プロジェクトは、こうして進む! 力を合わせ、成果を上げる

D(ドゥ=実施段階)

プロジェクトの開始から終了までは何年にもわたり、多くの人が関わる。
日本と相手国の双方でどのようにプロジェクトが進められているのか、エジプトでの案件を例に紹介しよう。

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アスワンでの統計調査の様子。タブレットを使った調査を見守る松尾さん(写真左)。

プロジェクトは、こうして進む!

事前の実施準備

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日本から短期専門家を招いたセミナー。

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経済統計調査の様子。

案件を担当する主管部署は、JICA本部の産業開発・公共政策部のガバナンスグループ。行政、財政、金融、警察、法・司法など公共政策分野での事業を行っている部署だ。

事業開始に先立ち、同部が中心となり日本の総務省統計局とともにエジプトへ出張。協力目標の設定とプロジェクトの枠組みや活動内容などを実施機関の中央動員統計局(CAPMAS)と議論し、合意した。

次は、プロジェクトを推進する専門家の人選・派遣だ。担当する国際協力人材部が、統計分野に詳しく、日本での実務経験を基にプロジェクトを総括する専門家の人選を総務省統計局に依頼。また、総括の専門家をサポートし、現地での活動に必要な費用の管理や書類の作成、現地セミナーや研修の開催に必要な関係者との調整など、プロジェクトを円滑に進める業務調整の専門家をJICAの人材サイト(注)で公募、選定。それぞれの役割に求められる経験・知識が豊富な専門家二人の派遣が決まった。

この案件でのエジプトのニーズは、CAPMASが実施する各種統計調査の品質の向上。たとえば人口、失業、物価、企業・事業所、家計状況などの統計データがわかれば、行政施策や行政サービスが決められるように、中立で信頼性の高い統計データは、国の正しい姿を知り、政策に活用するうえで重要だ。

専門家二人は、開始当初から関係者と綿密に連携できたことが、プロジェクトの進行をスムーズにしたと語る。「CAPMAS内の各部署の担当者に入念なニーズ調査を行い、その結果を受けて、CAPMASの担当幹部を日本に招きました。総務省統計局とCAPMASが直面している統計の課題について協議でき、プロジェクト実施に大きな指針を得られたと思っています」。これによって必要な支援内容が整理され、専門家としてできる現場での支援、日本での研修、短期専門家による現地セミナーなど具体的な事業内容が決まり、プロジェクトはスタートした。

多くの機関や人が尽力

実施中は突発的な問題も起きる。2017年の国勢調査で、調査に必要なタブレットは、JICAエジプト事務所が提供することになっていたが、同一機種が大量に必要となるためエジプト国内では購入できないことがわかり、急ぎ日本の工場に発注して間に合わせた。「調査のスケジュールが遅れてはならない。なんとしても間に合わせるんだと迅速に対応し、エジプト側との信頼関係も高まり、ほっとしました」とエジプト事務所の山﨑一さんはふり返る。

日本での研修も4回行われた。研修員の宿泊・移動手配や講義資料の翻訳発注など研修実施に不可欠な業務はJICA東京が担当した。「研修員との距離を縮められるように研修に同行し、現地の言葉での挨拶などを通じ、おたがいの顔が見える積極的な交流を心がけました」とJICA東京の清水和貴子さん。そうした対応が、慣れない日本での研修に参加する研修員たちの励みにもなり、ひいては研修の成果につながる。

CAPMASの国際部長ホダ・モスタファさんは「約50人の職員を日本での研修に派遣でき、若い統計官の能力が上がりました」と成果を実感している。総裁アドバイザーのアフマド・カマールさんも「松尾さんと加藤さんがずっとエジプトに滞在し、常時コミュニケーションがとれました。日本の統計局や他の統計機関とも随時相談されていて、適切なアドバイスをいただけました」ときめ細かな対応に満足している。

