日本における
SDGsの
キープレイヤー、
それがJICA。
03
JICA Playing a Key Role in Japan’s SDGs
2015年、「国連持続可能な開発サミット」において
全会一致で採択されたSDGsは、
より良い未来を築いていくための指針として、
今や、民間企業を含む社会全体に広く認知されている。
そして、SDGsが採りあげる社会課題の最前線である開発途上国において
長らくその解決に取り組んできたJICAは、
まさに、日本におけるSDGsのキープレイヤーに他ならない。
SDGsに示された課題/ゴールに対するJICAの取り組みを、
ここで概観してみよう。
JICAとSDGsの関わり、
基本姿勢について
17のゴールのロゴをクリックしていただくと、
それぞれに関するJICAの取り組みをご覧いただけます。
アフリカにおける農業振興と貧困削減を同時に追求する「SHEPアプローチ」。
SHEP(Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)アプローチとは、2006年にスタートしたケニアに対する技術協力プロジェクトから生まれた極めてユニークな農業振興策で、“作って売る”から“売るために作る”という意識改革を農家にもたらすことによって、所得向上を目指すもの。ケニアでは、市場に出回る農産物の7割以上を小規模農家が栽培しており、こうした農家が “農業で稼ぐ”ことを支援し、“ビジネスとしての農業”を定着させていくことは、農業振興と貧困削減の両面から大きなテーマとなっていた。
SHEPはこの課題にソリューションをもたらすために、経済学と心理学の理論を応用。農家自身が市場調査等を行うことで“売るために作る”ことの自覚を促し、農民自身のモチベーションを高めていくことによってさらなる成長を目指す、というサイクルを生み出すことに成功した。
このSHEPアプローチは、2013年の第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)においても高く評価され、日本政府はアフリカ地域において広く普及させていくことを表明。以降、JICAによるアフリカ農業協力の柱の一つとして、現在では23ヵ国にまで広がっている。アフリカの小規模農家を支援することで農業振興と貧困削減を同時に追求するSHEPアプローチは、まさにJICAならではの、SDGsの達成を目指す取り組みの一つと言えるだろう。
米の生産量増大によってアフリカの飢餓撲滅を目指す「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」。
世界の飢餓の状況を地図上に色分けして示した、世界食糧計画(WFP)作成による“ハンガーマップ”を見ると、アフリカ地域には慢性的飢餓にさらされている国が特に多いことが一目瞭然にわかる。こうした状況を打開し、10年間でサブサハラ・アフリカにおける米の生産量を倍増(1400万トンから2800万トンへ)させること目標に、JICAと国際NGO“アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)”が2008年に共同で立ち上げた国際イニシアティブが「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD= Coalition for African Rice Development)」。
CARDは、立ち上げ段階で、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国等の23ヵ国が参加し、JICAは運営機関の一つとして各国の国家稲作振興戦略の策定を支援すると共に、さまざまな形で米の増産を支援。CARDフェーズ1期間に、JICAは各国において48件、計520億円に上る協力事業を展開したが、その甲斐あって、2018年には生産量倍増目標を達成した。
この成功を受け、2019年から始動したCARDフェーズ2においては、“2030年までに、さらなる米生産量の倍増(2800万トンから5600万トンへ)”という目標が掲げられ、参加国も、アンゴラ、マラウィ、スーダン、ブルンジなど新たに10ヵ国が加わった。アフリカにおいてはますます人口増加が進み、米の需要も拡大し続けているが、JICAは各国の国産米の競争力を強化し、民間セクターとの連携も進めるなど、アフリカにおける飢餓の撲滅と国力強化のために、今もさまざまな取り組みを実施している。
