Frontline

世界の課題の前線へ

Story 05保健医療分野の課題解決に取り組む企業に対する“インパクト投資”

ブラジルの低中所得層に、
パブリックセクターを補完する
医療を届ける……
画期的な民間企業の試みを支える、
“投資家”としてのJICA。

2023年6月、JICAはサンパウロにおいて主要関係者を集め、
AIを活用した低中所得者向け医療事業を手掛けるドトル・コンスルタ社への投資を発表した。

激しい貧困・格差を内包するブラジル社会では、
低中所得層に対する基本的な医療サービスの供給もままならない状況がある。
こうした深刻な社会課題の解決を目指す企業に対して、
JICAは何ができるのか?
民間連携、海外投融資の新しい局面を切り拓き、
ブラジルの医療システムを強化していくための投資を実現した、
二人の職員の活動をレポートしてみよう。

  • 吉田直広 Naohirio YOSHIDA

    民間連携事業部 海外投融資課

    法学部卒/2010年入構

  • 岩橋立朗 Tatsuro IWAHAzSHI

    民間連携事業部 海外投融資課

    欧米第二課程スペイン語専攻卒

    /2013年入構

インパクト投資としての海外投融資を実現する

 SDGsへの関心の高まり等を背景として、企業経営や金融の世界において、昨今大きな注目を集めているのが“インパクト投資”である。“インパクト投資”は、投資収益/リターンの獲得を目指すだけでなく、ポジティブで測定可能な、社会的・環境的インパクトを生み出すことを中核的なテーマとしており、通常の投資がリスクとリターンという2つの軸によって価値評価が行われるのに対し、そこに、インパクトの創出という第3の評価軸が加わった投資と考えることができる。近年、インパクト投資の市場規模は急速に拡大しており、2022年の世界における投資総額は1兆1,640億ドルに達すると推計されている(GIIN)。こうした資金は即ち、さまざまな分野で社会課題に挑む企業/スタートアップ等に供給され、その発展を促していくものだ。

 読者の皆さんもご存知の通り、JICAは年間1兆円を超える資金を開発協力に投入している、世界有数の開発金融機関でもある。金融機関としてJICAを見た時、そこで展開されている有償資金協力のファイナンススキームは円借款と海外投融資の二つ。このうち円借款は、基本的に途上国政府を対象として、低金利、長期返済という緩やかな条件で資金を融資するもの。対して海外投融資は、途上国において社会課題の解決に資する事業を手掛ける企業に融資または出資を行うという手法で、インパクト投資を包含するものであると言える。そのポイントはもちろん、民間企業をダイレクトに支援対象にし得るということだ。

「私は、2021年3月に現部署に異動となり中南米チームのリーダーになりましたが、着任以来、自分のチームでインパクトに着目した投資を手掛けたいと考えていました。入構以来10年以上経ちますが、この間に国際協力をめぐる環境は急速に変化してきていて、民間の方々がどんどんプレイヤーとして参加している状況が生まれています。これは、JICAが従来から手掛けてきた“対政府”の支援から文脈が変わってきていて、JICAが数あるプレイヤーの一つとしてその力を試され、事業に参画することに意義がなければ参加できないという環境になってきているということ。海外投融資は、こうした環境の中で、自ら積極的に事業に参加していくための最も有効なツールであると私は信じています。そして、途上国において開発面で意義が多い事業を展開している企業を探してきて、民間金融機関ではリスクが取れない長期資金を融資したり、ペイシェントキャピタル(patient capital)として投資を実行できるのは、少なくとも日本においては我々JICAしかいない。私が海外投融資の可能性に大きな期待を寄せているのは、まさにこの点によるのです」

吉田直広

吉田直広

 このように語るのは、民間連携事業部海外投融資課で中南米チームを統括する吉田直広。吉田は入構以来、東南アジア・大洋州部、ベトナム事務所勤務等を経て、2018年からは財務部に籍を置いてJICA全体の財務企画、資金調達計画、ALM(Asset Liability Management:資産と負債の総合管理)等を担当。金融分野において多面的なキャリアを形成してきた。吉田の話に登場した“ペイシェントキャピタル”とは、インパクト投資等において重要な役割を担う、投資回収期間を緩やかに設定したり、ハイリターンを前提にしない、“寛容な資本/忍耐強い資本”を意味する用語だ。もう一人、今回話を聞かせてもらったのは、同じく民間連携事業部海外投融資課で、吉田とタッグを組む岩橋立朗。岩橋は大学でスペイン語を学び、JICA入構後は、中南米・カリブ課、ペルー事務所勤務と、中南米との関わりを軸としたキャリアを歩んできた。また2022年には、フランス、INSEADに留学し、MBAを取得している。こうした岩橋の興味の軸にあるのはやはり、民間セクターによる社会課題の解決であるという。

