タジキスタンでは他国の出稼ぎ先からの送金が経済の柱の一つになっている。
自国で生活ができるようにするため、起業支援のプロジェクトに奔走する人々を紹介する。
タジキスタン人の印象を問われると、JICAタジキスタン事務所企画調査員の阿部直美さんは「とにかく働き者です。朝5時台のバスでも、仕事に出かける人が多く乗っています」と答える。また約930万人の人口のうち、約7割が30歳以下という若い世代が中心の国であることから「これからの発展に向けたタジキスタンの強みは、"人"だと思います」と言い添える。
タジキスタンは石油や天然ガスといった資源に恵まれず、主要な産業は綿花栽培やアルミニウム生産で、中央アジアの国の中では最低レベルの経済水準となっている。若年層の就職先が少なくロシアなどへの出稼ぎが常態化し、その出稼ぎ先からの送金がGDP(国内総生産)の約3分の1を占めているという状況だ。
そんな背景のもと、タジキスタン政府は中小企業の振興と起業家育成を国家の最重要課題の一つとしている。
JICAは、タジキスタン政府が進める起業家育成のための「ビジネス・インキュベータ」運営をサポートする「ビジネス・インキュべーション・プロジェクト」を、2020年3月からスタートさせた。
「ただ、新型コロナウイルス感染症の影響でプロジェクトの開始後、まだタジキスタンへ行けていません」と話すのは、プロジェクトの実施を委託された開発コンサルティング会社のアイエムジー代表・森真一さんだ。しかし、そんななかでもオンラインの会議を活用して現地のスタッフと協議を重ね、起業家育成のためのトレーナー(指導者)を育成するプログラムと、起業志望者に「ビジネスの基礎」を教えるプログラムを練り上げていった。そして2020年12月に現地のスタッフが地方都市のホジャンドで、それらのプログラムを試験的に3日間の日程で行った。
また新型コロナの影響で、出稼ぎ先で職を失って帰国した人が自分でビジネスを始められるように、500ドル(約5万円)相当までの資材や機材を支給(もしくは貸与)する仕組みを新たにプロジェクトに加えた。「ビジネスの基礎」を受講後にビジネスプランを立ててもらい、プランの実行のために必要な資材や機材があれば、それを支給するという流れだ。
「資材などの支給は400件分の予算を確保しています。ただ、その実行のためにはこちらも審査体制の構築など、膨大な作業が発生します。プロジェクトが進められるのは、週末も関係なく熱意を持って動いてくれるタジキスタン人の現地スタッフがいるおかげです。オンラインで常にミーティングを行って手順を詰め、現地でしか行えないことはスタッフに任せるかたちで事業を進めています」と話す。
そのスタッフの一人がウメド・カシモフさんだ。もともとJICAタジキスタン事務所で勤務していたが、それを辞め、アイエムジーの現地スタッフとしてプロジェクトに専念することを決めた。「起業家を育成することがタジキスタンにとっていかに大切なことか、そしてその難しさも理解しています。だからこそチャレンジしようと考えたのです」とウメドさんは決意を語る。
フルシェッド・アザモフさんもスタッフの一人だ。将来は自身もコンサルタント業での起業を考えている。「タジキスタンの農産物を日本に紹介するなど、両国の橋渡しをしていきたいです」と展望を語る。
12月の試験的なプログラム運用は、ウメドさんとフルシェッドさんが中心となって行った。「英語の教員資格を持っていながらも、タジキスタンの学校の給料が低いためロシアへ出稼ぎに行き、美容師になった女性も受講生にはいました。コロナ禍の影響で勤務先の美容院が閉まり、戻ってきました。出身の地元で美容院を開きたいそうです。500ドル相当の機材支給を受けられると、開業も可能になります」とウメドさん。熱意の連鎖で、起業を後押しする仕組みが生まれ始めている。
JICA勤務を経て、1996年にアイエムジーを設立。アフリカやアジアなどの途上国で開発コンサルティングを手掛ける。現地スタッフの能力を引き出すことを"強み"に変え、事業を推進する。
「コロナ禍下にあっても現地との連携で事業を進めています」
2000年代から中央アジアでの支援事業経験が豊富。2018年から現職。「人を育てる」という今回のプロジェクトにやりがいを感じている。
「起業家を生むための仕組みづくりを支援しています」
関係者が口を揃えて言うのが「(コロナ禍下にあっても)ウメドさんがいるからプロジェクトが進められている」。プロジェクトの現地での推進役。
2012年からJICAの短期プロジェクトなどに関わってきた。日本の文化が好きで、日本人にもタジキスタンを知ってもらいたいと考えている。