社会参加の促進を case2

仕事とスポーツで自信をつける ラオス

ラオスで20年以上にわたり障害者支援を行ってきたアジアの障害者活動を支援する会(ADDP)。
スポーツと就労支援の両輪で、障害者の意欲を高めている。

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クッキー工房の仲間たちと。前列左端がマニチャンさん。

「私たちが活動を始めた頃、ラオスの障害者の多くが教育や保健、医療のサービスを受けることができていませんでした。家に閉じこもっていた彼らに出てきてもらい、社会とつながる手段として選んだのがスポーツ活動でした」とふり返るのはアジアの障害者活動を支援する会(ADDP)の中村由希さん。会の活動は、障害のある人に声をかけ、車いすバスケなどのスポーツに誘うことから始まった。「はじめは『こんなことできないよ』と消極的だった人も、続けていくうちにうまくなり、積極性や自信が生まれてくるのがわかりました」と中村さん。そんな人たちの中から「自立して生活したい」「仕事をしたい」という声が上がり、就労支援の活動も開始した。日本から専門家を招いたクッキーやパン作り、車の修理、美容、農業、清掃などの職業訓練を行ってきた。

仕事にもスポーツにも自信をつける

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【クッキー作り&パラ・パワーリフティング】マニチャンさん

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「マルシェ・ド・ラオ」のクッキーは空港などでも販売され、ラオスのお土産として人気。

クッキー工房「マルシェ・ド・ラオ」のチーフとして働くマニチャン・チャンタボンサさんは、ADDPによる製菓の職業訓練を受けた第1期生だ。マニチャンさんは下肢に障害があり、おとなしい性格だったが、レシピに忠実にクッキー作りに取り組み、工房のリーダー的存在になっていく。後輩たちの指導にもあたり、工房を訪れた視察者に対してもクッキーの作り方や大切にしていることを自分の言葉で伝え、「これが私の仕事です」と誇りと自信にあふれる姿を見せている。

自信をつけたのは仕事の面だけではない。同僚たちが車いすバスケットボールや水泳をやっているのを見て、マニチャンさんもスポーツに興味を持った。そこで始めたのが、下肢に障害があってもできるベンチプレス競技、パラ・パワーリフティングだ。終業後ADDPオフィスの1階にある練習場に通っている。「自分で設定した目標に向かって練習し、達成できたときはとてもうれしい」とマニチャンさんは笑顔で答える。「パワーリフティングを始めてから、仕事にもより一生懸命取り組むようになり、とても明るくなりました」と、中村さんは言う。

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知的障害のあるスタッフにクッキー作りを指導するマニチャンさん(写真右)。

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マニチャンさんが初めてクッキー作りを教えたダウン症のスタッフ。

支援される側が支援する側に

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【カフェ&サッカー】スッパーバンさん

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スッパーバンさんは、カフェで働いた後、同僚たちと一緒にサッカーを楽しむ。

2015年、クッキー工房で初めてダウン症の女性をスタッフとして受け入れたときに、親身になって仕事をサポートしたのもマニチャンさんだった。その様子を見た中村さんたちは、知的障害のある人もサポートがあれば十分に職場で能力を発揮できると考え、外務省のNGO連携無償プログラムの支援を得て、16人の知的障害の若者たちの就労支援を行った。工房ではマニチャンさんが、身体障害者として初のジョブコーチ(就労支援員)となり、職業訓練のサポートや仕事環境の整備、教育教材の作成を行った。ADDPの中野枝実さんは「日本人の専門家の協力もありましたが、マニチャンさんは他者へのまなざしがやさしく、みんなのことをとてもよく見ています。すばらしいジョブコーチです」と太鼓判をおす。

16人のうちの一人、スッパーバン・センマニーさんは今、工房での訓練を終えて首都ビエンチャンにある「みんなのカフェ」で働いている。心臓に疾患があるので激しい運動は難しいが、サッカーやエアロビクスを楽しみ、仕事と両立させている。「スポーツ活動をしている人の就労率は高い。スポーツを通して『自分もできるんだ』と自信を持つことが生活全体の意欲向上につながり、仲間もできる。リフレッシュの効果もあります。今後は、意欲のある人たちを一般の企業での就労につなげたり、知的障害のある人たちの就労の場を広げたい。やりたいことはまだたくさんあります」と中村さんは言う。スポーツと就労支援-その二つの柱でラオスの障害者たちの環境をこれからも変えていく。

特定非営利活動法人NPO アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)

1992年設立。東南アジアのラオスで、教育や就労の機会に恵まれず尊厳が失われている障害のある人々に、自分自身の可能性と持てる力を最大限に生かし社会の一員として自立するための支援を行う。

中村由希(なかむら・ゆき)さん、中野枝実(なかの・えみ)さん

ADDPが支援している人のなかには、オリンピック・パラリンピックの選手候補になっている人もいます。そうしたアスリートだけでなく、どんな障害者もスポーツを楽しみ、仕事もできる、そんなラオスにしていくお手伝いを続けます。

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中野枝実さん

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中村由希さん

アジアの障害者活動を支援する会

東京都板橋区板橋3-57-5 美咲マンション1階
電話番号:03-6915-5545

ラオス

【画像】国名:ラオス人民民主共和国
通貨:キープ
人口:約706万人(2018年、世銀)
公用語:ラオス語

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首都:ビエンチャン

インドシナ半島の内陸国。面積は日本の本州とほぼ同じ。国土の約70%が高原や山岳地帯で"森の国"と称される。気候は熱帯性モンスーンで雨季と乾季に分かれる。1975年、ラオス人民革命党が王政を廃止し、ラオス人民民主共和国を無血で樹立した。