Frontline

未来のJICA、その形

Feature 06[外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献]

日本における外国人材との
真の“共生社会”を実現し、
開発途上国の更なる発展に
貢献していくために。

香川県の農業生産現場で働く、ラオスからの技能自習生。

2019年の改正入管法の施行によって、
日本は外国人材をより広く受け入れる方向に大きく舵を切ったが、
その一方、日本国内で外国人材が置かれた現状にはさまざまな問題がある。
そうした課題を解決していくために、
開発途上国の文化・人を良く知るJICAだからこそできることがある……
そうした視点から生まれた事業を、ここで紹介してみよう。

外国人労働者にとって、日本が“選ばれる国”となるために

少子高齢化の進展による労働力の不足は、日本の未来に影を落とす最も大きな課題の一つであると言えるだろう。1980年に“1:7.4”だった、“老年人口(65歳以上):生産年齢人口(15〜64歳)”の比率は、2015年段階で“1:2.3”となっており、経済活動を担う生産年齢人口の比率が急激に縮小していることがわかる。この状況を放置すれば、経済・社会の活力が徐々に損なわれていくことは明らかだが、問題の根幹にある少子高齢化は極めて複雑・多様な要因に根差しており、それ自体を短期的に改善することはなかなか難しい。そこで着目されるのが、外国人材に広く門戸を開き、産業・経済の現場を支える力となってもらおうという視点。2019年4月に施行された“出入国管理及び難民認定法(通称=入管法)”改正は、まさにこうした視点に基づくものだと言えるだろう。この改正によって、新たに“特定技能”という在留資格が認められることとなり、2019年以降5年間で、約35万人の外国人労働者を受け入れるという日本政府としての方針も示された。
一方、厚生労働省の統計によれば、2020年時点において日本で働く外国人労働者の5割以上が、ベトナム、フィリピン、ブラジル、ネパールといった開発途上国の出身者で占められており、ここに、日本において途上国を最も良く知るJICAが協力していく機運が生まれたことは、必然的なものだったと言えるだろう。JICAにストックされた途上国に関する深い理解、知見、そして、JICA海外協力隊も含む、途上国の文化・人を良く知る人材のネットワーク……これらを活かして、一時的にコロナ禍で入国が制限されているものの、今後は更に拡大していくことが想定される外国人労働者の受け入れをより円滑なものにし、“共生社会”としての日本の未来に貢献していくこと……それが、ここで紹介する「外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業」である。

「先ずマクロ的なところから見ると、日本で働く外国人労働者の数は、2008年に48万6千人だったのが、2020年には172万人を超えるまでに拡大しています。またグローバルな状況としては、民間企業による開発途上国への直接投資(FDI)がODAを超えてから既に久しいのですが、昨今では、外国人労働者の自国への送金額は、このFDIすら上回っているという現状がある。これはつまり、途上国の開発という観点で見ても、海外に出て働く“外国人労働者”の貢献は非常に大きいということなんですね。ですから、我々が今取り組んでいる“外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業”は、日本社会に貢献しつつ、外国人労働者の受入れをより適正かつ効果的に行うことによって、その先にある、途上国の開発にも貢献していく事業だと言えるのではないかと思います。

国内事業部 次長 兼 外国人材受入支援室 室長/奥村真紀子

国内事業部 次長 兼 外国人材受入支援室 室長/奥村真紀子。

国内事業部 外国人材受入支援室/江場日菜子

国内事業部 外国人材受入支援室/江場日菜子。

日本において外国人労働者が増えていく過程では、メディアでさまざまに話題になった“技能実習生”を巡る問題等、課題も生じている一方、適正な受入れを行っている事業者が多いことはあまり知られていません。JICAが共同事務局の一角を担い、民間企業、自治体、NPO、学識者等の参加により設立された“責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)”は、こうした面にも光を当てつつ、外国人労働者の方々の労働環境・生活環境の改善に取り組み、関係者の間に“ビジネスと人権”の考え方を浸透させていくことを目指しています。またJP-MIRAIでは、外国人労働者の方々への情報提供や、救済等の役割も持った相談窓口の開設など、今後さらに機能を拡充させようとしています。こうした活動を含め、外国人労働者の方々にとって、日本がしっかりと“選ばれる国”になる……それが、JP-MIRAIが目指していることです」

