発展とともに税制も近代化へ モンゴル

税収によって財源を確保することは、国や国民の生活を支えるためにかかせない。
JICAは長年にわたりモンゴルの税制改革や新たな制度づくりに協力している。

文:坪根育美

【画像】

2017年から2020年までのプロジェクトの一環として実施された現地の国際課税研修に取り組む、モンゴル国税庁の税務調査官。

近代的な徴税システムの基盤づくりに挑戦

【画像】

【協力20周年記念式典を催行】2018年12月にJICAとモンゴル国税庁との協力20周年記念式典が行われた。

JICAが行う国際協力にはさまざまな分野があるが、国の財政を支える税金に関する貢献を知る人はそう多くはないだろう。1998年から20年余にわたり、徴税制度や法律の整備の協力をJICAが行っている国がある。それがモンゴルだ。

モンゴルでは1990年代の初めごろより民主化が進み、それまでの社会主義経済から市場経済へと移行していった。しかし徴税に関わるシステムは、社会主義時代の体制のままだったため慢性的な国家財源の不足に陥り、市場経済の発展を妨げる原因のひとつになっていた。「市場経済への転換にともない、モンゴルにいままでなかった近代的な徴税制度づくりや法的環境の整備が必要でした。それには経験豊かなほかの国から学んでいかなければならないと思い、JICAに技術協力を要請することになりました」と、モンゴル国税庁長官のバトジャルガル・ザヤバルさんは語る。

1998年からの10年間は、日本をお手本とした近代的な徴税システムを制度として定着させることに重点を置き、徴税手続きの改善や国税庁の職員である税務検査官(注1)に対する研修を制度化した。税務の基盤づくりに力を注いだことにより、国民一人ひとりの納税意識が向上し、2004年には税収も1998年と比べて2倍に増加した。「税収が上がるということは国の予算が増えることを意味します。国民への公共サービスの予算が確保でき、生活の水準を上げることができるのです」と、ザヤバルさんは税務の重要性について話す。

(注1)徴収・税務調査・納税者サービスなど税務当局が行うすべての業務を担う国家税務職員。

国際課税という新たな課題に向けた税制改革

【画像】

2008年以降はそれまでの10年に引き続き徴税機能の強化にも取り組んだ。そのなかで設立された滞納催告センター内の様子。

【画像】

2019年の税制改革に向けて、モンゴル国税庁と同国大蔵省の共同作業グループと、日本の専門家との間で熱い議論が何度も重ねられた。

その後の10年間では、新たな課題として国際課税(注2)の制度整備に向けた取り組みも始まった。モンゴルでは2010年以降、金や銅、石炭などの鉱山開発が国の経済を支える主要分野として発展。それにともないモンゴルに進出する多国籍企業と外資企業が増加した。しかし国際課税制度が未整備だった当時は、それらの企業が得た利益の多くが国内で税金として払われずに国外に出てしまう問題が多発していた。

こうした状況を受けて、モンゴル国税庁はJICAの協力のもと国際課税に関する制度整備と税法の改正に取り組みながら、国際課税に対応できる国税庁職員の人材育成を開始した。これらの協力は税法の改正という大きな成果を生み出した。これにより他国からモンゴルへ進出してきた企業の利益に対して適切な課税ができるようになっただけでなく、国際課税に関する国際条約への加盟や国際的なフォーラムに参加できるようになり国際的な信用も高まった。

20年という時間をかけてプロセスを積み重ねてきたこれまでの税務行政におけるプロジェクトは成果を出し続けている。これは制度や法律の整備だけでなく、しっかりとした人材育成ができているからこそとザヤバルさんは考えている。「プロジェクトごとに研修があり、人を育てることをつねに継続して行っているのが成果につながっていると思います。いまでは研修を受けた職員が別の職員に教えることができる体制になっていますし、研修制度を職員自ら計画して実施できるようにもなりました」と誇らしげだ。またともにプロジェクトを進めるなかで、日本人の責任感の強さや税務職員としてのプライドを持った仕事ぶりに感銘を受けたという。「モンゴル国税庁の職員たちにも、日本人の仕事への向き合い方や姿勢が伝わっていると感じています」。

現在、モンゴルはコロナ禍下での国民の生活を支えるために国が税金を免除したり、光熱費を負担したりしている。「税務行政がしっかり行われていて税収による財源があるからこそできることです」と、ザヤバルさんは国税庁長官としての責務をあらためて感じている。

2020年12月からは新たなプロジェクトがスタートした。モンゴル国税庁とJICAの歩みはこれからも続いていく。

(注2)複数国間で行われる事業などで出た利益に対する課税のこと。

JICAの協力によるモンゴル国税庁の変革

1998~2000年 国税庁の徴税組織の抜本的な改革が行われた。
2000~2001年 不動産税や特別印紙税の創設。主要な税法の改正を提言書にまとめたものが国会で承認された。
2001~2003年 納税者情報の管理制度の構築。この活用により税務検査が効率化され、徴税金額が飛躍的に増大した。
2003~2005年 税務職員育成のための地方研修センターを設立。
2005~2008年 納税者電話相談センターとワンストップ納税者サービスセンターを設立。
2008~2011年 検査技術を習得するための日本での研修を実施。
2009~2010年 租税教育カリキュラムを作成し、学校に教材として配布された。また広報番組も放送された。
2013~2016年 滞納催告センターを設立。
2017~2020年 国際課税の制度整備、税法改正案の策定。(2019年に国会を通過し、2020年から施行された)
2020年~ 改正税法の執行能力強化に重点をおいたプロジェクトがスタート。

キーパーソン

モンゴル国税庁長官 バトジャルガル・ザヤバルさん

【画像】

バトジャルガル・ザヤバルさん

モンゴルの大蔵省、鉱業省、エネルギー省、国有資産管理庁などで勤務したのち国税庁へ。国税庁副長官を経て2017年に国税庁長官に就任した。「JICAと協力しながら歩んできたこの20年でモンゴルの税務行政は大きく変わりました」。

「長く継続的な協力のおかげで今があります」