海外投融資

民間と途上国政府、双方の視点を踏まえ、未来の開発協力を牽引する、より包括的・先進的な協力を実現していく。

壽楽正浩JURAKU Masahiro

民間連携事業部 海外投融資第二課
経済学部卒/2006年入構(新卒採用)

民間の活力を
開発の原動力に
変えていくために

現在私が担当している「海外投融資」は、開発途上国においてビジネスを展開する民間企業に融資や出資などを行うことで、その事業活動をサポートしていくというもの。JICAは年間1兆円以上の資金を開発協力に投入している世界有数の開発金融機関でもありますが、金融機関としてJICAを見た時、そこで展開されるファイナンス・スキームは円借款と海外投融資の二つ。このうち円借款は、基本的に途上国政府を対象とし、低金利・長期返済という緩やかな条件で資金を融資するもので、多くは、道路・港湾・鉄道といった、国家の発展に欠かせない大規模インフラ等の開発に充てられます。対して海外投融資は、途上国で事業を行う企業をダイレクトに支援することができるのが大きな特徴と言えるでしょう。現代の高度化・複雑化する社会課題の解決を目指すうえでは、民間企業を始めとするさまざまなアクターとの“共創”を実現していくことが不可欠です。そして、JICAにおいて共創を推進していく重要なツールとなるのが海外投融資であり、今、私が携わっているのは、“民間の活力を開発の原動力に変える”業務であると言えるのではないでしょうか。

入構以来私は、東南アジア・大洋州部やインドネシア事務所での勤務を通じて、数多くの円借款事業に携わってきました。また、2010年には外務省に出向し、円借款の制度改善や、当時は中断していた海外投融資を、新しい時代にフィットする国際協力メニューとして再開させるための制度設計も担当しました。言ってみれば私は、途上国開発と金融というテーマを、キャリアを通じて追究してきたと言えるかもしれません。そうした私から見て、円借款と海外投融資の大きな違いはやはり、フレキシビリティとスピード感ではないかと思います。円借款は、途上国の政策や中長期的な開発の方向性といったマクロな部分に関与できるという良さはありますが、途上国にとって国家規模のプロジェクトになるがゆえに、案件組成、意志決定を経てプロジェクトがスタートするまでのプロセスには、時間を要することも多い。一方で海外投融資は、民間企業が活動しているところに我々の協力の可能性があるわけですから、対象範囲は非常に幅広く、スピード感もまったく違う。加えて、円借款は非常に成熟した金融スキームで、金利も償還期間も予め決まっているケースが多いのですが、海外投融資は案件ごとにそれらを設計していくという、フレキシビリティを持った金融ツールなのです。業務上使われる用語もかなり異なっており、2021年に現部署に異動した際には、転職したのかと思えるほどの違いにかなり衝撃を受けました(笑)。

先にも触れたように私は、インドネシア等の東南アジアを中心に、地熱発電を始めとする電力分野、官民連携(Private Public Partnership=PPP)関連の事業に数多く携わってきました。その過程では当然、総合商社、エンジニアリング企業といった民間企業とやりとりすることも多く、途上国ビジネスのどのようなところにリスクを感じ、JICAに何を期待しているのかといったことを共に議論することもしばしばありました。そうしたなかで、民間の考え方を深く理解し、民間金融機関ではカバーできないリスクを我々が取ることによって開発を実現していくこと──民間の活力を開発の原動力に変えていくための事業を手掛けてみたいと考えるようになったことが、現部署への異動を希望した大きな動機だったと思います。また、2018年に発生したインドネシア・スラウェシ島地震からの復旧・復興事業において、同時並行的に進行する複数のサブ・プロジェクトに対する資金協力をセクターローンとして組成したり、コロナ禍におけるインドネシア政府に対する財政支援を、ニーズにこたえるために数ヶ月というタイムスパンでスピーディに実現するといった、円借款としては非常にチャレンジングな試みを形にしてきたことも、海外投融資という新たなフィールドを目指すうえでの大きな経験になったのではないでしょうか。

“共創”を推進し、
民間資金を開発に
動員していく“触媒”として

昨今、「インパクト投資」という言葉がさまざまなメディアで話題に上りますが、これは、財務的なリターンだけでなく、社会的・環境的“インパクト”の創出も同時に目指す投資の方法論、考え方であると言うことができます。海外投融資は即ち、このインパクト投資に該当するものであり、JICAは既に、日本を代表する途上国に対するインパクト投資のプレイヤーでもあるのです。そうした、“インパクト投資家”としてのJICAの活動について、ここでいくつか特徴的なものをご紹介してみましょう。

