Frontline

日本におけるSDGsのキープレイヤー、それがJICA

Interview

SDGsを起点にした
“共創”のハブとして、
より革新的・創造的な
事業の実現を目指していく。

高橋 亮Makoto TAKAHASHI

企画部イノベーション・SDGs推進室 室長(当時)

SDGsは今や、より良い世界の実現を目指すうえで、国家から民間企業、個人にいたるさまざまなステークホルダーにとっての共通言語となっていると言えるだろう。JICAは、SDGsの成り立ち自体にも深く関与し、その採択以降も、日本におけるSDGs推進のキープレイヤーとして、その達成に向けて、さまざまな取り組みを続けている。
ここでは、JICAにおけるSDGs推進の軸となっている「イノベーション・SDGs推進室」 室長(当時)、高橋亮に、JICAがSDGsへの貢献を果たしていくうえでの基本姿勢、個々の事業における特徴といったものについて、話を聞いた。

SDGsへの貢献を目指す、JICAの基本姿勢

先ず、「企画部イノベーション・SDGs推進室」はどのような目的を持って設立され、どういった業務に携わっておられるのかということについておうかがいしたいと思います。

国連においてSDGsが採択されたのは2015年9月ですが、JICAはその半年後、2016年2月の段階で、企画部の中に“SDGs推進班”という部隊を既に設置しています。現在の「企画部イノベーション・SDGs推進室」の発足は2019年11月ですが、JICAは非常に早い段階から、日本においてSDGsの推進を担うキープレイヤーとして、全組織一丸となって向き合っていく必要があるという明確な考えを持っていたことが、このことからもわかっていただけるのではないでしょうか。
   我々「企画部イノベーション・SDGs推進室」が、SDGsに関連して取り組んでいるのは、先ず、SDGs達成に全組織で取り組むための、戦略・事業双方におけるSDGsの「見える化」。即ち、経営計画といった上位レベルの戦略から個別事業の計画に至るさまざまな段階に、SDGsとの関係や貢献の形をしっかりと取り込んでいく。2016年9月、JICAとしてSDGsにどのように貢献していくか、その方向性をまとめた“ポジション・ペーパー”という文書を、全体総括編、各17ゴール編それぞれにまとめていますが、これも、“見える化”の具体的な事例と言えるでしょう。次に、国内外の関係者とのパートナーシップの強化も、我々が進めている重要な業務の一つです。SDGsの“ゴール17”には、“パートナーシップで目標を達成しよう”というテーマが掲げられていますが、JICAはおよそ150の国・地域で事業を展開し、国内にも14の拠点を擁しています。こうした実績、ネットワークから得られる現場の情報、人とのつながり、信頼関係等を活かし、技術、アイデア、製品・ノウハウ、資金等を持った企業、大学、NGOといった多様なアクターとSDGsという共通言語を介してパートナーシップを形成していくことによって、よりイノベーティブな事業を実現していく。そのために我々は、さまざまなセミナーに参加したり、企業や大学等に出向いて、JICAがどのようなお手伝いをできるのかということをプレゼンテーションしたりしています。地球規模課題がますます複雑化・高度化する中、SDGsのゴール、ターゲット間のシナジーを生み出し、従来の枠組みに囚われない創造的な事業を実現していくためには、こうした多様なアクターとの“共創”が不可欠なのです。あと一つ、我々が重要なテーマとしているのは、SDGsに関連した実績・成果を国内外に向けて発信していくということ。これは、国際会議の場でJICAがどういう事業を手掛けているのかをSDGsの概念を交えてプレゼンテーションするということもありますし、WEBセミナーのような形で、この地域でこうした面白い試みを実施しているといったことをお伝えするということもある。こうした発信が参加者、ステークホルダーの気づきにつながって、また新しい事業が始まるということもありますから、SDGsへの貢献を目指すうえでは、情報発信活動も非常に大きな意味を持つものだと考えています。