岩橋立朗

岩橋立朗

「ペルー駐在時代、従来の公共セクター支援が行き詰っていた中で、JICAとしてペルーの社会課題の解決にどのように貢献できるかを考えた結果、行きついたのが民間セクター支援でした。関係者のインセンティブのベクトルを社会課題の解決に合わせつつ、お金が回り続ける仕組みを整えることが、従来の方法では解決できなかった課題を効率的かつ持続的に解決する手段であると考えました。ペルー事務所の中で自ら志願して民間連携総括というポストに就かせてもらいつつ、ビジネスを理解するためにまず金融を勉強しようと、証券アナリストの試験も合格しました。2018年には現在籍を置いている民間連携事業部に配属され、以来、投資の実務に5年以上関わっています。MBAの取得を目指したのは、金融の世界に浸かるようになると、社会の課題を解決する事業を見極めるためには金融以外の視点、例えば戦略、マーケティング、オペレーション、組織マネジメントといった内容についても体系的に学ぶ必要性を感じるようになったことが大きいですね。その後、さまざまなビジネスに投資家として向き合う中で、金融というものは、志を実現するための事業(アセット)を持続的に支えるための“イネーブラー(enabler)”であるという認識を持つようになりました」

 金融の力を確信し、インパクト投資の担い手としての、JICAの潜在力を開花させようと企図する“総括”と、民間セクター支援の中にこれからの国際協力の可能性見いだす“担当者”。この二人の緊密なチームワークによって実現した、海外投融資の新しい形……ブラジルの地で、パブリックの手が届かない低所得層に、優れた医療サービスを提供しようとするスタートアップ支援の現場を、ここでレポートしてみよう。

“ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ”にアプローチする
民間企業をサポートするために

 GDP世界13位、南米最大の経済規模を誇るブラジルはしかし、深刻な貧困、経済格差を内包した国でもある。一人当たり月額収入が210レアル(約5,250円)未満の比率は、2021年に総人口の10.8%に達し、2020年との比較では、1年間でおよそ720万人が貧困層に転落したとされる(FGV)。こうした苛烈な貧困、格差の存在は、犯罪の増加、環境悪化といったさまざまな問題の原因となっているが、とりわけ切実なのが医療をめぐる状況である。ブラジルには、統一保健医療システム(SUS)と呼ばれる国民皆保険制度が存在するが、同国の慢性的な財政赤字もあって、SUSが適用可能な医療機関の受入能力は非常に限られている。SUS適用病院での平均“待ち時間”は300〜400日に達し、SUSの運用はほとんど破綻状態にある。従って、国民のおよそ25%を占める“一定程度の所得を有する層”は、何らかの形で民間医療保険に加入し、SUSを介さずに医療を受けている状況がある。しかし、社会を覆う貧困・格差の中にあっては、民間医療保険には加入できず、十分な医療を享受できていない低中所得者層が1億人以上存在すると言われている。

 ドトル・コンスルタ(dr.consulta)社は、こうした制度のすき間にこぼれ落ちてしまっている低中所得層に“プライマリケア/身近な医療”を提供することを目的に、2011年にサンパウロで創業された会社である。その創業理念を象徴するように、同社が運営する最初のクリニックは、“ファベーラ”と呼ばれるスラムの中に開設された。創業者、Thomaz Srougi氏は、医師の家系に生まれ、投資銀行でキャリアを積んだ後に起業を志したが、ドトル・コンスルタの革新性は、単に医療サービスの提供というレベルを遙かに超えて、AIを活用した一種のテック企業として、低中所得層のための新しい医療インフラを構築しようとしているところにあると言える。ドトル・コンスルタは、自社が運営する29カ所のクリニックやオンラインから集められた250万人に上る患者データをAIアルゴリズムを用いて解析することにより、患者がアプリを使って診察を予約する時点から、必要となる医療プロセス、担当として相応しい医師・看護師等を予測して、効率的にアポイントメントにつなげることを実現。このシステムによって、医療費の大幅な削減と待機時間の劇的な短縮を成し遂げ、即日診療も可能という、パブリックが成し得なかった画期的な成果を生み出している。またドトル・コンスルタは、患者が1ヶ月8米ドル程度の料金を支払えば、加入者の友人や家族4人までに割引価格を提供するという、“医療のサブスクリプション・サービス”を2021からスタートさせ、2022年には、一定の保険料を支払えば無制限に医療を受けられる、低価格の医療保険サービスも開始している。

