05 Dialogue

「共創」を起点とする
創造的な働き方を実現することで、
変化する時代の多様なニーズに応える
事業を生み出していくために。

激動する世界の中で、より創造的な国際協力を実現していくために、
JICAではさまざまな改革が進められているが、
職員のマインドセット変革を促していく人事制度改革は、
その大きな柱の一つである。
ここでは、人事部長・小林広幸と人事課長・川淵貴代の対談によって、
何故JICAは変わらなければならないのか、
そして、変化を牽引していく人材とはどのようなものなのかを
検証してみたい。

1.JICAの事業の根幹にある、
“人”と向きあう姿勢

小林部長は1992年に大学を卒業され、青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)に参加された後に、社会人採用という形で1996年に現在のJICAの前身の一つである国際協力事業団に入団。川淵課長は、1996年に旧OECF(海外経済協力基金、後に合併によって国際協力銀行=JBICとなり、2008年にJICAへと統合)に入行されたということですね。お二人が参画されて以降もJICAはさまざまな変化を重ねて来ていますし、お仕事の中でも数多くの経験を積んでこられたと思いますが、先ず、これまでの現場経験や出会いの中で、お二人が特に印象深く記憶されているもの、また、それが小林さん、川淵さんの中に何を遺したのか、といったあたりからお話をうかがえればと思います。

小林

思いつく沢山のものから、一つに絞るのは難しいのですが、2010年からルワンダに駐在した際に担当したルスモ国際橋の架け替え事業は、JICAの仕事の意義を再確認したというところもあり、とても印象深いものでした。ルワンダは周囲に海が無い内陸国ですが、タンザニアとの国境に位置するこのルスモ国際橋は、タンザニアのダルエスサラーム港からルワンダの首都キガリに至る物流の要衝で、ルワンダ、タンザニア双方にとって、非常に重要な意味を持つものです。老朽化が進み道幅も狭い従来からある橋を、貿易拡大に伴う交通量増加にも対応可能な新しい橋に無償資金協力で架け替える、という事業だったのですが、これは、ルワンダ、タンザニアの2国が実施主体になるため調整が非常に難しく、技術的な難易度も高い。また、当時この2国間にはいろいろと問題が派生していて、少し関係が冷え込んでいたところもありました。そうした中で、日本から現地に入っていただいていた専門家やエンジニアの方々は、ものすごく粘り強くさまざまな調整に当たっていただき、あるときタンザニア側に住んでいたルワンダ人の方々が強制帰国させられるという事態が起こった時も、こうした日本から派遣されていた皆さんが、自らの負担で彼らの生活をサポートする、ということもあったのです。私は、こうした日本人の誠実さ、思いやりというのは改めて素晴らしいなと思いましたし、彼らがプロジェクトの意義、理念といったものに深く共感し、自らの職務範囲を超えて、事業を完遂するために力を尽くしていただいていることにとても感銘を受けました。橋の完成は私が帰国した後だったのですが、完成式典の写真を見ると、さまざまな問題を抱えていた両国の大統領が寄り添って記念撮影に応じていて、これにもとても感動しました。もちろん橋を造るという成果はすごく大切なわけですが、JICAから派遣され現地で働いていただいた方々が、そのプロセスを通じて両国の人々をつなぎ、最終的には国と国の関係もつないでいった……これこそがまさに“信頼で世界をつなぐ”ということだろうと思います。私にとってこのルスモ国際橋の架け替え事業は、人と人をつなぎ、国と国をつないでいく、JICAの事業の役割・意義といったものを再認識した仕事の一つだったように思います。

川淵

私もやはり、“人”の大切さを実感した仕事が印象に残っています。入社した1996年は、タイ、バンコクでの地下鉄整備事業へ円借款による支援を開始した年ですが、この時タイ地下鉄公社に派遣されたJICA専門家(今で言う東京メトロに所属)に、建設・運営に関する様々な技術的なご指導をいただき、バンコク初となる地下鉄が2004年に開業しました。タイはその後順調に経済的に発展し、パープルライン、レッドライン、とJICAによる新規路線への支援も続きましたが、2016年に、更なる都市鉄道網拡充のために、バンコク首都圏全体のマスタープランの改定に協力してほしいという要請がありました。そこで日本側でチームを作る際、元JICA専門家にも加わっていただき、打合せのためにバンコクに行ったのですが、その会議には地下鉄公社の総裁も出てこられた。その総裁というのが奇しくも、最初の地下鉄事業を担当されており、元専門家の顔を見るなり「また来ていただいたんですね、是非力を貸してください」と、その専門家の方の手を握り、再会をとても喜んでくれたのです。これはもちろん、この専門家が真摯にタイの地下鉄整備のために尽力されたからこそなのですが、専門性や知見を途上国の発展のために活かしたいという熱意を、20年の時を経て自分がつなぐ役割を果たすことができたというのは、やはりとても嬉しかったですね。その後フィリピンでも都市鉄道の開発を担当し、つくづく感じたことですが、タイやフィリピンの関係者が一貫して求めているのは、まさに小林さんが言う通り、専門家、エンジニアを始めとするJICAのプロジェクトに参加される方々の情熱、真摯な姿勢といったものをひっくるめた“日本のクオリティ”なのです。それを確認できるような場面に出会えることは、この仕事の醍醐味であると思いますし、誇らしい瞬間でもあります。