続いて、JICAがSDGsに取り組むうえでの基本的な考え方、姿勢といった点についても、おうかがいしたいと思います。

SDGsの中核的な理念は「“誰一人取り残さない”包摂的な社会を実現すること」、そして、「持続可能な世界にすべく、社会・経済・環境に包括的に取り組んでいく」ということですが、これは、JICAがミッションとして掲げる「質の高い成長〜“包摂的”で“持続可能”、“強靱性”を備えた成長」「人間の安全保障〜すべての人々が尊厳を持って生きる権利が保障された社会」と強い親和性を持つものであると言えます。というのも、JICAはSDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDGs)の最終段階、2014年の時点で、“Perspective on the Post-2015 Development Agenda”というレポートをまとめ、世界に向けて発信していたのです。このレポートには、次代のアジェンダが基本原則とすべきものとして、“人間の安全保障”に立脚した“ヒューマンセキュリティー”、国家・市民社会・プライベートセクターのグローバルで包摂的なパートナーシップ、課題に取り組む国家におけるオーナーシップの重要性といったテーマが明示されており、そうした意味では、JICAはSDGsの成り立ちに深く関与していたと言えるでしょう。

高橋 亮の画像

私自身が、JICAがSDGsを推進していくうえでの基本姿勢として重視しているのは、MDGsよりさらに拡大された多様なステークホルダーが、それぞれの立場で“自分ごと”化することで、互いにつながっていく、ということでしょうか。MDGsというのはある意味で、課題解決の主な対象が途上国に限られていたのですが、先進国も含め、民間企業、市民社会、個人といったあらゆる関係者が協力し、一緒になって考えながらその達成を目指すというのがSDGsの理念です。今回のコロナ禍によってより明確になった観がありますが、今我々が直面する人類共通の開発課題といったものは、一国だけ、一つの組織だけで解決できるようなものではありません。気候変動などを含めて高度化、多様化している現代の課題に対しては、さまざまな関係者がパートナーシップを形成し、共創することによって立ち向かっていかなければならないのです。そのためには、国家から個人にいたるあらゆるステークホルダーが、SDGsに示された課題を“自分ごと”として捉え、距離や立場を超えて互いにつながる姿勢を持つことが重要になってくる。我々はそうした、共創の基盤を作り出すための活動を日々続けていると言えるのではないかと思います。

JICAらしさとは何か?そして、これからのJICAのあり方

それでは、JICAがSDGsへの貢献を目指して進めている事業にはどのような特徴があるのかということについて、次におうかがいしたいと思います。

SDGsへの貢献を目指すJICAの取り組みの特徴の一つに、“日本らしさ”と言いますか、相手の置かれた立場や状況に常に寄り添って、日本や世界の開発経験・技術を活かした途上国の国創りをサポートし、主体性を引き出しながら持続的な変化を生み出していくということが挙げられると思います。例えば、2002年に操業を開始したインド首都圏の地下鉄網“デリーメトロ”では、建設資金や技術的な協力だけでなく、女性専用車両の導入、車椅子でも乗車可能な駅構内の設計といったソフト面においても、日本の知見が活かされています。また、日本で生まれた母子手帳は、今では世界50ヵ国以上において導入され、母子保健の基盤を支えていますし、エジプトの初等教育の現場においては、児童の協調性等を涵養していくことを目指して、皆で一緒に掃除をするといった日本の学校教育の方法論が導入されている。JICAは、日本国内に14の拠点を擁していますが、自国の中にこれだけのネットワークを持っている協力機関は他国にはありません。これら国内拠点から集まってくる地方自治体、さまざまな企業に関する知見・情報はJICAの大きな資産であり、これらを、SDGsへの貢献をはじめ、事業の現場へつなげていけることは、JICAの大きな強みの一つであると思います。

