自身のキャリアビジョンを描き、チャンスを引き寄せる
今回のテーマでもある「自律的なキャリア形成」について、最近、特に若い方と話していると少し考えるところがあります。例えば、自分は運輸交通の専門性を極めたいから、ひたすら運輸交通の仕事をやりたい、総務の仕事をやるのは自身のキャリアパスにおいて意義が見いだせない、というようなことを言われる方が中にはいます。しかし、JICAが手掛ける国際協力は、そんな一面的な仕事ではないと考えています。我々の仕事は、途上国の人々の人生を変えるような仕事なのだから、我々自身も、人生を賭けて取り組まなければならない。そして、JICAが取り組む課題は本当に多種多様で、だからこそそこから生まれる仕事にも、ものすごくバリエーションがあります。ローテーションの中で、偶然に出会った仕事に一生懸命、無我夢中で取り組むからこそ見えてくるものはとても多いと思いますし、仮に運輸交通の専門性を追求したいとしても、その専門性が途上国の現場で本当に力を発揮するためには、単なる“専門知識・専門能力”だけでは足りないと思います。本当に途上国の人々に求められ、彼らの人生を変え得るような協力を実現するためには、人間力を含めた多岐にわたるな能力が必要で、それは、狭い視野で捉えた“やりたいこと”だけをやっていて獲得できるものではないということを、私はJICAで15年以上仕事をする中で実感しています。そして、本当に価値ある事業を実現するために、自分にはどんな力が必要なのかを真摯に考えながら、時には組織に働きかけ、自ら機会を呼び寄せる。それが、「自律的なキャリア形成」なのではないかと私は考えます。
2022年11月に「組織内公募」に応募し、現職である社会基盤部運輸交通グループ第二チーム長に就任しました。今回は課長職が公募され、これは、現在JICAにおいて進められている人事制度改革の柱の一つ、「自律的なキャリア形成」に基づいて拡充された仕組みです。私は、大学院生だった頃にJICAの事業についていろいろ調べ、日本の国際協力の原点にあるのが戦後復興の経験であることを知りました。日本も、戦後復興から高度成長の過程では、世界銀行から資金を借り入れて高速道路や新幹線を造り、それが、急速な経済発展の原動力になりました。このようにインフラ開発は、国を発展させ、人々の豊かさを築いていくうえでとても大きなインパクトを持つ……。そう考えた私は、入構前からインフラ開発に携わりたいという希望を持っており、幸いにして入構2部署目に、当時の経済基盤開発部(現社会基盤部)に配属となりました。以来、インフラ/運輸交通セクターに関する専門性は、私のキャリアにおける一つの軸になっています。しかし、入構以来のキャリアパスを辿ると、内閣官房への出向や、自ら希望しての総務部での勤務等、必ずしも専門性の向上のみにこだわって、経験を重ねてきたわけではありません。こうしたキャリアパスを志向してきたのは、これまで出会って来たさまざまな上司の皆さんから学んだもの、そして、入構10年目で経験した、人事課長や運輸交通セクターを専門とする先輩職員によるキャリアコンサルテーションを通じて気づかされたものも大きく影響しているように思います。
上司の方々から学んだもの、それは、一つひとつの仕事を、それが自分で希望したものであるかどうかにはかかわらず精一杯やる、ということを積み重ねることで、彼・彼女の仕事力や判断力が形成されているということ。自分のキャリアを形成していくうえでは、ただ“やりたいこと”をやっていればいいのではなく、時々の“やるべきこと”に全力で、集中して取り組むことが大切なのだということでした。またキャリアコンサルテーションの際、私はマネジメントにも興味があるいう話をしたのですが、その時先輩職員が語ってくれたのは、JICAという組織は開発協力をやっているわけだから、事業を回していくうえで職員がどんなスキル・能力を持っていなければならないか、それがしっかりとわかっていなければ、組織のマネジメントはできない……そして、組織のマネジメントを考えるうえでも、分野、地域といった専門性の軸を持っていないと、ものごとを捉えるうえでの視点がブレてしまうのではないか、ということでした。以来私は、ものごとを俯瞰的に捉える視点、マネジメント能力を高めていきたいという思いを一方で持ちながら、インフラ/運輸交通に関する専門性とフランス語能力/アフリカ地域への知見を自分の中の二つの軸として、キャリアを築いていく努力を続けてきたように思います。