イノベーションを生み出す仕組みを構想する
JICA Innovation Quest、略して“ジャイクエ”は、2018年度に第1回目が実施された、JICA内部の新規事業アイデア公募から誕生した事業。発案したのは、当時入構3年目だった若手有志5名である。ジャイクエは、広く一般から参加者を募り、オープンイノベーション(※注1)のスタイルで、世界が直面する課題に対する解を見出すことを目指すもので、JICAにとっても全く新しい事業創出の仕組みであると言えるだろう。「共創から生まれる新しい国際協力」……これはジャイクエに冠されたコンセプトフレーズだが、高度化・複雑化する社会課題に対処していくためには、官民問わずさまざまな分野で活躍する人々の力を結集する必要があるのではないか? そして、これまで国際協力に関わりを持ってこなかった人々も含め、多様な人材が出会い、共に考える場を創ることで、新しい国際協力、課題解決のアイデアを生み出していきたい……こうした、若手職員の真摯な問題意識から生まれたのが、この“新規事業”、ジャイクエなのだ。
「これまでのJICAにおけるイノベーティブな取り組みというのは、元々能力のある人が新しいものが求められたタイミングでそのポジションにいたとか、期せずしてある人とある人が出会ったとか、さまざまな偶然が積み重なった結果生まれたものだったように思います。逆に言えば、組織として意識的に、イノベーションを生み出そうとする仕組みは無かったのではないかと。立ち上げメンバーの中にも色々な思いがあり、力点の置き方もさまざまなのですが、私自身がジャイクエを企画する過程で考えていたのは、オープンイノベーションのための仕組み、場を作りたいということ。イノベーションというのは偶然から生まれるものかもしれませんが、他者と出会い、そうした偶然を意識的に起こす場所、プラットフォームをJICAという組織の中に作っていきたい、ということでした」

このように語るのは、ジャイクエ企画メンバーの一人、山江海邦。山江は2016年にJICAに入構し、人間開発部保健第一グループに配属以降、保健医療分野を軸にしたキャリアを重ねながら、同期と共にジャイクエを発案。現在は、アフリカ部計画・TICAD推進課と兼務する形で、ジャイクエ運営の中核スタッフとして活躍している。
「ジャイクエの始まりは、入構3年目の研修で同期が久々に集まって、JICAの現状に関する問題意識を交換し合ったことでした。ちょうど同時期に機構内の新規事業アイデア公募の話が出てきて、同期の中の一人が全員に、これに応募しよう、というメールを出したんですね。それに手を挙げ集まったのが我々5人だった。その時に私が手を挙げた理由は、普段の業務が、1を10にするような仕事が中心であった、ということ。一つひとつの事業を動かす中で、制度を改善したり工夫を加えたりすることはできていましたが、0から1を作ることはできていないのではないか?シンプルに同期と0から事業を作るのは面白そうだというのもありましたが、在外事務所勤務になる前にその経験を積むことで、よりよい事業を作る、国際協力のプロとして自身の成長機会にもなるのではないか、と考えていました。そうした思いも共有しながら、5人で新しいJICAを作るためにやりたいこと、できていないことなどを議論し、アイデアを考え始めたのが、ジャイクエのスタートでした」
※注1:一般的に言われるオープンイノベーションとは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体といった、異業種・異分野が持つ技術や知見を組み合わせることで、革新的な製品開発、研究成果等を得ることを目指すイノベーションの方法論を意味する。