民間の活力を
開発の原動力に
変えていくために
現在私が担当している「海外投融資」は、開発途上国においてビジネスを展開する民間企業に融資や出資などを行うことで、その事業活動をサポートしていくというもの。JICAは年間1兆円以上の資金を開発協力に投入している世界有数の開発金融機関でもありますが、金融機関としてJICAを見た時、そこで展開されるファイナンス・スキームは円借款と海外投融資の二つ。このうち円借款は、基本的に途上国政府を対象とし、低金利・長期返済という緩やかな条件で資金を融資するもので、多くは、道路・港湾・鉄道といった、国家の発展に欠かせない大規模インフラ等の開発に充てられます。対して海外投融資は、途上国で事業を行う企業をダイレクトに支援することができるのが大きな特徴と言えるでしょう。現代の高度化・複雑化する社会課題の解決を目指すうえでは、民間企業を始めとするさまざまなアクターとの“共創”を実現していくことが不可欠です。そして、JICAにおいて共創を推進していく重要なツールとなるのが海外投融資であり、今、私が携わっているのは、“民間の活力を開発の原動力に変える”業務であると言えるのではないでしょうか。
入構以来私は、東南アジア・大洋州部やインドネシア事務所での勤務を通じて、数多くの円借款事業に携わってきました。また、2010年には外務省に出向し、円借款の制度改善や、当時は中断していた海外投融資を、新しい時代にフィットする国際協力メニューとして再開させるための制度設計も担当しました。言ってみれば私は、途上国開発と金融というテーマを、キャリアを通じて追究してきたと言えるかもしれません。そうした私から見て、円借款と海外投融資の大きな違いはやはり、フレキシビリティとスピード感ではないかと思います。円借款は、途上国の政策や中長期的な開発の方向性といったマクロな部分に関与できるという良さはありますが、途上国にとって国家規模のプロジェクトになるがゆえに、案件組成、意志決定を経てプロジェクトがスタートするまでのプロセスには、時間を要することも多い。一方で海外投融資は、民間企業が活動しているところに我々の協力の可能性があるわけですから、対象範囲は非常に幅広く、スピード感もまったく違う。加えて、円借款は非常に成熟した金融スキームで、金利も償還期間も予め決まっているケースが多いのですが、海外投融資は案件ごとにそれらを設計していくという、フレキシビリティを持った金融ツールなのです。業務上使われる用語もかなり異なっており、2021年に現部署に異動した際には、転職したのかと思えるほどの違いにかなり衝撃を受けました(笑)。
先にも触れたように私は、インドネシア等の東南アジアを中心に、地熱発電を始めとする電力分野、官民連携(Private Public Partnership=PPP)関連の事業に数多く携わってきました。その過程では当然、総合商社、エンジニアリング企業といった民間企業とやりとりすることも多く、途上国ビジネスのどのようなところにリスクを感じ、JICAに何を期待しているのかといったことを共に議論することもしばしばありました。そうしたなかで、民間の考え方を深く理解し、民間金融機関ではカバーできないリスクを我々が取ることによって開発を実現していくこと──民間の活力を開発の原動力に変えていくための事業を手掛けてみたいと考えるようになったことが、現部署への異動を希望した大きな動機だったと思います。また、2018年に発生したインドネシア・スラウェシ島地震からの復旧・復興事業において、同時並行的に進行する複数のサブ・プロジェクトに対する資金協力をセクターローンとして組成したり、コロナ禍におけるインドネシア政府に対する財政支援を、ニーズにこたえるために数ヶ月というタイムスパンでスピーディに実現するといった、円借款としては非常にチャレンジングな試みを形にしてきたことも、海外投融資という新たなフィールドを目指すうえでの大きな経験になったのではないでしょうか。




