外国人労働者にとって、
日本が“選ばれる国”となるために
少子高齢化の進展による労働力の不足は、日本の未来に影を落とす最も大きな課題の一つであると言えるだろう。1980年に“1:7.4”だった、“老年人口(65歳以上):生産年齢人口(15〜64歳)”の比率は、2015年段階で“1:2.3”となっており、経済活動を担う生産年齢人口の比率が急激に縮小していることがわかる。この状況を放置すれば、経済・社会の活力が徐々に損なわれていくことは明らかだが、問題の根幹にある少子高齢化は極めて複雑・多様な要因に根差しており、それ自体を短期的に改善することはなかなか難しい。そこで着目されるのが、外国人材に広く門戸を開き、産業・経済の現場を支える力となってもらおうという視点。2019年4月に施行された“出入国管理及び難民認定法(通称=入管法)”改正は、まさにこうした視点に基づくものだと言えるだろう。この改正によって、新たに“特定技能”という在留資格が認められることとなり、2019年以降5年間で、約35万人の外国人労働者を受け入れるという日本政府としての方針も示された。
一方、厚生労働省の統計によれば、2020年時点において日本で働く外国人労働者の5割以上が、ベトナム、フィリピン、ブラジル、ネパールといった開発途上国の出身者で占められており、ここに、日本において途上国を最も良く知るJICAが協力していく機運が生まれたことは、必然的なものだったと言えるだろう。JICAにストックされた途上国に関する深い理解、知見、そして、JICA海外協力隊も含む、途上国の文化・人を良く知る人材のネットワーク……これらを活かして、一時的にコロナ禍で入国が制限されているものの、今後は更に拡大していくことが想定される外国人労働者の受け入れをより円滑なものにし、“共生社会”としての日本の未来に貢献していくこと……それが、ここで紹介する「外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業」である。
「先ずマクロ的なところから見ると、日本で働く外国人労働者の数は、2008年に48万6千人だったのが、2020年には172万人を超えるまでに拡大しています。またグローバルな状況としては、民間企業による開発途上国への直接投資(FDI)がODAを超えてから既に久しいのですが、昨今では、外国人労働者の自国への送金額は、このFDIすら上回っているという現状がある。これはつまり、途上国の開発という観点で見ても、海外に出て働く“外国人労働者”の貢献は非常に大きいということなんですね。ですから、我々が今取り組んでいる“外国人材受入れ・多文化共生社会構築への貢献事業”は、日本社会に貢献しつつ、外国人労働者の受入れをより適正かつ効果的に行うことによって、その先にある、途上国の開発にも貢献していく事業だと言えるのではないかと思います。

日本において外国人労働者が増えていく過程では、メディアでさまざまに話題になった“技能実習生”を巡る問題等、課題も生じている一方、適正な受入れを行っている事業者が多いことはあまり知られていません。JICAが共同事務局の一角を担い、民間企業、自治体、NPO、学識者等の参加により設立された“責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)”は、こうした面にも光を当てつつ、外国人労働者の方々の労働環境・生活環境の改善に取り組み、関係者の間に“ビジネスと人権”の考え方を浸透させていくことを目指しています。またJP-MIRAIでは、外国人労働者の方々への情報提供や、救済等の役割も持った相談窓口の開設など、今後さらに機能を拡充させようとしています。こうした活動を含め、外国人労働者の方々にとって、日本がしっかりと“選ばれる国”になる……それが、JP-MIRAIが目指していることです」
このように解説してくれるのは、国内事業部外国人材受入支援室の室長を務める奥村真紀子。奥村は、2000年にJICAに入構し、ヨルダン、ナイジェリアへの駐在も経験しながら、国内出張で日本の水産現場を視察したことをきっかけに、日本国内の課題にも関心を持ち続けてきたという。取材に協力してくれたもう一人の職員は、同じく外国人材受入支援室に所属する、2019年入構の江場日菜子。江場は、学生時代の活動を通じて日本の地方が抱える課題に目を見開かれ、JICA入構の時点で、国際協力と地方創生の両方に取り組みたいという希望を持っていた。
「今の部署に異動となってからまだ半年ほどですが、課題は山積みだなというのが正直な印象です。やはり最も大切なのは、外国人・日本人という区分に関わらず、これからの日本は、いろいろな分野・階層の労働者が共存して、それぞれがお互いの力を認め合い、活かし合って生きていけるような社会を作っていくことです。ですから、日本人の側も外国人に対する見方を変えていく必要がありますし、外国人の方も、日本における問題解決能力をもっと身に付けて、主体的に自らのキャリアを築いていけるようにならなければなりません。そうした、本当の意味での共生社会を日本の中に実現していくことが、我々のミッションなのではないでしょうか」
