みんなで知恵を出し合い、ともに動く ニジェール

子どもを学校に通わせる保護者と地域に暮らす住民たちが教員と協力して、自主的・自立的に子どもを取り巻く課題の解決に取り組む-そんな「みんなの学校プロジェクト」がアフリカに広がっている。

文:松井 健太郎

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読み書きや算数に取り組む子どもたち。正規授業だけでは足りない学習時間を確保すべく、学校運営委員会を中心に課外補習活動を立案・実行している。

学校運営に住民が自主的に参加

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学校運営委員会の選挙の様子。代表や会計、書記などが選出されたのち、彼らが住民を集めて総会を開き、ともに活動計画をまとめていく。

2004年にニジェールの23の小学校から始まったJICAの「みんなの学校プロジェクト」は今、西アフリカを中心に7か国、約4万5千校で実施されるに至っている。広がりを見せる背景には、保護者や地域住民が子どもたちの教育の必要性を強く感じていることと、保護者や地域住民主導の民主的な学校運営委員会が、子どもを取り巻く課題を解決するために学校活動に積極的に関わり、その実績が目に見えてきていることが挙げられる。学校運営委員会(以下、委員会)とは日本でいうところのPTA(注1)と似たものだが、地域に暮らす住民も参加できる点が異なっている。

ただ、2004年以前のニジェールの委員会は正しく機能しているとは言い難かった。当時を知る国際協力専門員の國枝信宏さんは、「学校はいわばエリート養成校であり、多くの地域住民には遠い存在でした。委員会のメンバーも有力者の一存で決められ、民主的ではありませんでした」と指摘する。そこでJICAは委員会を民主的にするために、代表や会計、書記などのメンバーを保護者や地域住民による選挙で選出することを提案した。「すると、学校をすべての子どもが通い学べる場に変えようと、保護者や地域住民が自主的に学校運営に参加するようになりました」。従来は、すべて政府頼みであったが、財政難のため学校の増築や設備の補充はなかなか進まなかった。一方、生まれ変わった委員会は、"自分たちにできることから取り組もう"という考え方をモットーに住民総会を開催。教員や保護者、地域住民が学校に必要なものは何かを挙げ、それを調達するための活動計画を立て、全体の承認を経てから実行する仕組みを確立した。保護者や住民が地域にある資源を使って、藁葺(わらぶ)き屋根の教室や土の机を手作りし、子どもたちの学びの環境を整えた。これはとても画期的な出来事だった。

(注1)Parent(親)-Teacher(教師) Association(組織)

JICA人間開発部 国際協力専門員 國枝信宏(くにえだ・のぶひろ)さん

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國枝信宏さん

学校とコミュニティの協働を引き出すみんなの学校プロジェクトを通じて、すべての子どもたちに質の高い教育を届けられるよう努めていきます。

地域の大人たちが補習活動の見守り役に

【画像】現在、ニジェールでは初等教育(小学校)の総就学率は2004年の約47パーセントから2017年には約75パーセント(世界銀行)にまで向上し、多くの子どもたちが学校に通えるようになった。一方で、学校に通ってはいるものの、大半の子どもたちが基礎的な読み書き・計算能力を習得できていない。そうした事情を受けて、委員会は放課後の補習活動も始めている。「教室や机といったハード面が整った後は、学校を卒業した地域の大人が補習活動の見守り役(ファシリテーター)をボランティアで担ったり、補習教材を用意したりするなど、ソフト面の充実に向けた取り組みが活動計画に上がってきています」と、國枝さんはプロジェクトが新たな段階に進んでいることを実感している。

なお、ニジェールの委員会の活動予算は、学校交付金の対象校には国から一部が補助されるが、ほとんどは保護者、地域住民、教員の物的・資金的・労働的な貢献によって賄われている。JICAも委員会に対して資金的な協力は行わず、おもに委員会の仕組みづくりや人材育成のための研修、子どもたちが理解を深めるための学習指導法のアドバイスなどを実施している。委員会の活動は基本的に教員と住民の協働であり、委員会メンバーに対する関係者の信頼が厚いのが特徴だ。