“人”の想い、情熱、姿勢といったものを途上国の現場につないでいくことが、JICAの事業の根幹にあるものだということ、とても興味深いお話だと思いましたが、お二人の経歴だけを見ても、JICAの組織形態、事業内容が大きく変化していることがわかります。入構以来現在までの間に、社会・世界からのJICAに対する期待、JICAが担うべき役割といったものは変わってきていると思われますか?

小林

もともと別々の組織に入った我々二人がこうして一緒に話していること自体が、変化の証の一つだと思いますし、確かにJICAの組織体制は大きく変わり、事業内容も多様化しました。また、それに伴って職員に求められる姿勢が変わってきていることも間違いないでしょう。しかし、変わらない核となる部分も確実にあると私は考えていて、それは、我々はいつの時代も、途上国の自助努力を後押しするという姿勢で、開発協力に取り組んでいるということ。つまり、日本のODA、JICAの事業は、困っている国、貧しい人を助けてあげるということではなく、途上国自身が自らの課題を自らの力で乗り越えられるように、彼らと同じ目線で、協働しながら、お互いの信頼関係を構築するなかで推進されているということだと思います。それがおそらく、日本/JICAの国際協力の最大の強みなのではないでしょうか。複合的な危機に直面し、課題自体が重層化・複雑化している現代においては、我々が伝統的に実践してきた、一人ひとりと誠実に向きあい、彼らをリスペクトし、お互いの信頼関係を構築しながら事業を進めていくことがますます重要になってきているように思います。他方、近年では、日本国内のグローバル化や多文化共生が待ったなしに進んでおり、JICAの国際協力やそこから得た経験を国内の課題解決や活性化に活用できる機会が増えてきています。これはとても顕著な変化であり、JICAが途上国のみならず、日本を元気にすることにも貢献できる可能性がどんどん広がってきていると思います。

川淵

時代の変化というのは本当に凄まじいです。時々刻々と変化する国際情勢に加え、コロナ禍、気候変動、自然災害、高齢化、デジタル技術の進展など、課題も複雑化する一方です。日本だけの課題でもなければ日本だけで解決できる課題でもなく、明日、来月、来年がどういう世界になっているのか見通せないVUCAの時代において、日本と世界の橋渡しをする役割は今後ますます必要になってくる。ですから、まったく新しい課題、ニーズが現れた際に、それに対してプロアクティブに、果敢に向き合える、そうした姿勢を持つことが、JICAという組織、職員には必要になってくるのではないでしょうか。どんどん情報過多になっていく世の中で、「世の中をよくしたい」「為すべきことを為す」というブレない軸を持つことがとても大切であると思います。先に小林さんが言われた“変わらないもの”というのは、その象徴的な一つだろうと思います。

2.マインドセット変革のためのメッセージとしての、
人事制度改革

外部環境の変化についても話題に上りましたが、今、JICAの中では大きな人事制度改革が進められており、これは組織変革を目指すうえでの柱の一つであるとうかがっています。ここからは少し、この人事制度改革にフォーカスしながら、JICAはなぜ変わらなければならないのか、人事制度改革のポイントはどこにあるのかといったことについて、お話を聞かせていただければと思います。

