技術力に高まる期待 ロボットが変える下水管の維持管理 マレーシア

下水管の損傷が社会問題になっているマレーシア。
原因は維持管理が十分に行われていないことにある。
「維持管理をより低コストで、簡単に」-日本発の維持管理ロボットは、マレーシア下水道事業の救世主を目指す。

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2019年7月に行った施工の実演の様子。参加者からは「現場で使用してみたい」など好意的なコメントが寄せられ、現地の新聞でも取り上げられた。

“モノ作り”の力でインフラ課題に挑みます!

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首都:クアラルンプール

日本は1970年代からマレーシアの下水道に関する協力をしてきた。その成果もあって、現在では国民の約7割(注)が下水道を利用できるようになっている。いま問題となっているのは、そうして敷設された下水管が、経年劣化や腐食、異物の詰まりなどによって傷んできていることだ。

傷んだ下水管を交換する作業は生活への影響や自治体の負担が大きい。大事なのは、損傷が小さなうちに異物を取り除いたり亀裂を補修したりして延命を図る、予防保全だ。しかし現地では、予算やノウハウの不足などから対策が十分に行われていないのが実情。

そこで活躍を期待されているのが、人が入れない狭い空間でも異物の除去等ができる下水道維持管理ロボットだ。こうした機器を扱う北菱(ほくりょう)はJICAと連携して2019年に現地調査を開始。自社製品が現場の需要に応えるかどうかの確認や、販路の開拓などを行った。

(注)JICA「マレーシア国 大都市圏上下水道PPP事業 準備調査(PPPインフラ事業)報告書」、2012年6月。

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下水管の損傷により、水が溢れ出しているクアラルンプールの道路。

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損傷の原因の一つは木の根の侵入。写真は下水管の中に入り込んだ木の根の様子。

現場が寄せる熱い期待

代表取締役の谷口直樹さんは、マレーシアで事業を展開することの意義を次のように話す。「ロボットの普及は、技術の効率的な活用により下水処理能力の向上を目指す、マレーシア政府の方針と合致します。弊社はもともと日本国内向けにロボットを開発してきましたが、パワーと扱いやすさの両立、堅牢性、低価格にこだわって開発した結果、途上国の需要にも応えるものになりました」。現地の販売代理店や下水道維持管理の施工業者に向けた実演会では、性能の高さに驚きの声が上がりその場で見積もりを求められるなど、確かな手応えを感じたという。

現在は、ロボットの保守サービスや周辺国への展開も見込んで現地の販売業者との協力態勢強化に取り組んでいる。さらに、将来的には現地拠点の設立も視野に入れているという。「下水道の維持管理は、マレーシアだけでなく日本も直面している世界的な課題です。弊社が30年以上にわたって培ってきた技術は、日本はもちろん、世界の持続可能な下水道事業の実現にも広く貢献できると信じています」と、谷口さんは力強く語った。

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下水管内の異物や木の根を除去できる「スーパーミニモグプラス」。約25キログラムと軽量で操作も簡単。機能をシンプルに設計して、価格を低く抑えた。

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下水道維持管理ロボットの先端にカッター刃を取り付け、管内の異物除去や補修時にも活用できる。

地方から世界を目指す 北菱

北菱 代表取締役 谷口直樹(たにぐち・なおき)さん

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谷口直樹さん(中央)。「"モノ作り"の力でインフラ課題に挑みます!」

1950年創業。石川県を拠点に建機部品・航空エンジン部品の加工製造、下水道維持管理ロボットの開発・製造販売などの事業を行っている。外国人材の受け入れなどSDGsにも積極的に取り組んでおり、現在20名ほどの実習生が難度の高い溶接などの技術を学んでいる。

「スーパーミニモグプラス」は2019年度グッドデザイン賞やエコデザイン賞の大賞を受賞。これからの社会が維持管理ロボットに求める、さまざまな要件を満たした点が評価された。