約20年前に日本に留学し、日本社会から大きな影響を受けたというサルバル・ババホジャエフさん。国の未来を担う人材を育てるため、教育改革に力を入れている。
文:久保田 真理
人口約3280万人のうち、24歳以下が約40パーセントを占めているウズベキスタン。生徒数の増加に教育環境整備が追いついておらず、学校や教員の不足をはじめ、教員の能力や教材の不足、民間教育サービスの地方格差など、課題を抱えている。ウズベキスタン政府はこれら教育部門の課題を重視し、その改善に向け優先的に取り組みを進めている。
その取り組みを支援するため、2019年8月よりJICAのプロジェクトが開始された。この実施に向けて大きく貢献したのが、当時のウズベキスタン国民教育省副大臣だったサルバル・ババホジャエフさんだ。ババホジャエフさんは人材育成奨学計画(JDS(注1))で来日し、新潟県南魚沼市の国際大学大学院で経営学を専攻した経験がある。日本での経験が今回の実施に大きな影響を与えたと話す。
ババホジャエフさんは、自身の姉が大学のプログラムで訪日したことをきっかけに日本に興味を持ち、2000年にJDSに応募した。「姉と同じホストファミリーと暮らすことになり、日本のお父さん、お母さんから日本文化と社会についてたくさんのことを学びました。また、国際大学には世界40か国以上から留学生が集まっているので、国際色豊かな環境で学べたことも貴重な経験でした」と当時をふり返った。
2年間の留学を経て感じたのは、日本は伝統と現代的な側面をあわせ持った社会であるということ。文化や家族を大切にする価値観はウズベキスタンも同様だが、日本の治安のよさや科学・工業技術の高さに感銘を受けた。さまざまな経験から日本を尊敬するようになり、帰国後は日本とのつながりをつくる機会を探っていたという。
(注1)将来出身国の政策立案者となることが期待されている優秀な若手行政官を日本の大学院に招く人材育成奨学計画(The Project for Human Resource Development Scholarship、通称はJDS)のこと。
このJICAのプロジェクトに関わったデジタル・ナレッジ社の齋藤陽亮(ようすけ)さんは、ババホジャエフさんと面会したときの印象をこう話す。「日本語で話しかけられて驚きました。中央アジアの国々では非常に珍しいことだと思います。ウズベキスタンの未来のために教育を変えていきたいという熱い思いが伝わってきました」。2016年末の新大統領就任後に発足した新政府は、教育分野の発展に力を入れた。デジタル・ナレッジのeラーニング(注2)システム(学習管理システム)を活用して国民教育省のICT活用の推進と民間教育市場の拡充が進められることになった。
プログラムでは、2020年1月から3月までの期間、同国14校の7年生(日本の中学1年生)を担当している教員が数学などの教授方法をeラーニングで学んだ。「質問をして生徒自身が自律的に考える教え方に変わった」「eラーニング研修は対面研修と変わりがなく有効」といった声が教員から上がったという。また、民間の教育現場で教材が不足していたため、放課後の空き教室を使ってタブレットを利用した小学校低学年向けの電子そろばん教室や、低学年向けの英語教室と高学年向けの数学教室も実施した。さらには、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年3月中旬から教育機関が閉鎖されたため、小学生と中学生を対象に数学の電子教材を全国の希望者に配信して、遠隔での学習機会を提供したという。
現在、タシケント情報技術大学学長を務めるババホジャエフさんは、ウズベキスタンの教育改革にさらなる意欲を示している。「新型コロナの影響で教育のデジタル化を早急に進める動きがありますが、プロジェクトから得たこれらの素晴らしい経験が後押しする可能性を秘めていると思います。ウズベキスタンと日本との協力関係がこれからも継続していくことを期待しながら、優れた教育システムを構築したいと考えています」。
(注2)インターネットを利用した学習形態のこと。
人材育成奨学計画(JDS)で、新潟県南魚沼市の国際大学大学院に2年間留学し、経営学を専攻。これまでの15年間教育分野に携わり、ウズベキスタン国民教育省副大臣を務めた。好きな日本食はすき焼き。現在も新潟県のホストファミリーとの交流を続けている。
「長く継続的な協力のおかげで今があります」