日本発の母子手帳を、世界の母親に
届ける。
日本では誰もが知っている“母子手帳”は、妊娠中及び出産時の母子の状態、子供の成長・健康状況を継続的に記録していくための冊子。これは1948年、それまで使われていた妊産婦手帳と乳幼児体力手帳を統合し、日本で誕生したものである。日本は今や、世界で最も母子の死亡が少ない国の一つだが、それは、母子手帳を軸にした母子継続ケア(妊娠期から乳幼児期に至る“時間的な継続性”と、家庭と保健医療施設を繋ぐ“空間的継続性”)の思想、仕組みが定着しているからでもあるだろう。そしてこの母子手帳は、今や世界約50ヵ国において導入され、年間およそ2000万冊が母親達に手渡されているが、これは、世界の母子保健向上を目指してたゆみない活動を続けてきた、JICAの大きな成果でもあるのだ。
母子手帳の各国への導入においては、専門家を派遣してのさまざまな調査に基づき、各国の状況に合わせた内容を開発していかなければならないことは言うまでもない。例えばインドネシアにおいては、蚊帳を用いたマラリア予防や正しい手洗いによる感染症予防方法等が紹介され、思春期の妊娠・出産が多いセネガルにおいては、予期しない妊娠・性的暴力・早婚などへの注意喚起を含めた、生活面に関するアドバイスが含まれるというように、各国の母子保健の状況を鑑みながら、本当に役立つものとなるような工夫が凝らされている。日本で生まれた母子手帳は今、JICAの協力によって、“すべての人に健康と福祉を”届けるための重要なツールとなっていると言えるだろう。
学校・地域住民・保護者の協働によって質の高い教育を実現する「みんなの学校」プロジェクト。
「みんなの学校」は、JICAが2004年からアフリカ地域で展開している基礎教育開発のための技術協力プロジェクト。西アフリカの貧困国ニジェールの23校からスタートしたこの事業は、2007年までにニジェール国内全ての学校に普及し、現在では、セネガル、マダガスカルといった、他のアフリカの国々を含めて約5万3000の小中学校に拡がっている。サブサハラアフリカ地域では、小学校4年生にあたる年齢の約6割の子どもたちが、読み書き・計算の基礎が身に着いていないと言われているが、こうした状況に対し、アフリカの子どもたちの学びを改善するために実施されているのが「みんなの学校」プロジェクトである。
「みんなの学校」プロジェクトのポイントは、従来距離のあった学校と地域住民及び保護者の間に信頼関係を構築し、“みんな”の協働を通じ、子どもの学びの改善を実現すること。プロジェクトでは、地域住民に開かれた学校運営委員会の設置のため、匿名選挙を通じて委員を選出。教員・地域住民・保護者の出席する住民集会等による質の高い情報共有を通じ、関係者が一体となって学校運営に主体的に取り組む体制を築いていくものだ。“質の高い教育をみんなに”というSDGsに掲げられた目標を達成するために、JICAによる着実な支援が、アフリカ地域で拡がっている。
コロナ禍の中で広がる“ジェンダーに基づく暴力”を食い止めるために。
世界的なコロナ禍の中、“影のパンデミック”と呼ばれるSGBV(Sexual and Gender Based Violence=性と性差に基づく暴力)の拡がりが懸念されている。国連の調査によれば、SGVBの形態の一つであるドメスティックバイオレンスに関する通報件数は、平時に比べて約30%増加しており(UN Women2020)、都市封鎖が6ヶ月継続した場合、SGBVの被害者は3100万人増加するという試算もある(UNFPA2020)。
アフリカ地域もその例外ではなく、例えばアフリカ大陸の51ヵ国においては、感染予防措置として学校が閉鎖され、学校に通えなくなった女児が退学の危機にさらされたり、児童婚や望まない妊娠、女性性器切除等の被害にあうリスクも高まっている。アフリカ地域におけるSGBVへの対応は、コロナ対策の一環としても喫緊の課題となっていると言えるだろう。