ドトル・コンスルタが運営するクリニック

ドトル・コンスルタが運営するクリニック

ドトル・コンスルタが運営するクリニック

ドトル・コンスルタが運営するクリニック

 JICAの保健医療事業における最重要テーマの一つは、“ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)”の実現。UHCとは、「全ての人が、支払い可能な経済的負担によって、質の伴った適切な医療サービスを享受できる状態」を意味する用語・概念だが、JICAのこれまでの事業は、基本的に途上国政府への協力によって、ある時はガバナンスを改善し、ある時は病院を建設することによって、UHC実現を目指すものだったと言えるだろう。翻ってドトル・コンスルタの事業を見ると、これはまぎれもなく、民間企業によるUHCへのアプローチであることがわかるだろう。ブラジル社会に大きなインパクトを生み出そうとしている極めてチャレンジングなスタートアップ企業、それがドトル・コンスルタなのだ。

吉田直広

「この案件を紹介してくれたのはIDB Investという、中南米の地域開発金融機関でした。先にもお話ししましたが、私はもとより、自分のチームでインパクトの創出に軸足を置いた投資を手掛けてみたいと考えていましたから、先ずは投資対象・投資機会を探さなければいけません。つまり、世界中の金融機関とオンラインで面談し、投資機会を紹介してもらうための“営業活動”をやるわけですね。それこそ、我々JICAはどういう組織か、というところから始めて、JICAがインベスターとして参加することでどういうメリットがあるのかをプレゼンテーションしていく。岩橋さんの着任以降、ほぼ毎日のように二人で営業を続けて、IDBから本件を紹介してもらうまでにまでに2ヶ月ほどかかったでしょうか」(吉田)
「融資と出資というのは全く性格の違うものですし、銀行と投資家、ファンドというように、プレイヤーもまったく異なっている。それまで、JICAは中南米でのプライベート・エクイティ(未公開株式)に対する直接出資の経験は全くありませんから、先ず私たちをプレイヤーとして認識してもらう必要があるわけです。吉田さんの話の通り、“Who we are?”というところから始めて毎日JICAをアピールし続け、ようやく紹介してもらえたという形でしたね」(岩橋)

 JICAは2023年8月、ドトル・コンスルタ社に対する出資契約に正式調印したが、これは岩橋の話の通り、中南米地域におけるJICA初の直接出資案件である。この投資の枠組みは、ブラジルのヘルスセクターにおいてIPOやM&Aの経験が豊富なPatriaという投資会社グループに属するKamaroopinをリード役として、先のIDB InvestとJICAの3者を中核とする協調投資という形をとっている。先の、“IDBから紹介があった”というのはつまり、IDBはこの協調投資への参加を先行して検討しており、こういう投資案件が今、組成のプロセスにあるという情報を伝えてくれたということだ。
「IDBから紹介された案件は、実は他にもいくつかあったのですが、ドトル・コンスルタの資料を見た瞬間から、中南米での第一号投資案件はこれしかないと、心に決めていました。ブラジルの社会課題に深く、適格にアプローチし、ビジネスモデルもテクノロジーも斬新で創造的。しかも、ブラジルでは良く知られた会社ですから、“インパクト投資家”としての我々の名刺代わりにもなる。今回私が投資にこだわったのは、一つはもちろん、確かな実績を作りたいというのがありますが、ただそれだけではなくて、現在のような世界的な金利上昇局面においては、投資は相対的にリスクが高くなり、資金供給が少なくなっている状況があるわけです。現在のような環境下で優れた事業を展開している企業に対して、JICAだからこそできる投資があるはずだ、ということを考えていました」(吉田)
「このようなJICAの役割をカウンター・シクリカル(counter cyclical)〜反景気循環的投資、と呼んでいます。まさに、JICAだからこそとれるリスクがあるということだと思います。吉田さんが言われたように、当時のような金利上昇局面では、一般的な投資家はリスク調整後の期待収益率が高い融資や、出資でも(未公開株式に対して)より流動性があり情報も入手しやすい上場株式への出資を選好します。しかし、社会課題の解決に真摯に取り組んでいる企業があったとして、その企業をサポートしていくために、我々にしかとれないリスクの領域があるのではないか? 今回は、そこにチャレンジしたかったということです」(岩橋)

