2022年2月15日
「世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が広がり、各国が自国での対応に追われるなか、マスクをはじめとした医療資機材を輸入に依存していたアフリカは後回しにされ、孤立が顕著になりました。『他国に頼っていられない、自分たちで何とかしなくては』という機運がアフリカで高まり、現地の民間企業がさまざまな解決法を生み出すなか、その企業の成長を後押しできないか、というのが、このプログラムの発端です」
現在、JICAとアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)が連携して進める「Home Grown Solutions(HGS)アクセラレータープログラム」。コロナ禍という危機をチャンスに、アフリカ発の製品やサービスで、保健医療分野の課題解決を目指す現地企業をサポートとする取り組みです。このプログラムの運営を担う老川武志リーダー(ボストン・コンサルティング・グループ)は、プログラム発案の経緯を語ります。
コロナ禍といった危機に対応するためには、平時から自らの保健医療体制を強靭にしておくことが不可欠です。アフリカの保健医療体制の向上に奮闘する現地企業を支えるこのプログラムの動きを追います。
新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年4月、JICAとアフリカ連合開発庁は、アフリカの孤立という危機のなか、自らたくましく解決策を探る保健医療分野の現地民間企業の動きに着目。ただ、この分野では、企業が成長するには、経営課題に対するアドバイスの不足や、資金調達といった面など、各企業それぞれ異なる課題を抱えていました。そのような民間企業の成長を加速させるため、まずは東アフリカ地域を対象に「Home Grown Solutions(HGS)アクセラレータープログラム」が考案されたのです。10月には詳細が決定、12月には企業の応募開始と、迅速に実施に向けて動き出しました。
このプログラムの特徴を老川リーダーは次のように述べます。
「さまざまな企業支援との違いは、まず、保健医療分野に特化していること。そして、スタートアップに限定せず、代々続くファミリー企業や中小企業でもイノベーションを起こしている企業であれば対象としました。また、アフリカ連合開発庁が主導していることも特徴です。保健医療分野は承認や審査など規制が多いため、政府機関がしっかりと企業をサポートすることが必要であり、アフリカ各国政府機関との強いパイプを持つアフリカ連合開発庁のプログラムであることは大きな意味を持ちます。さらに、各企業への支援は完全にテーラーメイド。こちらでメニューを用意して当てはめるのではなく、何が困りごとなのか、ビジネス拡大に向けて何が必要なのか、我々経営コンサルタントが企業とじっくり協議して、具体的な支援策を作り上げます」
保健医療分野にどれだけのインパクトをもたらすことができるか、中長期的にビジネスとして成り立つか、といった観点で、応募企業56社から5社がプログラムの対象企業として選考されました。2021年4月から約6か月間にわたり、集中的な経営支援が実施されるなか、5社それぞれが予想を上回る成長を果たしたのです。
「注射器といった基礎医療用品の製造を手掛けていたリバイタル(ケニア)は、ビジネス拡大のための資金調達が課題でした。そのため、投資家に対して、自社をどのように売り込むのかなど具体的な方法を協議し、実行に移した結果、民間投資家や財団から7億円規模の資金調達を達成。それに伴い、製造ラインを拡大し、注射器の製造数は約3.5倍となり、さらに、アフリカ域外への輸出も増やすことができました」
老川リーダーは、企業の成長を加速させるというプログラム本来の成果を語るとともに、現地企業自ら、アフリカの保健医療体制をどうにかしたい、という強い意気込みを感じたと言います。
「経営コンサルタントとしては、収益を上げやすいビジネスモデルを提案しがちなのです。でも、例えばウガンダで医療機関がない村落でも妊婦の診察ができるモバイル超音波診断を提供するエムスキャンのCEOの姿勢は違っていました。彼は、収益が見込まれる都市部でこのビジネスをしても意味がない。このビジネスの意義がわかってもらえる投資家にサポートしてほしい、というスタンスでした。本人も検査技師で、自身が直面してきた地方部での医療アクセスの難しさといった課題を解決したい、というぶれない意志にはっとさせられた瞬間でした」
2022年は、アフリカ全土を対象にプログラムを拡充させます。すでに25ヵ国から160社の応募があり(2月7日応募締め切り)、今後、選考を経て、3月末には約15社が選ばれ、4月から6か月間の経営支援プログラムが始まります。
「今年は、アフリカ連合開発庁がけん引役となってプログラムを運営してもらえればと思っています。アフリカ企業を対象としているので、やはり運営もアフリカが主導し、今後もプログラムを自立的に継続させてもらいたいです」と老川リーダーは述べます。
アフリカ連合開発庁はプログラム開始当初、これまであまり経験のない民間企業への直接支援については若干とまどいをみせていました。しかし、経営支援を受けた5社の成長を目の当たりにし、今では同庁のイブラヒム・アッサン・マヤキ長官自ら、プログラム先導の旗振り役を務めています。
プログラムが年々、継続されることで、支援を受けた企業間のネットワークも構築され、そのなかでビジネス連携が進めば、さらなる企業の成長も期待でき、アフリカの保健医療体制の強化につながります。
「さまざまな課題解決に向け、日本がアフリカとの共創を目指すなか、アフリカの民間企業の活力にもっと目を向けていく必要があると考えます。そのなかで、JICAは触媒となって、社会的な課題開発を図る現地企業の力を国造りに結びづけることができるような役割を担っていくことも重要だとかと思います。今年チュニジアで開催が予定されるTICAD8(第8回アフリカ開発会議)で、ぜひ日本はアフリカの民間企業へのさらなる支援を打ち出してほしいです」
そう語る老川リーダーは元JICA職員。タンザニア事務所勤務などを経て経営コンサルタントに転身しました。現在、ケニアを拠点に官民双方の観点から、アフリカの現地企業の成長を支えます。