JICAは、SDGsに貢献しながらグローバルな視点で価値ある事業を実現していくために、
20の課題別事業戦略「JICAグローバル・アジェンダ」を策定している。
ここでは、この「JICAグローバル・アジェンダ」のアウトラインと、
SDGs17ゴールに対するJICAの取り組みを概観し、
多様なパートナーと協働して世界の課題に向きあうJICAの戦略、活動の実際、これからの姿をご紹介してみよう。
JICAが取り組む
世界の課題とSDGs
JICA グローバル・アジェンダ
SDGsの中核的な理念は「“誰一人取り残さない”包摂的な社会を実現すること」、そして、「持続可能な世界を実現するために、社会・経済・環境に関する課題に包括的に取り組んでいくこと」だが、これは、JICAがミッションとして掲げる「質の高い成長」すなわち、「“包摂的”で“持続可能性”、“強靱性”を備えた成長」および「人間の安全保障」すなわち、「すべての人びとの命、暮らし、尊厳を守られる社会」と強い親和性を持つものだと言えるだろう。なぜなら、SDGsの前身である「ミレニアム開発目標(MDGs)」の最終段階で、JICAは次のアジェンダが原則とすべきテーマを国際社会に向けて発信しており、SDGsの成り立ち自体に深く関与しているのである。
2021年に策定された「JICAグローバル・アジェンダ」は、SDGsの目標達成に貢献していくことを念頭に置きながら、JICAが取り組む開発目標や事業・取り組みを明示した、課題別事業戦略である。ここでは、SDGsの4つの切り口〜Prosperity(豊かさ)、People(人々)、Peace(平和)、Planet(地球)〜に基づいて、20の事業戦略が示されている。複雑化するグローバル環境において各分野・課題ごとに協力のシナリオを分析・整理し、多様なパートナーとの共創の基盤とすることで、開発インパクトの拡大を目指しているのである。
Prosperity豊かさ
豊かで自然と調和する経済、社会の進展のために
01都市・地域開発
利便性が高く暮らしやすい持続可能な街を
都市の望ましい在り方を見据え、最新の地理空間情報(G空間情報)を活用し適切な土地利用を考案します。さまざまな利害を調整し、魅力的でサステナブルな街を構想し、計画、整備、管理運営する上で必要な能力を強化します。

02運輸交通
「安全」「スマート」「持続可能」な移動を実現
グローバルにつながる運輸交通インフラの整備や維持管理能力の向上、海上保安能力の強化、命を守る道路交通安全の普及に取り組みます。デジタル技術を積極的に取り入れ、スマートで持続可能なヒトとモノの移動の実現を目指します。

03資源・エネルギー
カーボンニュートラルと安価なエネルギーの安定供給を
国内外のパートナーと共に、①エネルギートランジション政策・計画の策定・更新・実施と、②次世代脱炭素技術の開発・社会実装、③地域共同体内でのエネルギー安定供給の促進、④鉱物資源の国際市場への安定供給に取り組みます。

04民間セクター開発
民間企業を育成し、開発途上国の経済成長を促す
起業家や企業の競争力向上、産業・投資政策やビジネス環境の整備、金融アクセスの改善などに取り組み、企業が成長するための環境を整えます。また、現地企業と日本企業の協働を進め連携を強化し、双方の経済の強靱化を目指します。

05農業・農村開発(持続可能な食料システム)
人々が豊かになる農業で貧困と飢餓をなくす
生産技術の開発や普及、効果的な流通体制の構築を通じて農・畜・水産業の生産性を高め農村部の貧困削減と経済成長を推進します。また、気候変動への対応や食品ロスの課題にも取り組み、食料の安定的な生産・供給に貢献します。

People人々
誰もが健康で、安心して暮らせる社会のために
06保健医療
どんなときでも人々の健康を守る体制づくりを
生活の基盤となる健康を守る体制づくりを推進します。また、これを通じて、すべての人々が、いつでも必要な保健医療サービスを経済的困難なく受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の達成に貢献します。

07栄養の改善
健康な未来へ導く栄養を、すべての人々に
必要な栄養を適切に摂取できていない低栄養状態や、深刻化する過栄養の問題に対して、保健、農業・食料、水・衛生、教育など、さまざまな分野で連携して取り組み、世界の人々が健康に暮らせるよう、貢献します。

08教育
一人ひとりが生き生きと輝く、質の高い教育を
世界には必要最低限の読解力や計算力を習得できていない子どもや若者が6.1億人以上います(※)。また、高等教育に関しては国によりアクセスと質の格差が生じています。すべての人々が学ぶ場を得て能力を生かし活躍できるよう取り組みます。
※ UNESCO Institute for Statistics, "SDGs 4 DATA DIGEST 2018"

