プロローグ Vol.9 ラオスと地元地域の未来づくりをサポート

文:石原 修

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イラスト:中村知史

600年前に沖縄に伝わって泡盛の起源となったという説もあるラオスの地酒、ラオラオ酒。2013年に初めて訪れたラオスで、この国の有望な産業となると確信し、持続可能な地域社会を住民自らの手でつくってほしいとの思いから「美(ちゅ)らラオプロジェクト」を始めた。農業従事者の多さや米価の低さに加え、沖縄と異なり台風災害も少ないので、米加工品の可能性が高く、沖縄の泡盛業界が協力することで、ラオスの人々の役に立つことができると思った。

今ではアタプー県サーイ村の人たちによる工場での地酒造りが始まっており、私たちは協同組合の運営ノウハウや、酒造りの技術、マーケティングのノウハウを伝えてきた。当初、工場建設を始めたのは、ラオラオ酒を造っている女性たちだったが、工場建設地の権利関係で村の実力者からの横やりが入ったり、工場が動き始めると、女性たちは経営に参加できなかったりした。村を代表する男性たちが物事を決めて進める慣習があり工場経営に乗り出したが、私たちが入り調整することで今では女性たちが代表などの主要ポストを担ったり、自ら販路拡大にチャレンジしたりと活躍している。工場建設を考えた中心メンバーであるゲオさんから「これからは、サーイ村の女性たちもつねに考えて決めることをやっていく」と言われたことがうれしく心に残っている。

僕がつねに考えていることは、関わるすべての人がたがいに高め合える関係を構築できるようになること。そして、彼らが地域の未来を創っていくことである。

ウィン-ウィンの関係を大切にするなかで、ラオスと沖縄県の橋渡しにも取り組んできた。ラオスでの自分の活動について講演会を行ったりしているうちに、県内の高校生たちによるラオス訪問のサポートもするようになった。

そんななか、2018年7月に県の主催で高校生がラオスを訪問することになっていたのだが、予定していたホームステイ先のアタプー県がダムの決壊で被災し、アタプー県への訪問は中止になってしまった。それを知った高校生たちから、「自分たちも何かしたい」と相談が来た。僕からお願いしたのが、「高校生のレベルで何ができるか」を考えるのではなく、「今、被災したラオスの人たちに何が必要か」をみんなで話し合ってほしいということ。そして「本気でやるんだったら、本気で向き合う」と返事をさせてもらった。本気であることが、最後までやり遂げる上で大切だと思ったのだ。

被災した地域には日本の支援で建てられた小学校もあって、高校生たちは、「ラオスの子どもたちのために居場所を作りたい、学校を建てたい」との結論を出した。

そして、それぞれの学校内はもちろんのこと、街頭や経済団体、大学や講演会の集まりなどさまざまな場所で募金活動を行い、418万円もの寄付を集めた。

集まった寄付金は、代表3名の高校生が「美らラオプロジェクト」メンバーと一緒にラオスを訪問して、アタプー県知事に手渡すことができた。被災地訪問では「被災して厳しい状況下にあるにもかかわらず、対応してくれたラオスの人びとのやさしさや心のゆとりはどこから来るんだろうと、すごく考えさせられた」という。彼らは、教育大臣や外務副大臣との面談、被災地訪問、関係部局との学校建設の打ち合わせ、小学校での先生体験、プロジェクト現場の視察などを通じて、普通ではできない経験をしたと思う。

募金活動に始まり、ラオス訪問とこれらの深い体験によって自分なりの答えを見つけ、国際貢献のみならず、沖縄にとって必要な人材に育っていくのではと勝手に思っている。

ラオスでの協同組合の設立とラオラオ酒造り、そして沖縄の高校生たちの活動は、ともに未来をつくる活動だ。これからもラオスや地元地域の未来づくりをサポートしていきたいと思っている。

石原 修(いしはら・おさむ)

生活協同組合コープおきなわ 理事長スタッフ。2012年に国連が認定した国際協同組合年に地域活性化コンテストで全国最優秀賞受賞。まち・ひと・ものづくりサポーター、内閣府認定 地域活性化伝道師、全国商工会専門家、農林水産省6次産業化ボランタリーサポーター、沖縄県21世紀ビジョン策定委員会 地域離島振興部会委員、伊平屋村総合計画策定委員会 委員などを務める。

(注)コープおきなわはJICA草の根技術協力事業により、ラオラオ酒協同組合結成によるアタプー県共同体機能強化支援に取り組んでいる。