二重の危機への対応 ━ 地域の混迷とコロナ禍
中東地域では、多くの国で政情不安が続いています。イエメン、シリア、リビアでは内戦により基礎的なインフラが破壊され、教育機会は喪失。シリア難民の流入・固定化は、ヨルダン、レバノン、トルコの大きな社会・経済的負担となり、「アラブの春」の唯一の成功例といわれていたチュニジアにおいても政治・経済は混迷しています。
欧州地域では、西バルカン諸国にEU加盟を目指す改革の機運が見られる一方で、2022年2月に発生したウクライナの紛争の影響は、ウクライナ避難民を受け入れる東欧諸国だけでなく、エネルギーや食糧価格の高騰など、世界中に波及しています。
また、両地域において、高い水準にあった失業率がコロナ禍によりさらに悪化。貧困率も高まっており、貧困・脆弱層への支援が各国において求められています。
中東・欧州地域の平和と安定は、日本を含む国際社会の平和と繁栄に不可欠との理解の下、2021年度は、①地域の安定化と人間の安全保障の確保、②質の高い成長、③人材育成・交流や親日・知日家の育成、④地域的な取り組みの推進の4点を柱に、中長期的な視点も持って協力を進めました。
具体的には、ヨルダンに対し、国内に滞在する難民に対してコミュニティレベルで適切な精神的・心理的なケアを提供できる体制の強化に協力するとともに、シリア難民に日本の大学での教育機会を提供しています。
また、雇用の拡大と産業のイノベーションの促進に向け、チュニジアでは地元産品の品質や生産性の向上に協力し、モロッコでは日本の民間企業の知見を生かしオリーブの搾りかすの資源化事業を実施しています。
日本式教育の推進を目指すエジプトでは、就学前教育から大学まで幅広い協力を実施しており、日本式教育を取り入れたエジプト日本学校(小学校)も48校が開校。セルビアやトルコなどの主要大学でもJICAチェアを展開し、親日・知日家の育成に貢献しています。
さらに、日本、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンの4者による地域協力により、パレスチナの経済的自立を促す中長期的取り組みの一環として、パレスチナやヨルダンでは、歴史的価値の高い遺跡の修復や地域の観光資源の有効活用を行い、地域経済の活性化と雇用の促進に貢献しています。
国際協力機構 年次報告書 2022