす習慣があり、取材に行くとどこでも優しい対応でした。ヨルダンでは私が日本から来たと伝えたら、「日本と中東は同じアジアですね」と言われ、とても印象的でした。たしかに、アジアというくくりではサッカーのワールドカップでも日本とヨルダンは同じ予選を戦うことになる-そう考えると親近感が湧きました。
私は中東地域を訪れると、必ず町の本屋をチェックしています。いろいろなコーランが売られているのを見るのも楽しいですし、また、コーラン以外の本がどれだけ読まれているかについても確認しています。たとえばイランは現在アメリカからの経済制裁を受けていますが、イランの人々はいろいろな本を読んでいて、経済制裁を解かれた暁には大きな力を発揮するのではと、自分なりに中東地域の今後を予測したりしています。
中東地域は食事がおいしいですし、優しい人が多い。事件や出来事から"怖いところ"と決めつけてしまうのはとても残念です。多様な地域であることに目を向けてくれる方々が増えたらうれしいですね。
チュニジアで発生した民主化運動に端を発し、2011年初頭から中東地域の各国で本格化した一連の民主化運動のこと。チュニジアやエジプト、リビアでは政権が交代し、その他の国でも民主化運動で要求されたことを政府が受け入れる結果になった。
それまではきわめて限定的にしか政治参加できなかった一般の民衆が変革の原動力となった点が大きな特色。民主化運動に参加した民衆はツイッターやフェイスブックなどのSNSや衛星放送等のメディアによって連帯と情報共有を図り、かつてないスピードで国境を超えて民主化運動が拡大していった。
A)モロッコ
B)ヨルダン
1)チュニジア(注1)
2)リビア
3)エジプト
4)イエメン
(注1)2014年に新憲法を制定。
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ジャーナリスト、東京工業大学特命教授。1950(昭和25)年生まれ。1973年にNHKに記者として入局。報道記者や番組キャスターなどを務め、2005年に独立。『伝える力』『おとなの教養』『新・戦争論』(共著)ほか著作多数。2013年、伊丹十三賞受賞。
担当:北マケドニアなど
学生時代は中東地域やイスラムについて学び、トルコに1年間留学しました!
担当:イラク・レバノン
中東への渡航経験がなく、日々勉強中。早く出張に行きたいです。
担当:モロッコ
タジン鍋、クスクス、フムス、ファラフェル等のおいしい中東料理が大好きです。
担当:パレスチナ
学生時代にヨルダンに1年間留学し、シリア人とパレスチナ人とルームシェアをしていました!