こうした状況の中でJICAは、2020年8月〜21年6月にかけて、「アフリカ地域ジェンダーに基づく暴力への対応にかかる情報収集・確認調査」を、ルワンダ、ケニア、タンザニア、コンゴ民主共和国、マダガスカルの5ヵ国において実施。コロナ禍の中での女性・女児に対するSGVBの状況や、各国、被害者のニーズ等を調査・分析するとともに、現状に迅速に対応していくために、国連機関や現地NGO等さまざまなアクターと連携・協働することによって、いくつかのパイロット的活動を立ち上げる予定である。アフリカ地域におけるSGBV廃絶に向けて、ポストコロナ環境においても本調査は大きな力を発揮するものとなるだろう。
「プノンペンの奇跡」を実現した水道事業に対する協力。
安全な水を持続的に供給していくためには、上下水道や井戸の整備だけでなく、行政能力の向上や利用者の意識改革といった、ハード、ソフト両面からの支援が不可欠である。JICAは、“世界トップクラス”と言われる日本の水道システムを管理・運用する地方自治体とも協力しながら、途上国に安全な水を届けるための協力を長年にわたって続けているが、その象徴的な成果と言えるのが、「プノンペンの奇跡」と呼ばれるカンボジア水道セクターに対する協力である。
1993年、JICAは内戦で荒廃したカンボジアの首都プノンペンの水道を復興させるため、マスタープランを策定。これに沿ってJICAは、施設整備を始めとするさまざまな事業を実施していったが、他国協力機関の資金を呼び込むきっかけとしても、このプランは大きな意味を持つものだった。同じ頃、プノンペン水道公社の総裁に就任したエク・ソン・チャン氏は、マスタープランを道標として料金徴収の改善、漏水対策、水道メーターの設置等数々の改革を進め、結果、プノンペン水道公社は10年も経たないうちに、24時間連続給水、世界保健機構(WHO)のガイドラインを満たす安全な水質、適正な水圧による給水といった、目覚ましい水道サービスの改善を成し遂げたのである。以降もJICAは、プノンペンの成果をカンボジア主要都市に拡大すべく、同公社職員を講師として活用しながら、地方水道事業体への技術協力を展開しているが、安全な水を届けるためのJICAのひたむきな努力は確実に、都市と人々の暮らしを変えたのだ。
JICAが持つ知見・ノウハウを動員し、持続可能なエネルギーを途上国にも行き渡らせる。
エネルギーの安定供給は、経済成長や“人間の安全保障”の観点から、開発途上国における最も重要な政策課題の一つとなっている。しかし、CO2排出量の約4割は発電及び熱供給に伴うものであり、途上国におけるエネルギー開発においても低炭素化が求められていることは言うまでもない。途上国における低廉かつ低炭素なエネルギーの安定供給を実現するためにJICAは、各国における電力マスタープランの策定や電力技術移転等のソフト面での協力をはじめ、アジア、アフリカ地域における発電や送配電網等の電力インフラ整備、地熱や太陽光、風力等の再生可能エネルギーの導入促進といったさまざまな事業を展開している。そのいくつかの事例を、以下に紹介してみよう。
インドネシアには2万7000メガワットという世界最大の地熱資源が存在するにもかかわらず、これまでその利用率はわずか3%にとどまっていた。これを有効活用すべく、インドネシア政府は2025年までに、エネルギー供給量の5%程度にまで地熱発電の割合を引き上げる政策を策定しているが、JICAはこの政策実現を後押しするために、地熱開発計画のプランニングと地熱発電所の建設を支援。またモンゴルにおいては、ツェツィー風力発電所開発事業を手掛ける企業にJICAが海外投融資によって資金支援を行い、石炭火力に依存する現状からの脱却に協力している。持続可能なエネルギーを途上国にも行き渡らせるために、JICAは持てる知見、ノウハウを総動員して、さまざまな試みを行っているのだ。
バングラデシュの有能なICT人材に日本での就業機会を提供する「B-JETプログラム」。
中所得国入りの目標を掲げてさまざまな取り組みを進めているバングラデシュだが、“デジタル・バングラデシュ”もその中核施策の一つ。デジタル技術の普及とICT人材の育成を国の発展につなげていこうというのがその目指すところだが、こうした政策の後押しもあって、バングラデシュ工科大学コンピュータサイエンス&エンジニアリング学部は現地の学生たちの間で絶大な人気を集めるなど、若者達のICT人材を目指す熱意は大きい。