このように解説してくれるのは、国内事業部外国人材受入支援室の室長を務める奥村真紀子。奥村は、2000年にJICAに入構し、ヨルダン、ナイジェリアへの駐在も経験しながら、国内出張で日本の水産現場を視察したことをきっかけに、日本国内の課題にも関心を持ち続けてきたという。取材に協力してくれたもう一人の職員は、同じく外国人材受入支援室に所属する、2019年入構の江場日菜子。江場は、学生時代の活動を通じて日本の地方が抱える課題に目を見開かれ、JICA入構の時点で、国際協力と地方創生の両方に取り組みたいという希望を持っていた。

「今の部署に異動となってからまだ半年ほどですが、課題は山積みだなというのが正直な印象です。やはり最も大切なのは、外国人・日本人という区分に関わらず、これからの日本は、いろいろな分野・階層の労働者が共存して、それぞれがお互いの力を認め合い、活かし合って生きていけるような社会を作っていくことです。ですから、日本人の側も外国人に対する見方を変えていく必要がありますし、外国人の方も、日本における問題解決能力をもっと身に付けて、主体的に自らのキャリアを築いていけるようにならなければなりません。そうした、本当の意味での共生社会を日本の中に実現していくことが、我々のミッションなのではないでしょうか」

外国人材が、未来への展望を持って
次のステップに踏み出す機会を作る

日本が、外国人労働者にとっても働きやすい国となり、そして、多様なバックグラウンドを持った人々がお互いの価値を認め合いながら共存する、“共生社会”を実現していく……それは、現代の日本にとって最も重要なテーマの一つであることが、奥村と江場の話からよくわかるだろう。それでは、この「外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業」の中から、具体的にどのような取り組みが生まれているのか?先ず、江場の方から紹介してもらおう。

「これは、私の方で企画してパイロット事業として実施したものですが、技能実習制度の枠組みの中で来日し、不幸にして困難な状況に置かれることになってしまったベトナム人の方たちを対象にした“能力開発研修”というものを、2021年の7月〜9月に実施しました。これは、何故彼らが問題に直面することになったのか、その理由を抽出して分析し、改善に向けてどんなことができるのかを検討するというのが目的の一つであり、彼らに、技能実習の先にある自身のキャリア、将来といったものを考えるきっかけにしてもらいたいというのが、私自身の思いでもありました。
技能実習制度は、来日して以降転職が難しいとか、さまざまな制約があるのですが、やはり我々としては、せっかく日本に来ていただいたわけですから、未来への展望を持って次のステップに踏み出していただきたい。自国に帰ってからどんなことができるのか、或いは、日本で次のキャリアを考える時にどのような可能性があるのか……開発途上国においてさまざま事業を展開し、各国の産業・経済の状況等を熟知しているJICAだからこそ、彼らの役に立つことができるはずだと私は考えています。このパイロット事業から得られた成果を発展させて、さらに次の事業に展開していければと考えています」

