地方自治体への出向…その現場へ
池袋駅から西武秩父線特急に乗車ししばらくすると、列車は次第に山間部にさしかかり、都心の雑踏が線路の後方に消え去る。秩父山系の麓をたどりながら、およそ70分で到着するおだやかで暖かな佇まいを持った町、それが、埼玉県秩父郡横瀬町である。今回紹介するJICA職員は、この横瀬町役場に出向し、まさに役場の一員として、地方行政の先端を担っている。読者の皆さんの多くは、国際協力を基本業務とするJICA職員が何故? と思われるのではないだろうか。そして、その“?”こそが、本稿のテーマなのだ。
「横瀬町役場には2019年8月に着任しましたが、その直前までトルコ、アンカラに駐在していました。大学では建築を専攻したこともあり、JICA入構以降は防災を軸にさまざまな仕事に携わってきましたが、トルコ駐在中に漠然とですが、今までとは全く違う仕事をやってみたいと考えるようになりました。また、トルコでいろいろな場所を訪ねながら仕事をするうちに、大都市と地方の格差について考えるようになったり、各地域がはぐくんできた文化、人の面白さ等に感銘を受け、日本に帰るのであれば、東京以外の場所で仕事をしたいという思いが強まっていったのです。そうした時に地方自治体出向というポストがあることを知って、自ら手を挙げたというのが、横瀬に来ることになった経緯ですね。日本の中で、JICAとは異なる全く別の組織に身を置き、全く別の仕事をするのは面白そうだなと」
このように快活に語り始めるのは、現在横瀬町役場まち経営課に籍を置く勝間田幸太。2012年にJICAに入構し、本人の話の通り、防災分野や国際緊急援助隊関連の業務経験を経て、2016年から3年間はトルコに駐在している。勝間田は、開発途上国の現場で仕事に携わるなかで、日本の地域が抱える課題に関心を持つようになったと言うが、こうした視点・姿勢はそのまま、何故JICAが、地方創生/地域活性化を“もう一つの事業ドメイン”として重視しているのか、その理由にもつながっていくもののように思われる。
JICAから出向し、横瀬町役場まち経営課に勤務する勝間田幸太。
「横瀬町が抱える課題のうち最大のものは、やはり人口減少でしょう。現在町の人口は約8100人ですが、このまま放っておけば2040年には5000人、2060年には2600人くらいまで減ってしまうと予測されています。こうした流れを食い止め町を活性化していくためには、人や経済の循環を生み出す施策を打っていく必要がありますが、横瀬町がユニークなのは、外部の力をうまく利用してそれを実現しようとしているところ。“よこらぼ”という取り組みが象徴的なのですが、これは、企業や団体、個人といった広く一般からアイデアを募って、新規事業や実証実験等のフィールドとして横瀬町を活用してもらおうというもので、2016年のスタート以降既に80件以上のプロジェクトが実際に動いていますし、メディアでもしばしば取りあげられています。そうした意味では、JICAから人を受け入れるというのも、外部の力を活かしてという流れの中にあるものだと考えることもできるでしょう。横瀬町に着任して以降の私の最大の仕事は、2027年度までを射程に入れた町の戦略、ビジョンを示す『第6次横瀬町総合振興計画』をまとめ上げることでしたが、町長、副町長と密にコミュニケーションを図り、また、町民や、さまざまな関係部署、関係者との調整を重ねて、2020年3月にようやく町議会で承認を得ることができました。現在は、そこで掲げられたさまざまな目標を実行に移していくステージに入っているところですね」