こうした状況をさらに発展させ、バングラデシュで育成された有能なICT人材に日本での就業機会を提供していくために、JICAの技術協力によってスタートしたのが「B-JETプログラム(Bangladesh Japan ICT Engineers’ Training Program)」。これは、現地での選抜を経たICT人材に、日本語やビジネスマナー等の教育を提供し、日本や第三国にある日経IT企業への就職を斡旋するという事業で、応募倍率は130倍にも上るという狭き門となっている。
また、「B-JETプログラム」をさらに行き届いたものにしているのが、宮崎市・宮崎大学・宮崎市内IT企業との連携である。“バングラデシュ・宮崎モデル”と呼ばれるこの取り組みは、「B-JET」を修了した人材が宮崎大学に短期留学して日本語や日本文化について学んだ後、宮崎市内のIT企業に就職してもらうというもので、その過程では、宮崎市による採用経費の助成等が受けられる。日本国内のICT人材不足、地域活性化といった課題にも応えながら、若者たちに確かな“働きがいを”提供し、バングラデシュの持続的発展に貢献していくこの取り組みは、まさにJICAならではのICTへのアプローチと言えるだろう。
更なる経済発展を目指す基盤となった「デリーメトロ」。
インド最大、約1900万の人口を擁する首都デリーでは、経済成長に伴って交通渋滞や排気ガスによる大気汚染が深刻化しており、クリーンで効率的な公共交通網の整備は喫緊の課題となっていた。そうした中でインド政府が打ち出したのが「デリー高速輸送システム建設計画」。これは、デリー首都圏全域に地下鉄を建設するというものだが、JICAはこの事業に計画段階から参画。インド、デリーの更なる経済発展に向けて、大きな貢献を果たした。
2002年に運行を開始した「デリーメトロ」は、その規模において東京メトロに匹敵し、毎日およそ200万人に利用される“首都の足”として、今では市民生活の中にすっかり定着している。このデリーメトロ建設においては、総事業費の約半分が日本/JICAによる円借款によってまかなわれ、電力回生ブレーキシステムや光センサーを利用した工事中の安全対策システムといったハード面をはじめ、運行ノウハウや乗客の整列乗車、女性専用車両の導入、車椅子でも乗車可能な駅構内の設計といったソフト面においても、日本の知見が活かされている。JICAはこの他にも、数多くの開発途上国において、都市交通、インフラ整備事業等を手掛けているが、それらは確実に、各国における産業・経済発展の基盤となっているのだ。
民族間にわだかまる不信、差別を、
“スポーツの力”によって乗り越える。
およそ半世紀にわたる紛争を経て、スーダン共和国から南部10州が分離・独立を果たし、2011年7月に誕生した世界一新しい国、南スーダン共和国。しかし、独立後も国内での政治的な争いや、古くから続く家畜や土地を巡る民族間の対立は根強く残存しており、それに起因する政府内の派閥抗争によって、2013年、2016年の二度にわたって騒擾が勃発。国内の治安、社会経済状況は急激に悪化し、国民の3分の1にあたる400万人以上が難民や国内避難民となった。2016年の和平合意以降、政治的な争いは無くなったが、長年の紛争の影響や和平プロセスの遅れにより、人々の暮らしの中には、日々の生活への不安や暴力に対する恐怖が潜在している。そこで着目されたのが、“スポーツの力”だった。
“フェアプレー精神に則ったスポーツを通じて、南スーダンが一つになることを国民に呼びかけたい”。南スーダン政府の切実な思いを実現させるため、JICAは全国スポーツ大会開催を支援。南スーダン政府は、全国スポーツ大会を「国民結束の日(National Unity Day=NUD)」と命名し、現地に派遣されている自衛隊や日本企業などの協力も得て、2016年1月に独立後初となる第1回大会が開催された。以降JICAは、毎年NUDの開催を支援している。「平和と社会的結束」をスローガンに2020年に開催された第5回NUDでは、全国から選抜された19歳以下のアスリート360人以上が参加。男子サッカー、女子バレー、男女陸上といった競技においてフェアプレーの精神に則った熱戦が繰り広げられたが、こうした選手達の姿は多くの市民の心を動かし、競技会場は連日観客で溢れかえることになった。民族間にわだかまる不信と差別を乗り越え、平和な国創りを推進していくうえで、このスポーツ大会は大きな貢献を果たしている。