ベトナム人技能実習生を対象とした能力開発研修の模様。

ベトナム人技能実習生を対象とした能力開発研修の模様。

「これも江場の話と同じくベトナムに関する事例ですが、JAと協力して現地の農業大学に専門家を派遣し、大学の中に日本の農業や日本語について学べるカリキュラムを用意してもらいながら、現地の人材と彼らが来日してから働く生産現場の“マッチング”を図るという事業を、2021年の9月からスタートさせています。例えば、日本のリンゴ栽培農家で働いて、帰国した後に稲作に携わるのでは、日本で学んだことを活かすことはなかなかできません。これまで技能実習制度によって来日し、農業現場に派遣されるケースでは、こうしたミスマッチが結構起こっていたんですね。そうした事態を無くすために、日本の生産現場を熟知した人材にベトナムの農業大学に行ってもらって、しっかりと人材の見極め……彼らがどういう能力・技術を獲得したいと考えているのか、それに相応しい日本の生産現場はどこか……を行ったうえで来日していただくということですね。
こうした発想の事業としては、我々が“香川・ラオスモデル”と呼んでいる、香川の監理団体が、実習生が帰国した後に、彼らのラオスでの農業をサポートする農業生産法人を設立したという事例などもあります。これは、実習生が帰国した後に、香川の監理団体の方が現地を訪問してみると、なかなか仕事がうまく行っておらず、所得向上にもつながっていなかった、というところからスタートした取り組みでした。これによって、母国に帰ってからも日本で身につけた技術を生かす場があることがラオス・シェンクワン県の農民の若者たちに知られるようになり、"日本で学んだ技術を持ち帰りラオスで農業をしたい"と考える方が増えたことから、同県では技能実習への応募も増加しています。また、香川県はニンニクの生産が盛んなのですが、それまでニンニクの種子は中国からの輸入に全面的に頼っていたのが、この取り組みの中でラオスでも良質な種子を生産できることがわかり、帰国した実習生等の力も借りながら新たな輸入先を確保することにもつながるという、香川県にとっての大きな収穫も生まれる構想です。このケースなどは、外国人材との繋がりと信頼が地方創生ともリンクしていく、モデルでもあると言えるのではないでしょうか」(奥村)

香川県の農業生産現場。ラオスからの技能自習生がオクラを包装している

香川県の農業生産現場。ラオスからの技能自習生がオクラを包装している。

共生社会を実現することで、
日本の地域を世界に向けて開いていく“窓”を作る

奥村真紀子 江場日菜子

JICAは、60年以上にわたる日本のODAの歩に伴走しながら、日本を世界に開いていく“窓”としての役割を担い続けてきた。“信頼で世界をつなぐ”というJICAのビジョンは、自らの歴史の中での達成を踏まえながら、未来に向けて目指していく目標を、改めて明文化したものだと言えるだろう。「外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業」は、広く“共生社会”を実現することによって、生活・地域に密着した、世界に開かれた“窓”を作り、外国人材に確かな果実を母国に持ち帰ってもらうことによって、途上国の未来にも貢献していく……そうした事業であることが、奥村と江場の話から見えてくるのはないだろうか。

「外国人というと、日本社会の中ではちょっと特殊な人という見方をされてしまうこともあると思いますが、双方の橋渡しをするような役割を、途上国の文化や人を熟知しているJICAが担っていかなければならないと考えています。JICAのネットワークの中には、協力隊の隊員のように、自身が海外で“マイノリティ”として扱われた経験を持っている人たちもいますし、そうした経験というのは、日本社会の外国人に対する見方を変えていくうえで、大きな力となるはずです。外国人と日本人を区別せず、同じ“人間”として捉える文化を日本社会の中に定着させることが、現在の私の目標です」(江場)

「協力隊の隊員に関しては、地方自治体との連携の中で、異文化理解を始めとするさまざま取り組みにおいて活躍してもらっていますが、その一つが、既に20年以上にわたって続けられている“国際協力推進員”という制度。これは、各地域におけるJICAの窓口として、現在は 47都道府県に1名以上が配置されていますが、この仕組みを拡充して、外国人材との共生に特化した推進員を置くという取り組みも進めています。江場の話の通り、協力隊の経験者は、マイノリティとしての立場も理解していますし、途上国の文化にも精通している。そのうえで、外国人労働者が数多く暮らす地域の課題をしっかりとすくい上げて、外国人材が地域にうまく溶け込んで暮らしていくためには何が必要なのかを考えていってもらうということですね。
協力隊の隊員に関しても言えることですが、途上国で蓄積した経験があるからこそ、逆に日本の課題が見えてくるということは間違いなくあると思っています。そうした経験を活かして、日本の課題にもしっかりと貢献できるJICAになっていく……今、私が考えているのはそうしたことですね」(奥村)

労働力を確保するという経済的目的と同等に、外国人との本当の意味での“共生社会”を実現していくことは、これからの日本にとって極めて重要なテーマであるだろう。そうした意味で「外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業」は、従来の国際協力とはまた別の角度から、“信頼で世界をつなぐ”ことにアプローチしている取り組みであると言えるのではないだろうか。

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