09社会保障・障害と開発
誰もが尊厳をもって自分らしく生きる世界を目指して
社会保障の拡充や労働環境の改善、障害者の社会参加の促進、障害の主流化を通じ、誰もが尊厳を持って社会の一員として互いの暮らしを支え、また、支えられながら生きる社会の実現を目指します。

10スポーツと開発
すべての人々が、スポーツを楽しめる平和な世界に
言葉や文化の違いを超えて楽しめ、人々の可能性を広げ、未来を開く一歩にもつながるスポーツを誰もが楽しめる環境づくりを行うとともに、スポーツを通じた人材育成にも取り組み、平和な社会の実現に貢献します。

Peace平和
恐怖や暴力のない、平和で公正な社会のために
11平和構築
恐怖と暴力のない平和で公正な社会を目指して
暴力や紛争のリスクを低減し、国・社会の危機に対応する能力を強化します。そのために、制度構築と人材育成によって住民から信頼される政府をつくり、コミュニティの融和と社会・人的資本の復旧・復興・強化を促進します。

12ガバナンス
すべての人々が尊厳をもって暮らせる社会を
人権、自由、法の支配など普遍的価値を実現し、人間の尊厳が守られる社会を目指します。そのため、法制度整備・運用、適正な行政サービスの提供、公共放送や選挙管理の機能向上に協力し、民主的で包摂的なガバナンスの強化に貢献します。

13公共財政・金融システム
財政・金融の基盤を強化、経済の安定と成長を目指す
経済の安定と持続的な成長に不可欠な財政基盤の強化や、金融システムの育成を支援します。また、税関行政の改善により、貿易の円滑化にも貢献します。

14ジェンダー平等と女性のエンパワメント
性別にとらわれず誰もが能力を発揮できる社会へ
ジェンダーに基づく社会・組織の差別的な制度や仕組みの是正、女性や女児の主体的な能力強化、人々の意識や行動の変容促進に取り組みます。それにより誰もが性別にとらわれず、尊厳を持ってそれぞれの能力を発揮できる社会を実現します。

15デジタル化の促進
DXで、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会へ
デジタルテクノロジーとデータの活用でさまざまな課題を効果的に解決し、より良い社会をつくります。また、その基盤となる情報通信環境の整備、人材育成や産業創出を通し、自由で安全なサイバー空間の構築に取り組みます。

Planet地球
地球環境を守るために
16気候変動
開発途上国と共に気候変動の脅威に立ち向かう
経済・社会に甚大な負の影響を与える気候変動を抑えるため、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、その変化に対応しなければなりません。開発と気候変動対策を同時に進める開発途上国に協力し、地球規模の課題の解決に貢献します。

17自然環境保全
次世代へ豊かな自然の恵みを引き継ぐ
地域社会と持続可能な地球環境にとって重要な自然環境を保全します。このため、守るべき自然の価値や現状を科学的に把握・モニタリングし、地域住民と協働し、伝統的な知見も生かして自然環境の保全と人間活動との両立を目指します。

18環境管理― JICAクリーン・シティ・イニシアティブ―
環境を守り、健康に暮らせるきれいな街へ
多くの開発途上国で、工業化・都市化に伴い水・大気・土壌の汚染が深刻化しています。廃棄物の適切な管理、汚染防止のための人材育成などを通じて、人々が健康に住める「きれいな街」の実現と持続可能な社会の構築を目指します。

19持続可能な水資源の確保と水供給
すべての人々が安全な水を得られる社会へ
水資源を巡る地域の課題を解決するため、水資源の管理に責任を持つ組織を強化し、利害関係者の民主的な協議の仕組みを構築します。水道サービスの拡張と改善を自立的に進めることができる「成長する水道事業体」をつくります。

20防災・復興を通じた災害リスク削減
強靱な国の基盤をつくり、命を守って経済を発展させる
防災は、持続可能な開発や人間の安全保障に直結する取り組みです。人的被害と経済損失を減らすために、災害発生前に防災への投資を促進し、被災後には再発を防ぐべく「より良い復興」を通じた強い国・社会づくりに協力します。

SDGsに対する
JICAの取り組み
17のゴールのロゴをクリックしていただくと、それぞれに関するJICAの取り組みを
ご覧いただけます。
多様なパートナーとの協働・共創の実現
JICAはこれまでも、各国・地域のさまざまな開発ニーズに対応してきたが、JICAグローバル・アジェンダで分析・整理された協力シナリオに基づき、さらに戦略的かつ効率的に事業を実施していく。民間企業、研究機関、市民団体などを含む国内外の幅広いパートナーと、知識やアイデア、人材などさまざまなリソースを結集し、共に課題解決に取り組むプラットフォームを構築。あるいは、そうしたプラットフォーム、パートナーシップに参加することを通じて、持続可能な社会の実現を目指していく。また、資金の動員や民間企業によるビジネスを通じた地球規模課題への取り組みを促進する環境も整備することで、共創の「うねり」を広げていく。
