ex 建設コンサルタント

自らの専門性をより俯瞰的に
捉えることで拓かれる、
新しいキャリア

川辺 了一Ryoichi KAWABE
社会基盤部
都市・地域開発グループ 第1チーム
2002年 理工学研究科修了/2009年 JICA入構

キャリアの沿革

2002年、大学院修了後、日本国内の公共事業、ODA事業等を手掛ける大手建設コンサルタントに就職。最初4年間は、主に九州エリアにおける橋梁の設計業務等に従事し、2006年以降ODA事業を担当する。2009年にJICAへ転職し、経済基盤開発部運輸交通・情報通信グループに配属。2013年から3年間はウガンダ事務所駐在となり、さまざまなインフラプロジェクトの形成に携わる。2016年以降は社会基盤部都市・地域開発グループに所属し、ミャンマー、インドネシア、ラオス、ケニア、モザンビークといった地域における都市の全体計画/マスタープラン作り等を担当している。

“インフラの持つ意義”を踏まえた仕事に 携わるために

大学・大学院では土木工学を学びましたが、学生時代の私は正直に言って、将来の明確な目標が見つけられないまま漫然と過ごしていました。そんな時、ローマ・カトリック教会からボリビアに派遣され、布教の傍ら孤児のための学校や宿舎を造って教育を行っている日本人の神父さんを知人から紹介され、現地までお会いしに行ったことがあります。その教会に2週間ほど寝泊まりして、さまざまな活動をお手伝いしたのですが、大きな貧富の差を前にしてご自身の専門性をもって人の役に立つ、開発途上国に貢献できる仕事は素晴らしいなと、その時心から感じました。そして、自分自身がこれまで学んで来たことを活かして、こうした仕事に携わるためにはどういう選択肢があるのか? そのように考えて辿り着いたのが、最初の就職先である建設コンサルタントでした。この会社は、主に国内の公共工事やODA事業の調査・設計を手掛けている会社で、とりわけ橋梁の設計に実績を有していました。ここでODA事業に携わり、途上国の開発に貢献したい……それが、最初の就職の動機でした。

就職して4年間ほどは国内事業を担当しましたが、社長に直談判するなどの熱意が実り、2006年からは晴れてODAの担当となることができました。そして、仕事のクライアントとなるのは“発注者”であるJICA職員の方々でした。当時手掛けた仕事の中で今でも鮮烈に記憶しているのが、カンボジアの国道一号線に架かるネアックルン橋(つばさ橋)建設のための調査を行った時のこと。この国道一号線はメコン河によって貫かれており、橋の建設以前、渡河手段はフェリーに頼っていました。我々が現場で作業をしていると、何をしているんだといって現地の方が近寄ってくる。「橋を造るための調査をしているんです」という話をすると、「体の悪い家族を川向こうの病院に連れて行くのに、フェリーだと数時間かかってしまう。橋ができるのは素晴らしい」と顔を輝かせるんですね。建設コンサルタントの仕事をしているとどうしても、“インフラ整備”そのものに目が行ってしまうところがありますが、人々の生活が便利になる、豊かになる、そうした“インフラの持つ意義”をしっかり踏まえたうえで仕事をしたい……その時にはっきりとそう感じました。そのためには、もっと政策の上流部分、即ち、JICAが手掛けているような仕事に携わるべきではないかと考えるようになったことが、直接的な転職の動機だったと思います。また、我々“受注者”にも常に敬意を持って接してくれるJICA職員の人柄や、そこから垣間見えるJICAのオープンで自由な組織文化も、非常に魅力的に映りました。

専門性を起点として、
より高い視点を獲得する

JICAに入構して最初に配属となったのは、経済基盤開発部運輸交通・情報通信グループ(現在の社会基盤部運輸交通グループ)。主に道路、橋梁といった交通インフラ整備のための調査等を手掛ける部門ですが、ここは、コンサルタント時代の“発注先”でもありました。2ヶ月前までクライアントだった方たちと席を並べることになったわけですが、想像していた通り皆さん本当にフランクで、「ようこそJICAへ」と受け入れていただきました。またエンジニアの世界では、皆が高い専門性を有し、それぞれの専門分野の中でしのぎを削るような文化が根強かったのに対し、JICAではお互いの経験・知見を共有し、組織として成果の最大化を目指すといった価値観が浸透しているように思います。そして、職員全員が途上国開発への熱い想いを持っている……従って、途上国開発に対する情熱を持っている方にとっては、とても働きやすい組織文化だと感じています。

加えて、発信力や影響力が大きいという点も、JICAの大きな魅力であると思います。例えば、ウガンダ駐在時代、首都、カンパラの交通渋滞解消に取り組みましたが、驚いたのは、先方政府が都市開発に関する全体像を持たないまま、各援助機関がそれぞれベストであると考える提案を行っていることでした。そこで私は、都市のマスタープランをしっかりと作ったうえで、先方政府、及び各援助機関はそれに基づいた取り組みをしていくべきではないか、という発信を多くの会議で行いました。結果的に私の提案は受け入れられ、現在では、各援助機関の都市開発セクター担当者が定例ミーティングを持つところまで発展しています。この時の経験からマスタープランの重要性を痛感し、JICAの中でインフラ/都市開発分野のマスタープラン作りを担う現部署への異動を希望することにつながりました。また、現部署でも、ジャカルタをはじめとする途上国の都市における交通渋滞解消に取り組んでいますが、マスタープランの策定やMRT(都市高速鉄道)等のインフラ面で協力するだけでなく、市民に公共交通を活用してもらうにはモビリティマネジメント(※注)の考え方を導入すべきではないか、と同僚と提案しました。そして、有識者やコンサルタントの皆さんと検討を重ねて、『モビリティ・マネジメントハンドブック』を作成し、今後、多くのプロジェクトで活用することを目指しているところです。このように、自身のアイデアを基に幅広い関係者を巻き込んで、よりよい社会をつくっていく……私にとってJICAの仕事の大きな魅力は、こうしたところにあります。

これまでお話ししてきた通り、私は橋梁という専門性を背景としてJICAでのキャリアをスタートしたわけですが、JICAは事業領域が幅広い組織ですから、自身の専門性に固執し過ぎると逆にもったいのではないかと今は考えています。専門性はもちろん大切ですが、それを軸にしてさらに横に拡げていくスタンスを持てれば、より充実したキャリアを築いていくことができるのではないでしょうか。私自身のこれから、という意味では、より高い視点に立った、アジェンダを発信できるような人材を目指していきたい、ということを考えています。JICA・日本を代表して、都市交通、交通インフラに関する開発潮流を世界に発信していく存在……まだまだ学ぶべきことは多いですが、そうした能力を獲得していくことが、自分自身にとっての現在のテーマです。

※注:モビリティマネジメントとは、「過度に自動車に頼る状態」から、「公共交通や徒歩などを含めた多様な交通手段を適度に利用する状態」へと少しずつ変えていく一連の取り組み。例えば、公共交通のメリットを広告や学校教育といったさまざまな形で市民に伝えるといったソフト面のアプローチ。

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