“特活”から“Tokkatsu”へ
岩崎 理恵
“Tokkatsu”をエジプトに導入する過程では、国立教育政策研究所で特別活動の調査・研究活動に携わっていた日本人有識者等にも協力を仰ぎ、2015年から先ず二つの公立小学校で学級会活動などのパイロット事業を開始。それを徐々に拡大する形で、エジプトにおける“Tokkatsu”実践の方法論をブラッシュアップし、実績を積み重ねていった。当初は、冒頭の松崎の発言の通り、「うちの子どもに清掃をさせるなんて」といった保護者からのクレームも寄せられたようだが、自ら進んで掃除をし、親のゴミのポイ捨てを注意する子どもも出てくるなど、現実の変化がプロジェクトの進捗を後押ししていくことになる。松崎と同じく人間開発部基礎教育グループに所属し、2019年以来本プロジェクトに参加した岩崎理恵は言う、
「EJEPは日本式教育の導入を支援するプロジェクトですから、教育省行政官や現場を担う教員といったエジプト側カウンターパートの方たちに、先ず日本の教育の特長を理解していただくことがとても重要になります。そのうえで、教育はやはり、その国の歴史、文化、社会的背景のうえに築かれるものですから、日本のものをそのままエジプトにコピーするのではなく、日本式教育の本質、理念を踏まえたうえで、エジプトの文化・社会に適した内容に変えていく必要がある。そうした意味では、エジプトの文脈で、アラビア語で“Tokkatsu”を語ることができる人材を一人でも多く育成していくことは、プロジェクトのスタート当初から現在まで、大きなテーマであると思います」
王冠風の帽子をかぶった日直当番。プリントの配布や照明のオン・オフなどの仕事を担当する。
こうして、二国間パートナーシップの締結後ほどなくしてパイロット事業はスタートしたが、エジプトにとってこのプロジェクトは大統領肝いりのフラグシップ案件。松崎らカイロで企画立案・調整に当たるJICAスタッフのカウンターパートとなるのも、大統領補佐官を筆頭に極めてハイレベルな顔ぶれがズラリと並ぶ。先方からは困難な要望が次々に突きつけられ、早く目に見える形の成果を出したいというプレッシャーも日に日に強まっていく。また2018年中には、モデル校となる「エジプト日本学校」35校を一気に開校させるという大事業も進んでいた。現場担当者の苦労、心労たるやどれほどのものか、察するに余りある。
「大統領からは最初、100校一気に新設したいというご要望があったのですが、さすがにそれは厳しいと。大統領補佐官をはじめ元高等教育大臣や政府の高官ともさまざまな交渉を行いましたが、日本の協力内容を検討する際に、例えば日本側の想定をはるかに超える要望(留学生の受入人数など)がエジプト側から提示された際の、彼らの厳しい視線は今でも忘れられません。このときは、先方の要望や意図などを十分考慮しながら、日本側のさまざまな関係者と調整を重ねて、最終的にエジプト側にも納得してもらえる形で交渉を成立させた。しかしこうした局面というのは、困難な課題と対峙しながら粘り強く交渉を重ね、国家の未来につながる合意案をまとめ上げていくという、JICA職員にとって最も仕事の醍醐味を感じられるものであることも間違いありません。苦労が多い分、それに比例して喜びも非常に大きいです」(松崎)
こうして2018年9月、「エジプト日本学校」35校がエジプト主要都市に開校。以降毎年3〜4校ずつ順調に新設され、現在では51校にまで至っている。ここからプロジェクトは、また次の段階を目指して、新たな展開を見せていくことになる。
EJS中最大規模を持つ、カイロ、ハダエックオクトーバー校。幼稚園から高校3年生までが学べる教室数がある。