 しかし、案件を紹介されただけで、この世界では“新参者”のJICAが簡単に協調投資に参加できるわけではない。吉田が言う、“力を試される”プロセスが、この先に待ち受けていることは言うまでもない。

ドトル・コンスルタは医療の質にもこだわっており、日本製をはじめとする高度な医療機器も導入されている

ドトル・コンスルタは医療の質にもこだわっており、日本製をはじめとする高度な医療機器も導入されている

「是非一緒にやりましょう」
……海外投融資の新しい局面の始まり

 吉田と岩橋が共に、「あれが、実質的にJICAが参加できることが決まった瞬間だった」と振り返る場面がある。2023年3月、サンパウロ、ドトル・コンスルタのヘッドクォーターで行われた審査のための会議である。この“審査”というのは、形式的にはJICAがドトル・コンスルタを審査するということだが、本質的にはそうではないと二人は口をそろええる。大会議室には、CEOを筆頭にドトル・コンスルタ経営陣20名ほどが顔をそろえ、JICA側は吉田、岩橋と、ブラジル事務所で民間連携事業を担当する職員の3名。日本、ブラジルの地理的、時差的隔たりを考えれば、双方の担当者が顔を合わせることができるタイミングはそう多くはない。このミーティングは、JICAが投資先を審査すると同等に、ドトル・コンスルタ側も、JICAとは何者なのか、自分たちの事業の出資者として迎え入れるのに相応しいパートナーなのかを見極めようとするセッションでもあったのだ。

「投資家に誰を選ぶかは、企業としても重要なことです。ミッションを共有し、付加価値を付けてくれる投資家に入ってほしいわけです。ですから、JICAブラジル事務所の担当者、斉藤さんにも全面的に協力してもらって、彼女の方で、60年にわたってJICAがブラジルにどのような協力を行ってきたか、保険医療セクターにおいて何をやってきたのか、といったプレゼンをやってもらったうえで、我々が投資家としてのJICAの金融スキームはこうです、という話に入っていった形でした。また、この投資がトリガーとなって、他の投資家にはできないJICAならではのさまざまな協力が追加で実施できるということも重要なポイントだったと思います」(岩橋)
「ただお金を出しますというだけでは、他の投資家と何も変わらないわけですから。我々が他とどのように違っていて、何ができるのかということを伝えていく必要があるわけです。例えば、各国政府とJICAは非常に強いつながりがあって、ガバナンス整備においても協力できるかもしれない、技術協力でこういうことができるかもしれない、というような……」(吉田)

岩橋立朗

 ミーティングの最後、ドトル・コンスルタCEOは、JICA側3人を見つめて「是非一緒にやりましょう」と言ったという。この瞬間、JICAがインパクト投資家としてのブラジル/中南米市場へデビューする可能性が拓けたわけだが、二人の仕事はここでは終わらない。JICA内の審査・決裁プロセスを通過させていくというもう一つの大仕事が、ここから始まるからだ。
「我々が交渉に参加した時点で、Kamaroopinを軸とした協調投資の組成は既に動き始めていましたから、タイミリミットは明確に設定されているわけです。それは、ドトル・コンスルタ側の合意が得られてから残り3ヶ月もないというタイミングでした。しかし、時間がないからといて組織内の審査プロセスを簡素化してもらうことはできません。ですから私たちは、関与するすべての人に、この素晴らしいプロジェクトを是非やらせてほしいということをアピールし、審査・決裁をスピードアップしてもらうように頼んで回りました。審査部の方には、“どうしても走り切らせてほしい”とまで言いましたね」(吉田)
「JICA内の審査・決裁のプロセスには、延べ50人くらいの人間が関わると思いますが、こうした、本当の意味での“初物”の案件、融資に比べてリスクが高く、かつ株主として経営にも関与していく出資案件を実現するうえでは、組織内で仲間を増やすというか、審査・決裁のプロセスに関与するスタッフの方々にも、この案件をよく理解し、できれば好きになってもらうことが大切だと思います。ですから、これはJICAが手掛けるべき投資案件だということを皆さんの共通認識として持ってもらえるように、細かな配慮含めてさまざまな努力を重ねました」(岩橋)