またJICAは、オリンピックへの参加も支援。NUDから選出されたさまざまな民族出身の選手たちが、南スーダンという国を代表して、2021年東京オリンピックの舞台にも立っている。困難を乗り越えて夢の実現に向かっていくその姿は、まさに南スーダンの希望そのものであり、「スポーツを通じた平和と結束」の実現に向けた支援を、JICAは続けているのだ。
防災分野において、“Build Back Better〜より良い復興”という考え方を世界で根付かせるために。
“Build Back Better(より良い復興)”というフレーズは、米国バイデン政権がコロナ禍の中で発表した、米国再建のための政策パッケージに冠されたタイトルとして広く一般に知られることになったが、そもそもは日本、JICAが、防災分野の協力における基本理念として世界に向けて発信してきたものでもある。自然災害のリスクを低減するために、いかに事前に投資をし、準備をするか……また、それができない状態で災害に遭った場合には、形だけの復旧ではなく、より強靱な社会を築いていくための復興を目指す……。
この考え方が世界で主流となるきっかけとなったのは、2015年に仙台で開催された「第3回国連防災世界会議」であり、ここで策定された、向こう5年の国際的な防災の枠組み「仙台防災枠組2015-2030」に、“Build Back Better”の定義が盛り込まれたのだ。同年、日本政府は、国際社会と共に災害に負けない強靱な社会を構築するため「仙台防災協力イニシアティブ(2015-2018年)」を発表し、その後、2019年には新たに「仙台防災協力イニシアティブ・フェーズ2(2019-2022年)」を発表。JICAは、その主要実施機関として、防災分野での支援、人材育成・防災教育、防災計画策定・改定等、防災協力事業の実施を通じて同イニシアティブの達成に貢献している。その一例と言えるのが、各国の中央防災機関と議論し作成した「地方防災計画の実践的策定ガイド:8ステップ」。JICAは、中央防災機関として行うべき業務の優先付け、防災に係るナレッジを集積・活用するシステムのコンセプトと戦略の策定、防災人材育成・能力開発システムの構築などを支援するとともに、日本の中央及び地方政府の防災の取組や、8ステップを活用した地方防災計画の策定手法を学ぶことを目的とした本邦研修事業を実施している。
災害大国、日本の経験、知見の精華としての“Build Back Better”という考え方を基盤に、JICAは今後も防災分野での取り組みを加速化し、災害に強いより良い社会の構築を目指していく。
アフリカにおけるゴミ問題解決を目指して設立された「アフリカのきれいな街プラットフォーム」。
アフリカ地域の都市部においては、経済成長と人口増加に伴いゴミ問題が深刻化し、人々の健康な暮らしをおびやかす材料ともなっている。アフリカ都市部の衛生環境改善のためには、生活に身近な廃棄物の適正管理が急務であり、2016年8月にケニアのナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)のサイドイベントでは、ごみ問題を解決するための仕組み作りの必要性が参加者の総意として合意された。こうした背景を受け、JICA、環境省、国連環境計画(UNEP)、国連人間居住計画(UN-HABITAT)および神奈川県横浜市のイニシアティブで、翌2017年4月にモザンビークの首都マプトにおいて設立されたのが「アフリカのきれいな街プラットフォーム」である。
現在、同プラットフォームへは37か国65都市が加盟し、政府や主要都市の廃棄物管理行政官が集まる年次会合や、横浜での実務者の能力向上に向けた研修によって廃棄物管理の知見を広げ、加盟国内で共有するための活動が本格化している。JICAはこうした活動を支援すると同時に、官民の資金動員の促進といったさまざまな側面からも協力を続けている。アフリカ地域において、SDGsゴール11、12への貢献を目指すムーブメントの起点として、JICAの協力によって生まれたこのプラットフォームが重要な役割を担っているのだ。アフリカ各国の実践からの学び合いや横のつながりを重視しているのがこのプラットフォームのユニークな点でもあり、加盟国や都市が協働するきっかけをつくり、国境や組織の種別を超えた双方向の“知の循環”を促進することで、アフリカのきれいな街の実現、ひいてはSDGsの達成に貢献している。