相手国が望む支援を的確に行うために知識や経験を持った人材を現地に派遣し、彼らを中心にJICAのみならず多くの機関や人びとが力を合わせている。

プロジェクトの実施に関わる人びと-「中央動員統計局における統計情報の質向上プロジェクト」の場合-

エジプトサイド

エジプト事務所

山﨑 一(やまざき・はじめ)さん、モハメッド・アダムさん

在外事務所は物理的にも心理的にも実施機関に近いので、状況を正しく理解し、それを分かりやすく日本側に伝える役割があります。事務所スタッフのアダムはエジプトの事情を熟知し、日本人の考え方にも慣れているので、情報収集の上で重要なパートナーです。

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山﨑 一さん(写真左)、モハメッド・アダムさん(写真右)

専門家

総括の専門家 松尾和彦(まつお・かずひこ)さん

JICA本部やエジプト事務所、CAPMASと本音で相談しあえる環境でした。JICA本部と総務省統計局との間でも密接な関係をつくっていたため、JICA-CAPMAS-総務省統計局の間に顔の見える連携が十分に機能していて、ともてスムーズに実施できました。

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松尾和彦さん

業務調整の専門家 加藤大二郎(かとう・だいじろう)さん

JICA東京の手厚い支援で4回の研修が実施できました。研修員たちは帰国後、CAPMAS内での集会で総裁を前に報告。研修で得られた知識や経験をほかの職員も共有できていて、あらためて研修の大切さや意義を実感しました。

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加藤大二郎さん

CAPMAS

サブ・プロジェクト・ディレクター(国際部長) ホダ・モスタファさん

CAPMASと日本の統計局の間にさまざまな活動や交流ができたことも大きな成果。そのつながりをこれからも生かしていきたいと思います。

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ホダ・モスタファさん

プロジェクト・マネージャー(総裁アドバイザー) アフマド・カマールさん

プロジェクトを通して、CAPMASの若手職員は業務の課題や将来展望を考えられるようになりました。CAPMASの従来の手法を生かしながら、日本の経験を参考に、これから必要となる電子商取引の把握、ビッグデータの利用など、新たな調査や統計データ収集の手法について学べました。専門家の方々も積極的にエジプト各地を訪問し、実情把握に務めていただいたことも成果につながったと思います。

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アフマド・カマールさん

日本サイド

JICA東京

清水和貴子(しみず・わきこ)さん、橋本文成(はしもと・ふみなり)さん

日本全国で研修事業を展開する国内拠点15か所のひとつです。研修員受け入れは、専門分野の講義や視察を行う組織や、研修員に随行する研修監理員の方々などのご助力で成り立っています。さらに、地方自治体や市民団体、大学、民間企業など、その地方におけるJICAの総合窓口と活動拠点の機能も担っています。「JICAの国際協力事業は海外だけでなく国内でも行われている」ことを知っていただけるとうれしいです。

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橋本文成さん(写真左)、清水和貴子さん(写真右)

産業開発・公共政策部

中谷美文(なかたに・みふみ)さん

プロジェクト開始後の私たち主管部の仕事は、司令塔的な役割を担い、相手国側、専門家、日本側関係者と協議、調整して事業を進めるとともに、全体の進捗や予算を管理します。日本側関係者としては、総務省統計局に加えて、総務省の統計データ利活用センター、滋賀大学、和歌山県などに、研修員に対する講義や視察の受け入れなどに協力してもらいました。他国への協力は大変でもあるものの、自らの気付きになったりすることもあると、みなさん熱心に協力していただいてます。

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中谷美文さん

エジプト

【画像】国名:エジプト・アラブ共和国
通貨:エジプト・ポンド、ピアストル
人口:9,923万人(2019年エジプト中央動員統計局)
公用語:アラビア語

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首都:カイロ

エジプトでの近代的な手法による統計調査は、1882年から現在まで13回を数える国勢調査など、さまざまなものが行われてきたが、データの信頼性や処理手続きの改善、調査員の能力向上が課題となっている。