本当の意味での
社会人としての基礎が
形成された留学体験
大学時代にフランスに留学し、フランス語がある程度できるようになっていたということもあって、JICA入構の頃は、北アフリカ等の仏語圏で、円借款事業に従事しながら金融分野の専門性を獲得して仕事をしていきたい、という希望を持っていました。念願叶って、5年目にはモロッコ駐在となり、上下水道の敷設や地中海沿岸の道路開発、地方部における中学校の建設といった事業に携わりました。また、モロッコ経済財政省の事務次官といった、政府のハイレベルな方々とも直接やり取りする機会に恵まれ、この駐在は、JICA職員として、開発協力に携わる者として、とても鍛えられる経験だったと思います。ある意味でこのあたりまでの私は、“円借款・金融”という専門性を軸に、至極まっとうなキャリアを歩んでいたと思います(笑)。
自分にとって大きな転機となったのはやはり、2013年に経験した、ハーバード大学ケネディ行政大学院への留学です。留学の目的自体は、開発に関する専門性・知見をさらに高めるために公共政策学を学ぶということでしたが、大学院での勉強と同等以上に自分にとって大きな意味を持ったのは、ここでの出会い、さまざまな人との関係を通じて、“自分とはどういう人間なのか”を問い直す機会になったということです。モロッコ時代までの私はある意味で、“JICAの森川”として、“組織の中で働く一人”としてどう振る舞うべきかをインストールしてきたのだと思いますが、留学先ではJICAという看板を一旦脇に置いて、“個人としての森川”として立つことが求められる。また、留学中に知り合った友人が、現代の経営、組織論、リーダーシップ論に絶大な影響を与えている、ピーター・センゲ元MIT講師が設立したNPOで働いており、彼を通じて、組織開発・リーダーシップ開発といったテーマに目が開かれたことも、とても大きな経験でした。この留学体験は私にとって、本当の意味での社会人としての基礎が形成された、得がたい機会だったと考えています。