みんなの学校がニジェールで始まって2016年。小学校で学んだ卒業生のなかには、夢をかなえて教師になり、後輩である子どもたちに読み書きや算数を教えている女性もいる。ニジェール教育省とJICAは現在、小学校だけでなく中学校にもプロジェクトを展開しており、今後も委員会が中心となって子どもたちの教育環境の改善に貢献していく。

アフリカ7か国約4万5千校に広がる「みんなの学校プロジェクト」

2020年12月現在

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マリ 約1,450校
ニジェール 約19,000校
セネガル 約9,000校
ブルキナファソ 約12,000校
コートジボワール 約680校
ガーナ 約101校
マダガスカル 約2,650校

マリ 政情不安のなか学びの質を守る

みんなの学校では、それぞれの国の教育省とJICAが協力して、教員や保護者、地域住民に学校運営委員会の重要性や民主的な設立方法を説く研修が行われる。マリでは、多様な民族が暮らす事情に合わせて六つの言語の研修教材が制作され、多くの人の理解を深めた。また、同国では2012年にクーデターが発生したため、その後2019年までプロジェクト専門家の派遣を見合わせていた。それでも、子どもたちの未来を案ずる保護者や地域住民の強い思いによって、学校運営委員会は独自に活動を継続。子どもたちの学びも途切れることはなかった。

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六つの言語で研修教材を制作。補習活動の見守り役は学校運営委員会の発意で開催される住民総会で選出され、本人の同意を得て決まる。

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研修教材。

ブルキナファソ ネットワークを活用し手洗いの重要性を啓発

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各学校の学校運営委員会のメンバー(委員長、校長、保護者会長、母親会長)に手洗いの重要性を伝え、それを彼らが住民に伝達し実行した。

2014年から2016年ごろにかけて、西アフリカ諸国でエボラ出血熱が流行した。そのときブルキナファソはJICAとともに、各学校に設けられた学校運営委員会のネットワークを活用して、エボラ出血熱に関する情報、さらには感染予防には手洗いが重要であることをパンフレット、ポスター、Tシャツ等を配って周知させた。また、子どもたちに向けて世界保健機関(WHO)が提唱する手洗いの方法(「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」の歌に合わせて行う)を紹介し、手洗いの励行を呼び掛けた。

【画像】世界でやってみました!

マダガスカル 保護者や地域住民が給食を手作り

児童の出席率や集中力の向上、栄養改善を目的に学校給食活動を2017年からスタート。学校運営委員会の下部組織として給食委員会を設け、毎年1月から3月の農業の端境期(はざかいき)に給食を提供している。近隣農家から提供された食材等を活用し、保護者や地域住民が学校近辺の調理施設で子どもたちの給食を作っている。2019年は59校で実施し、約3か月間で月平均25日間分を提供。2021年は99校まで増やす予定だ。給食活動は保護者からの要望が強く、大統領も約2万5千校の全学校で実施する方針を掲げている。今後は国連世界食糧計画(WFP)など他のドナーとの連携も視野に入れて展開を図る。

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給食を前に笑顔の子どもたち。

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算数の掛け算の補習活動の様子。地面に数字を書いて正解の数字にジャンプしていくなど、楽しく学べる工夫もされている。

ニジェール

【画像】国名:ニジェール共和国
通貨:CFAフラン
人口:2,148万人(2017年、世界銀行)
公用語:フランス語

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首都:ニアメ

国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書2019」の人間開発指数(注2)が189か国中最下位。開発の阻害要因として教育の普及および人材育成の遅れがありその改善を進めている。

(注2)保健、教育、所得の三つの側面から見た国の平均達成度のこと。社会の豊かさや進歩の度合いを測る指標となるもの。