デリーメトロの画像

日本の知見がさまざま部分で採り入れられているデリーメトロ。Photo:JICA

世界50ヵ国以上で導入されている母子手帳の画像

世界50ヵ国以上で導入されている母子手帳。Photo:JICA/Kenshiro Imamura

また、開発効果の持続性を生み出していくために、さまざまな関係者のオーナーシップとパートナーシップを重視していることも、JICAの協力における大きな特徴であると思います。JICAは、途上国における中長期的な国創りの展望を示す“マスタープラン“の策定プロセスを支援することがありますが、将来的には相手国の関係者自らがこのような計画策定を行えるよう、常に寄り添って対話を重ね、その過程で、先方関係者の“オーナーシップ醸成”や“人材育成、組織強化”を図ることで、開発効果の持続性を向上させていくことに努めています。こうした国家開発全体を展望したうえでのマスタープラン策定支援は国創りそのものとも言えますが、他の国際協力機関と比較しても、JICAらしい特徴的な取組と言えるのではないでしょうか。よく“国創りは人創り”と言われますが、やはり、あらゆる基礎となるのは一人ひとりの人材です。協力のあらゆるプロセスにおいてカウンターパートのオーナーシップを尊重し、信頼できるパートナーとして、一緒に考えながら事業を実施していくことが、JICAの大きな特徴であると言えるでしょう。
   SDGsへの貢献を目指す取り組みという意味では、ここまでお話ししてきたことの他にも、アフリカ地域における廃棄物管理の推進を目指す「アフリカのきれいな街プラットフォーム」、ガーナの児童労働廃絶につなげるための「開発途上国におけるサスティナブル・カカオ・プラットフォーム」といった、共創のためのプラットフォームを組成する試みや、金融セクターを含めた民間との連携もいくつも動きはじめています。SDGsは、その基本思想に、“バックキャスティング”(到達すべき未来の姿から逆算して、そこに至る方法・施策を考える)の考え方を採り入れていますが、我々JICAも、従来の枠組みに囚われないイノベーティブな発想によって、さまざまな新しい取り組みにトライしていかなければならないと考えています。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2030年に向けて、これからの10年をSDGs達成に向けた“行動の10年”にしていかなければならいと述べています。SDGsのターゲットである2030年に向けて、JICAはどのような姿勢で事業に取り組んでいくいくのかということについて、最後にお聞きしたいと思います。

コロナのパンデミック後を見据えた“創造的復興”を目指すうえでは、今こそ日本/JICAが国際社会の中で存在感を発揮し、“頼られるJICA”として、世界からより求められる存在になっていかなければならないと考えています。今、世界では覇権主義の拡がりや民主主義の後退により、自由、民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった普遍的価値が脅かされている状況があります。民主主義国家の代表としてJICAは、我々が理念として掲げる人間の安全保障の実現や質の高い成長にも努めながら、さまざまな地球規模課題への貢献にも取り組んでいかなければなりません。そうした観点で考えると、SDGsというのは現在、これらを多様なパートナーと共に力強く進めていくうえでの共通言語、コミュニケーションワードにもなっている。SDGsを起点にすることで、JICAが世界中のさまざまなアクターをつなぎ、共創を実現していくことによって、より革新的・創造的な事業を実現していくことが、これからの10年において我々がチャレンジしていくべきことだろうと考えています。
    JICAのあらゆる取組や事業は、SDGs達成に直結しています。社会課題に挑むソリューション・プロバイダーとして、JICAは世界の中で活動しているわけですが、今後はさらにさまざまなパートナーとの共創関係を構築し、より大きな開発効果のインパクト発現にむけて主導的役割を担っていく、“アジェンダ・セッター”としてのプレゼンスを築いていく必要があるのではないでしょうか。そして、何事にも情熱と挑戦する気持ちを持って“共鳴”を引き起こし、“社会変革のタネを蒔いていく”存在となっていくこと……それが、将来においてJICAが目指すべき方向ではないかと、私は考えています。

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