先ず、近年我々が注力しているものの一つに、途上国の課題解決に資する事業を手掛けるスタートアップ企業への投資があります。例えばここ数年のうちに、アフリカ地域においてスタートアップへの投資を手掛けるベンチャーキャピタルファンド2社に出資を行い、循環型経済や保健医療分野の個別企業に対する投資も行っています。また、こうした金融アクセスの提供だけでなく、途上国におけるスタートアップの発掘・育成を目指す “ NINJA(ニンジャ)”というプロジェクトを推進しています。このNINJAプロジェクトの基で、スタートアップの成長を促すガバナンスの改善に向けた途上国政府に対する提言や企業の経営指導を行うことで、成長・発展のためのエコシステムの創出を目指しているのです。即ち、海外投融資を通じたファンドや個別企業への協力を通じて得られる民間のナレッジ、ニーズを、政策や制度のレベルへとフィードバックしていくことで、スタートアップ・エコシステムの更なる発展へと繋げていくという好循環を生み出していく。そして、日本企業などのアフリカでの新たなビジネス機会の提供や日本とアフリカの共創へと繋げていく。これなどは、JICAらしい、JICAしかできない、インパクト投資家の形と言えるのではないでしょうか。このように、JICAが有するさまざまな機能・スキームや、長年の協力によって政府との間に築かれた信頼関係といったJICAの資産を活かしながら、単なる出融資に留まらない付加価値を生み出していくことが重要であると、私は考えています。

また、2025年に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)においてJICAは、IDEA(Impact Investment for Development of Emerging Africa=イデア)というインパクト投資のイニシアチブを発表しましたが、これは、JICAの海外投融資がリード役を果たすことによって民間のリスクを軽減し、他の開発金融機関や民間金融機関等との協調によって、3年後の次回TICADまでに、アフリカに対して官民総額15億ドル規模の投融資の実現を目指すもの。SDGsは目標達成のターゲットを2030年に設定していますが、山積する世界の課題に対応していくためには、JICAのような公的機関が拠出しうる資金だけでは到底足りません。民間をはじめとするさまざまな資金を、いかに開発のフィールドへ動員していけるかということは、我々にとって今、最も重要なテーマでもあるのです。そうした意味でIDEAは、“共創”を推進し、民間資金をアフリカの開発に呼び込んでいく、“触媒”の役割を担うものであると言えるでしょう。

これまで、海外投融資の可能性についてさまざまな角度からご紹介してきましたが、私自身のこれからという意味では、必ずしも、海外投融資の専門家として、この業務だけにずっと携わり続けることを考えているわけではありません。海外投融資は、開発途上国に民間の資金を呼び込み、政府だけでは解決できない開発課題を解決していくための重要なツールであることは間違いありませんが、ファイナンスはあくまでも、その手段の一つであると私は考えているのです。これまでのJICAの事業は、技術協力にせよ円借款にせよ、必ずしも民間の視点を十分に考慮できていなかったところがあると思いますし、途上国政府側には、PPP(官民連携)等において民間企業が事業に参加することは即ち、後は民間がやってくれるのだという認識が往々にしてあったように思われます。私は、海外投融資の経験によって民間の視点、価値観といったものも一定理解できていると思いますし、キャリアを通じて途上国政府側の考え方にも深く接して来ました。その両方を踏まえたうえで、より多面的、包括的に、途上国政府に対して政策を提言し、また具体的な協力事業を推進していけるような人材を目指していきたいというのが、現時点での私のテーマと言えるでしょうか。例えば、あるインフラ開発に関するマスタープランを作るとして、そこに、どこまで民間資金を導入していくのか? そして民間に参加してもらううえで、政府はどのような責任を果たしていかなければならないのかということを、マスタープラン策定の段階でしっかりと盛り込んでいく。そしてPPPによる具体的な事業の形成と実施にまで繋げていく。そうした、官民双方にとって納得感のある、開発協力のグランドデザインを描いていくことができれば、JICAの事業は未来に向けて、より価値あるものへと進化していくことができるのではないかと、私は考えています。

キャリアのハイライト

2018

インドネシア中部スラウェシ州での地震により、死者・行方不明者4,000名超、被災者17万名超という大きな被害が発生。JICAは復興基本計画づくりから、その実施のための資金協力を迅速かつシームレスに実現しました。私は地震発生翌月の被害状況調査に参加し、その後、復興プロセスの全体調整と円借款事業の形成をリードしました。学識者や専門家、コンサルタント、そしてJICA職員の英知を結集したチームに参加し、知見・経験、技術、資金、そして高い使命感といった日本・JICAが持つ力の大きさを強く実感した経験です。

スラウェシ島地震、現地被害状況調査において

2022

再生可能エネルギー開発に10年以上情熱をもって取り組んできたものの、1度も担当案件の融資承諾や完成に至った経験がありませんでした。2022年、担当したベトナムの風力発電事業の融資契約の調印が実現し、また稼働中の発電所を訪れる機会も得ることができました。自身にとって初めての海外投融資の担当案件だったこともあり、また民間事業者や協調融資パートナー等からの強い期待なども相まって、融資契約を調印した時の達成感はひとしおでした。実際に稼働する風車を見て、その迫力を感じると共に、自然の力が人々の生活を支えることを実感できたことは、これまでのキャリアの一つの到達点になりました。

ベトナムで稼働中の風力発電所にて

2024

2024年2月に、戦時下にあるウクライナ支援の一環として、ウクライナの輸出志向型のICT・テック企業に投資するファンドへ出資をしました。本件は、同月に東京で開催された「日・ウクライナ経済復興推進会議」での日本によるウクライナ支援への貢献を念頭に、関係部署の実力者たちを総動員したチームを作り、検討開始から出資承諾まで4か月弱という短期間での形成を実現。海外投融資のもつ柔軟性と共に、戦争下にあっても民間セクター支援に活用できるという、その可能性を改めて確認しました。