気候変動対策と持続可能な開発の両立を実現する、“コベネフィット”という考え方。
開発途上国における開発を考える時大きなテーマとなるのが、コスト面を含めた持続可能な開発と気候変動対策が両立可能な方法論を探ることである。例えば、代替燃料の一つとして注目される植物由来のバイオ燃料は、気候変動対策として注目される反面、その原料となる植物を栽培するためには多くの水が必要になるという問題点も指摘されている。また、水力発電は再生可能エネルギーであることは間違いないが、ダム建設には莫大なコスト、資源が投入されることも忘れてはならないだろう。
こうした複雑な要因と向き合わなければならない途上国開発においてJICAが重視しているのが、「コベネフィット型気候変動対策」という考え方。気候変動対策と持続可能な開発を両立させ、脱炭素への移行と気候変動に対して強靱な社会の実現を目指すのが、「コベネフィット型気候変動対策」であると言えるだろう。
その事例の一つと言えるのが、世界で最も水資源が少ない国と言われるヨルダンで進められている「ザイ給水システム改良計画」。ヨルダンの首都アンマンへの給水を行うために1985年に建設されたザイ給水システムは、1260メートルもの高低差を揚水するため膨大な電力消費とコストを要していたが、老朽化した設備を更新するこの改良計画では、エネルギー効率化と運転コストの削減を実現し、アンマンへの長期的な安定給水と気候変動対策を両立できるシステムを構築していくことを目指している。地球の未来と途上国の未来、その両方を展望しているのが、JICAが進めるコベネフィットな開発であると言えるだろう。
海、川、湖などの自然環境を守りながら、その恵みを経済成長に活かす「ブルーエコノミー・アプローチ」。
海や川、湖などの自然環境を守りながら、その恵みを経済成長に活かす……それが、“ブルーエコノミー”というコンセプト。JICAはこのコンセプトに基づく「水産ブルーエコノミー・アプローチ」によって、アフリカや大洋州、インド洋やカリブ海などの島嶼国においてさまざまな協力を行っている。「水産ブルーエコノミー・アプローチ」は、行政と漁民による共同管理=コマネジメント、地域住民が密接に関わる環境保全・資源管理、フードバリューチェーンに関連付けた地域活性化、の3つを軸にしているが、その象徴的事例とも言える大洋州、島嶼国における事例を以下に紹介してみよう。
オーストラリア東北、珊瑚海上にあるバヌアツでは、地域住民が主体となって海洋保護区を設置し、ヤコウガイなどの貝類の保全活動と、それを補うための多様な生計手段の創出を組み合わせる取り組みが進められている。この取り組みは、サイクロン発生時の食料確保やその後の水産資源回復にもつながり、同時に、同国水産局の能力も強化されることになった。JICAは、こうした成果を隣国ソロモンでの協力に活かしているほか、2020年に協力協定を結んだメラネシアの地域国際機関と連携し、同地域においても、ブルーエコノミー・アプローチの展開を検討している。
“陸の豊かさ”を守る現場を担う、“宇宙人材”を育むために。
陸の豊かさ、地上の安全を守るために、現代においては宇宙技術がさまざまな分野において活用されているが、それはJICAの事業においても例外ではない。例えば、南米ブラジル等における熱帯雨林の違法伐採を監視するために、JICAは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、人工衛星を活用したモニタリングシステムを構築・運用している。また、東南アジア等における洪水、火山噴火等の災害対策、防災分野においても、人工衛星からの情報は欠かせない。
途上国における多種多様な課題に対応していくためには、地球観測衛星から得られる情報の活用をはじめ、今後ますます宇宙技術の応用が進んでいくことが考えられるが、そうした状況に対応していくために、JICAとJAXAが連携して立ち上げたのが「宇宙技術活用ネットワーク構想 JJ-Nest(JICA-JAXA Network for Utilization of Space Technology)」である。
