誰もが安心して暮らせる社会へ

読書へのハードルを下げ学びを広げる エジプト

安心して毎日を過ごせることは、すべての人が持つ基本的な人権である。
住み慣れた場所を追われた難民や障害者など、すべての人々が安心して暮らせる社会の実現のため、さまざまな協力が行われている。

文:光石達哉 写真:阿部雄介

【画像】

プロジェクトの研修を受けたエジプト国立国会図書館のフーダ・ワヒード・ハサンさんが、日本で開発されたアラビア語対応「プレクストークプロデューサー」を使ってDAISY図書を製作する。

すべての人に読書の喜びをエジプトでDAISY普及

【画像】

カイロの中心、ナイル川沿いに建つエジプト国立国会図書館。2020年中にはDAISY図書閲覧室も開設される予定だ。

【画像】

DAISY図書製作の研修を受けたエジプト国立国会図書館の(左から)ホサム・ハサンさん、フーダ・ワヒード・ハサンさん、ヘンド・モハメット・ハサンさん。研修では、最初の5日間で文章と音声の同期の仕方などソフトの使い方を学び、その後2か月かけて1冊のDAISY図書を製作する。

紙に印刷された本を読むのが困難な、読書障害のある人たちがいる。これを引き起こすのは視覚障害、ディスレクシア(発達性読み書き障害)、脳梗塞や自動車事故による脳機能障害、腕や眼球をうまく動かせない身体障害などさまざまだ。こうした人たちのために、テキストや画像を同期させ、パソコンやタブレットで再生するデジタル録音図書の国際規格DAISY(注)(デイジー)が開発された。このDAISY図書は、日本をはじめ世界中で読書や勉強のために活用されている。

エジプトでは、初等教育のドロップアウト率は約20パーセント、非識字率は約25パーセントという状況にあり、さらに、障害のある子どもに配慮した教育提供も限られており、彼らの学びをサポートするDAISYの普及も遅れていた。

そこで、福祉機器などを製造する長野県のシナノケンシ社(ASPINA)が、JICAの民関連携事業により世界初のアラビア語対応DAISY図書製作ソフト「プレクストークプロデューサー」を開発。2019年3月から、このソフトを使ってDAISY図書の製作スタッフを育成するプロジェクトがスタートした。これまでエジプト国立国会図書館などの職員計18人が研修を受け、2020年6月までにはさらに24人が受講する予定だ。新たなアラビア語のDAISY図書も次々と生まれている。

研修を受けたホサム・ハサンさんは「ワークショップでDAISY図書を読んだ子どもたちは、内容が理解しやすいと興奮していた。エジプト政府は、特にこのような情報アクセスの分野で障害者の支援に力を入れ始めている。今後はエジプト発で、他のアラブ諸国にも広げていきたい」と使命感に燃えている。

(注)Digital Accessible Information System(利用しやすい情報システム)。

【画像】

子どもたちがDAISYを体験するワークショップを複数回開催。絵本や動物・昆虫の図鑑などを読んで、うれしそうな表情を浮かべた。

【画像】

DAISYでは読みたいところをハイライト表示したり、音声で再生したりできる。文字の色や大きさ、背景色なども変えられ、さまざまな読書障害に対応する。

チーフアドバイザー 河村 宏(かわむら・ひろし)さん

【画像】

河村 宏さん

日本におけるDAISY研究開発の第一人者で、DAISYの普及に取り組むNPO「支援技術開発機構(ATDO)」の副理事長も務める。「エジプトではまだプロジェクトが始まったばかりで、スタッフもDAISY図書の数も少ない。しかし彼らの熱心な仕事ぶりを見ると、思っていたよりも早く普及するのではと期待しています」。