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人と人、国と国をつなぎ、
SDGsの達成を


国際協力機構理事長
田中明彦

2022年4月1日付で理事長に就任しました。6年半ぶり2度目の就任となりますが、この間に世界は大きく変わりました。ミャンマーやアフガニスタンでは政変が起き、ロシアによるウクライナ侵攻により多くの死傷者や避難民が発生するなど、自由主義的国際秩序は今世紀最大の挑戦を受けています。

新型コロナウイルス感染症が未だ収束しないなか、この戦争は世界経済にも大きな打撃を与えています。気候変動に起因するとみられる自然災害も世界各地で増加しました。このような現在進行中の複合的危機は、全人類への脅威であり、開発途上国の経済社会、とりわけ、貧困層など最も脆弱な人々に甚大な影響を与え、持続可能な開発目標(SDGs)の達成も危ぶまれています。

この危機を乗り越え、国際社会の平和と安定および繁栄を確保するために、日本は国際社会をリードし、協調、協力を進めていくことが重要です。これまで日本は、世界経済のダイナミズムの中心となりつつあるインド太平洋地域において、自由・民主主義、法の支配、航行の自由といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化のために、外交政策の柱である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP: Free and Open Indo-Pacific)」の実現に取り組んできました。今後、これをさらに力強く推し進める必要があります。

JICAは日本のODA実施機関として、「信頼で世界をつなぐ」というビジョンの下、「人間の安全保障」と「質の高い成長」をミッションの両輪として、SDGsを達成するため4つの重点課題「People」「Planet」「Prosperity」「Peace」への協力を行っています。また、現在進行中の複合的危機に対しては、これまで以上に強靭な社会、そして、より良い未来を共に創っていく、創造的復興(Build Back Better)の実現に取り組みます。

具体的には、開発途上国の保健医療システムの強化を目指す「JICA世界保健医療イニシアティブ」の推進や経済対策・社会的脆弱層への支援などを通じて、開発途上国と共に新型コロナウイルス感染症の危機を乗り越えていきます。また、それぞれの国の実情に合わせた気候変動対策を支援し、強靭な社会づくりを後押ししていきます。

またFOIPの実現に向けて、法の支配・ガバナンス分野や海上保安分野への協力のほか、地域の連結性強化に資するインフラ整備などを行い、普遍的価値の浸透に向けた取り組みを行っていきます。

ウクライナに対しては、情勢を注視しつつ、国家基盤を支える協力、避難民および周辺国への協力、そして、これまでJICAが他国で培った経験を生かした復旧・復興開発支援に取り組みます。アフガニスタンは、2022年6月に震災にも見舞われ厳しい情勢下にあることなども踏まえ、国際機関と連携した事業など、幅広い人道ニーズに応える支援を継続していきます。

さらに開発途上国において、「国づくりは人づくり」の考え方に基づき、JICAの強みを生かした人材育成を展開します。また、日本独自の開発経験を共有する「JICA開発大学院連携」や「JICAチェア」などの取り組みを通じ、親日派・知日派リーダーの育成にも引き続き貢献していきます。

そうしたなかで、日本国内の少子高齢化による労働人口の減少という課題に対しても、将来の日本の国のあり方も考えながら、JICAが持つ国内外での経験や人的資源を活用して貢献していきたいと考えています。日本で就労する外国人材の適正な受入れや、日本国内の多文化共生社会の構築に向けた支援を行うことで、開発途上国と日本の双方の関係強化と発展を目指します。

2021年にJICAは開発インパクトを最大化するために、「JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略)」を策定しました。同アジェンダは、国内外の多様な力を結集し戦略的にそれぞれの課題に取り組み、各国のSDGsの達成や地球規模の課題解決に貢献せんとするものです。

またJICAは、多様なパートナーとの共創、広範な資源動員、さらには科学技術・デジタル技術の活用を推進し、革新的な取り組みを促進すると同時に、事業・組織運営の両面でジェンダー平等を含む多様性を尊重していきます。

JICAの事業は、現場での活動の積み重ねであり、人と人、国と国との「つながり」を深めていくものです。新型コロナウイルス感染症の影響を受けていた専門家や海外協力隊の派遣、研修員の来日など、人の往来も本格化しつつあります。安全を第一に、可能な限り早く現場での活動をコロナ禍以前の水準にまで戻し、開発途上国に「Japan is back」というメッセージを届けていきたいと思います。

2022年8月
国際協力機構理事長
田中明彦

国際協力機構 年次報告書 2022