JJ-Nestは、東南アジアを中心に、将来自国で宇宙技術開発やその利用を担う実務担当者、研究者等に対して、日本の大学教員やJAXAの研究者、政策担当者等を講師とする研修を実施したり、東京大学、政策研究大学院大学、慶應義塾大学等への留学を支援。加えて、途上国において宇宙技術を学ぶ人材と日本の研究者、エンジニアが様々な形で交流できる場を設けることで、“宇宙人材”のネットワークを形成していくことにも取り組んでいる。近い将来、JJ-Nestによって育まれた“宇宙人材”が、途上国の“陸の豊かさ、地上の安全”を守るために活躍する日が訪れるだろう。
「人間の安全保障」の理念の下に、
暮らしから国家政策までを通貫する事業を推進。
JICAはそのミッションに、“人間の安全保障と質の高い成長の実現”を掲げているが、ここで言う「人間の安全保障」とは、一般的に言われる“安全保障”が国家に軸足を置いたものであるのに対し、一人ひとりの“人間”、個々人にとっての、自由、安全、権利の保障等を目指す概念であり、JICA理事長も務めた故・緒方貞子氏らのイニシアチブによって、世界的に浸透していったという経緯を持っている。JICAはこのミッションを踏まえ、より多くの国において、法の支配、民主主義等の普遍的価値が共有される社会が実現されることを目指して活動しているが、それは、国家の制度構築といった政策レベルから、人々の暮らしに直結するものまでさまざまである。ここでは、ガーナにおける児童労働廃絶にもつながる取り組みについて紹介してみよう。
日本は、チョコレートの原料であるカカオの7割をガーナから輸入しているが、実はそのガーナでは、5人に1人の子どもが児童労働に従事していると言われる。小規模なカカオ農家では人手が足りず子どもが重要な働き手となっているほか、技術・知識不足で生産性が上がらない悪循環に陥っている。また、地球温暖化や森林伐採の影響でカカオの生産量が減少していく可能性があるなど、カカオ産業をめぐる問題は複雑化している。こうした困難で複雑な状況の解決を目指し、JICAが事務局となって設立されたのが「開発途上国におけるサスティナブル・カカオ・プラットフォーム」。これは、企業、業界団体、NGO等との間で知見を共有し、カカオ農家が直面するさまざまな課題に対する解決策を協働して探ることによって、開発途上国における社会的・経済的・環境的に持続可能なカカオ産業を実現することを目指すものだ。農業現場へのアプローチによって、人間の安全保障を実現すること……これも、JICAの重要な取り組みの一つである。
楽天との“共創”関係から、SDGsのさまざまな分野への貢献を果たす。
SDGsの“Goal 17”には「パートナーシップで目標を達成しよう」というテーマが掲げられている。これは、SDGsがターゲットとする多様で高度な課題に対処していくためには、企業・団体から個人に至るまであらゆるステークホルダーが連携し、パートナーシップから生まれる“共創”が不可欠であることを示している。民間の資金や技術が開発協力においても大きな役割を担うようになって久しいが、JICAでも、さまざまなパートナーとの連携・協働によって、イノベーティブで大きなインパクトを持つ事業を生み出すための取り組みが数多くスタートしている。
その象徴的事例と言えるのが、2021年2月に締結された楽天グループ株式会社との包括連携協定。JICAが分野横断的に民間企業と包括的な連携協定を結ぶのは初めてのことだった。
この包括連携協定は「Innovation〜テクノロジー活用の協力」「Sustainable Lifestyle〜SDGsの理解促進・行動変容に向けた協力」「Partnership〜パートナーシップの拡大」の3つを主要なテーマとして掲げているが、その具体的な取り組みの一つが途上国のスタートアップ支援に関する連携だ。ここからは、ビジネス・イノベーション創出のための起業家支援活動(Project NINJA)の一環として、JICAがアフリカ地域19ヵ国を対象に実施したビジネスコンテストの入賞企業を楽天がサポートする等の実績が生まれており、この他にも、4ヵ国における14プロジェクトが既に動き始めている。2022年2月には、両者の職員・従業員を対象に包括連携協定締結1周年を記念するオンライン報告会が開催され、楽天が展開するサステナブル消費を推進するオンラインショッピングモール上での連携や、JICAが各国で進めているDX関連事業への楽天の参画の可能性について意見交換も行なわれた。この分野横断的な“共創”関係は、SDGsのさまざまなターゲットに、革新的・創造的なソリューションをもたらしていくことだろう。