小林

かつては日本の技術は確実に途上国の発展に寄与できるし、今協力している国は、おそらく日本と同じような発展プロセスをたどっていくだろうというイメージを常に持つことができたのですが、現代では必ずしもそうではない。それが、JICAが変わらなければならないポイントの一つだろうと思います。私はエネルギー関連の仕事に携わることが多くて、昔はよく様々な電源を組み合わせたマスタープラン作り等を手掛けたのですが、こうした案件は、日本の知見・技術がものすごく活かせるものだったわけです。ところが最近途上国から上がってくる要請の中には、ほぼ100%再生可能エネルギーによるエネルギー開発のマスタープランを作ってほしいというようなものもあって、これは正直、日本もやったことがないものなのです。こうした要請に応えていくためには、やはり我々の経験だけでは答えは出せないし、いろいろなパートナーやカウンターパートと一緒に議論しながら、新しい答えを一緒に見つけ出すという、“共創”の姿勢を持つことが必要になってくる。さまざまなパートナーと共に新しい答えを創り上げていく姿勢を我々自身が持たない限り、これからの国際協力は成立しないだろうというのが、JICAが変わらなければならない要点なのではないでしょうか。

川淵

今や有難いことに世の中全体にグローバルな課題意識が高まり、SDGsに対する理解も取り組みも世間に浸透してきました。より良い協力を途上国に届けるため、民間企業含めたさまざまなプレイヤー、アクターと一緒に課題に取り組み、成果を追求する時代に入っています。ただ昨日の正解が明日も正解かどうか分からない時代です。Do the things rightも重要ですが、一人ひとりが為すべきことを果敢に見つけ出す、Do the right thingsという発想を持ち、さまざまなプレイヤーとの協働をリードしていく、そんなマインドセットの変革が必要であると考えました。そんな思いが今回の人事制度改革の根幹にあります。
 従って、現在動いている人事制度改革も、人事部がこうした新しい仕組みを作りました、と一方的に職員に提示するものではなく、組織、マインドセット変革のための継続的なプロセス、ムーヴメントのようなものだと理解してもらえばいいのではないでしょうか。2023年4月から新しい評価制度を導入し、これが今後のJICA職員の成長を促す軸となることは間違いないのですが、大切なのは、人事制度改革の旗のもとに、我々のビジョン、ミッションとは何なのか、それを実現していくために一人ひとりはどのように行動していく必要があるのかといった問いを、職員自身が絶えず考え続けることだと思っています。そのための仕掛けとしてこれまでも、またこれからも社内ワークショップを実施していきます。こうしたワークショップでJICAのビジョンや理念、これから国際協力のあり方といった本質的なテーマを皆で議論することで、自身の立ち位置を再確認し、一人ひとりの職員がモチベートされていく……今回の人事制度改革は、そうしたプロセス自体に意味があるのだと考えています。

小林

その通りだと思います。JICAはこれまでも、さまざまな形で改革を行ってきたわけですが、今、我々が最優先で取り組まなければならないのは、組織体制や制度を変えることに加え、職員の仕事の仕方を変えることなのです。そこで重要になってくるのはやはり、一人ひとりのマインドセットを変えていくこと。これまでのように、自分の肩幅と責任範囲だけでものごとを捉えるのではなく、積極的に新しい出会いを求め、異なる価値観の中からヒントを得て、新しいアイデア、新しい価値を創出していくような仕事の仕方に変えていかなければならない。JICAのビジョンと共に示されている5つのアクションの中に、「共創」「革新」というキーワードがありますが、マインドセットを変え、働き方を変えた先に、革新的な新しい価値を生み出していくパートナーシップをどんどん発展させていく。そうした働き方を実現していかない限り、現代の高度化・複雑化している社会課題には応えられなくなってきている状況がある。現在進めている改革は、そうしたものの実現を目指す取り組みであると言えるでしょう。

人事制度改革の内容は非常に多岐にわたりますが、今回の主要な読者であるJICA志望者の方たちに向けて、特に紹介しておきたいポイントはどのあたりになるでしょうか?

川淵

人事制度改革では4つの柱を設定しています。「職員の自律的なキャリア形成を後押しする」「組織運営を支える人材を強化する」「多様な働き方を促進する」「マインドセットの改革・強化を促進する」というものですが、やはり“自律的なキャリア形成”が重要なポイントになるでしょうか。そのための施策の一つとして社内公募ポストも拡大していきます。地域や特定課題の専門性・知見を強化する道を自ら切り拓くことに挑戦できる。それ自体にも意味はありますが、それ以上の狙いとしては、一人ひとりが、業務やキャリアパスは組織から与えられるものだという“受け身”の姿勢から脱して、自身の目指す姿を“自律的”“能動的”に考え、それに向けて自己研鑽/業務に取む姿勢を涵養することです。