投融資検討委員会を終えた吉田と岩橋。二人が着用しているのが、ドトル・コンスルタからもらったTシャツ

投融資検討委員会を終えた吉田と岩橋。二人が着用しているのが、ドトル・コンスルタからもらったTシャツ

 JICA内の審査の最終段階は、2023年5月に行われた投融資検討委員会である。吉田と岩橋は、ここに提出する資料を、3月のドトル・コンスルタとの会議で得た内諾以降にまとめあげ、万全の態勢を整えて会議に臨んだ。この資料はつまり、投資が生み出すインパクトの大きさや財務的な可能性等を、さまざまな調査に基づいて論証するものだ。また二人は、ドトル・コンスルタからもらったそろいのTシャツを着用して会議に出席し、本件に賭ける意気込みをアピールしたという。

変革を目指す情熱を支える、果敢な投資家として

 2023年6月、ドトル・コンスルタCEO、Kamaroopin、IDB Invest等の主要関係者が一同に会し、サンパウロで協調投資へのコミットを表明するイベントが行われたが、JICAからはここに田中理事長が出席した。これは、JICAがこの投資をいかに重視し、今後もこうしたインパクト投資の担い手として積極的に活動していく姿勢を持っているということを、世界の市場関係者に強くアピールする場になったと言えるだろう。

サンパウロで開催された協調投資に関するコミットメントを表明するイベント

サンパウロで開催された協調投資に関するコミットメントを表明するイベント

 吉田と岩橋の強い思いが結実した、海外投融資の新しい形……それは間違いなく、これからのJICAにおける民間連携事業の先端モデルを示すものとして、後に続く事業の選択肢、可能性を広げていくものであるだろう。それでは、海外投融資の新たな次元を拓く確かな成果を実現した先に、吉田と岩橋は今、どのようなものを見つめているのだろうか?
「この先5年〜10年くらいのうちに実現したいと考えているのは、“JICAらしい海外投融資”の形を確立していきたいということですね。例えば、我々がある投資を行ったとして、他の市場関係者や国際機関から、“これはJICAらしいね”と言ってもらえるような、フィロソフィー(哲学)を持った投資、と言えばいいでしょうか。そうした明確なフィロソフィーが、対外的にもしっかりと認識され根付いている……そうなって初めて、我々は確かな独自性を備えた開発金融機関として、市場の中での存在感を発揮できるのではないかと考えています」(吉田)

吉田直広
岩橋立朗

「私は、海外投融資のポテンシャルを最大限に発揮させていくために、JICAの経営に関わってみたいということを考えています。人材配置やインセンティブ設計を見直すことでも、海外投融資をもっと拡大させていくことができると思いますし、例えば他のスキームとのシナジーを追求するとか、15兆円近い膨大なアセットを有効活用していく方法を検討することで、新しい協力の形を生み出していくことができると考えています。経営的な視点に立って、オールJICAを俯瞰しながら海外投融資を飛躍させるような仕事をしていきたいですね」(岩橋)

 ドトル・コンスルタとの審査ミーティングの際、吉田と岩橋は、創業者、Thomaz Srougi氏との会食の機会も得たという。二人は「ある種の狂気を内包したような、内側から溢れる情熱を感じさせる方」と、氏の印象を語るが、革新的事業を創造する源にはおそらく、社会の不条理を正し、変革を実現しようとする、たぎるような情熱があるだろう。JICAがそうした、変革を目指す情熱に寄り添う果敢な投資家として歩み始める道を、吉田と岩橋は確かに拓いたと言えるだろう。

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