小林

“自律的”であるためには、我々は何のために仕事をするのか、その理念を皆が共有しているということが重要です。世界の平和、より豊かな世界、人々との信頼関係、そうしたものを築いていくのがJICAの仕事なのだという大きな理念が共有されていれば、個々人が“突出”した専門性を目指したとしても、組織の一体感はより強固になるでしょう。そして、“自分自身がJICAなのだ”という強いオーナーシップを持って仕事に向き合うということ。自分の役割、職務範囲の中でしか仕事をしないというのではなく、より良い仕事を創り上げるためにはどうすればいいのかを組織の理念に基づき各人が考え、オーナーシップを持って業務に取り組んでいってほしい。そうした中でこそ、確かな成長が得られるのではないかと私は思います。
 JICAはやはり税金をお預かりして仕事をしている組織ですから、これまでは、従来のやり方をしっかりと踏まえて、確実に事業を遂行していくことが求められてきたことは間違いありませんし、今後も求められるものです。しかしこれからの時代においては、時に失敗してしまうことがあったとしても、新しいものにどんどん挑戦し、未知のパートナーと関係を築いて、革新的な価値を生み出す事業を創出していくことを目指していくことも必要です。そうしたマインドセットの変革を職員に向けて伝えていくことが、今回の人事制度改革の最も重要なテーマであると私は考えています。

3.より良い世界を創りたいという
志を受け止める組織、JICA

人事制度改革自体が、組織メンバーに対する変革のメッセージであるということですね。さまざまなお話をうかがってきましたが、最後に、これからのJICAを牽引していく人材はどのような姿勢を持っていなければならないのかということ、そして、若い人材に期待するものについておうかがいしたいと思います。

小林

私はJICAに入構した頃、「先ずイエスから入れ」ということを先輩からよく言われたのですが、最近それを思い起こすことが多いですね。新しいパートナー、新しい人と出会うと、お互いの文化や価値観、立場の違いもありますから、なかなかすぐに一緒に仕事をするのは難しいと考えてしまうことが多いでしょう。前に進めない、できないと考える理由はいくらでも見つけられるわけです。しかし、先ずやってみましょうというように、どうやったらできるのかを考える。“共創”というのはまさにそういうことで、お互いが違う価値観を理解していくことで、新しいアイデア、ソリューション生み出していく。“共創”というプロセスを経ることで、組織も個人も日々成長していくことができるのだと私は考えています。イエスからスタートする、先ずやってみる……JICA職員には、そうした姿勢を持っていてほしいと私は考えています。

川淵

我々JICA職員に共通するベースは、より良い世界を創っていきたいという強い想いだと思いますが、その使命感を糧に、今世の中で何をしなければならないのか、何を変えなければならないのかということを必死に考え、実現に向けて自ら汗をかいて動く、そういう姿勢を自分も含めて持ち続けたいと思っています。JICAが世界の課題解決のために貢献できること、貢献すべきことは無限にあり、大きな可能性を持った組織であることは間違いありませんが、その可能性を活かすことができるかどうかは、やはり“人”にかかっている。ですから、我々人事部は、一人ひとりのポテンシャルを花開かせるための“触媒”なのだと思っています。今回の人事制度改革を含め、花を花たらしめるための、文化、風土、環境を作っていくために努力していきたいと考えています。

小林

人間は根源的に、社会のために何かをしたい、社会と関係する中で自分の可能性を試してみたいという欲求を持っているのではないかと思いますが、JICAは間違いなく、そうした想い、志をしっかりと受け止めたいと考えていますし、そうした想い、志と共に成長していきたいと願っている組織です。我々の仕事は、決して援助する、援助されるということではなく、世界の人々と一緒に、世界の共通課題に取り組むということ。言ってみれば、地球市民の一員として、より良い地球社会を創っていくということなのです。これは本当に、発見に満ちた、楽しく、やり甲斐のある仕事です。多様性に富んだ世界との関係の中で自分の可能性を試してみたいと考えておられる方は、是非JICAの門を叩いていただきたいですね。

川淵

本当にそうですね。どんどん変化し続ける世界の中で、その世界を少しでも良くしたいという強い思いを持っている人に、一人でも多く出会いたいですね。そして、決して独り善がりにならず、人に寄り添い、課題に寄り添うことができる人……そうした若い方たちと、是非一緒に仕事をしたいです。

小林

しかし、自分の若い頃を振り返ると、あまりたいそうな志は持っていなかったですね(笑)。ただ、未知の世界を見てみたい、その中に飛び込んで、新しい自分の可能性を発見したいという思いに駆られて、JICAに就職したようなところがありました。学生の皆さんはじめ若い方々も、新しい可能性を求めて、一歩踏み出していただきたいと思います。

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