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主体的能力開発の機会「実務経験型専門研修」

魅力的な商品、サービス
を生み出し、人々に届ける
ビジネスの現場。そこから
得た経験・知見を、国際
協力のフィールドへ環流
させていくために。

川口美咲

Misaki KAWAGUCHI

民間連携事業部 企業連携第二課
商学研究科修了/2011年入構

「実務経験型専門研修」とは?

専門能力を養ううえで有益と考えられる国内外のさまざまな研修先(国際機関、民間企業、大学・研究機関、NGO等)を職員が自ら選択し、自身のキャリア形成の方向性を踏まえたうえで、当該機関における実務経験を得ることを可能にする制度。自ら主体的にキャリア開発を行っていきたいという意欲を持った職員に、JICA内外で通用する高い専門性を育む機会を提供し、また、そこで得た知見・経験、人脈等を活かして、JICAの業務に新しい付加価値をもたらす人材となることを期待して設置されている制度である。

途上国にポジティブなインパクトをもたらすために、
何が必要なのか?

大学院で経営学を学んだこともあり、就職の際には、民間企業かJICAかでずいぶん迷いました。民間企業への関心というのは、企業活動を通じてビジネスとして途上国開発に貢献していくことが、スピード感があり、雇用の創出等も含め、よりサステナブルな取組みになるではないかと考えたためです。そんな時、当時のJICA採用担当の方が、民間連携事業部で働いている先輩職員を紹介してくれたんです。その方がすごく素敵な女性で、「JICAに入れば多くの民間企業と関われて、こんなに生き生きと働くことができるのか」と、影響されやすい私はすっかり感化されました(笑)。以来、民間企業との関わりの中で新しい国際協力の形を模索していくことが、私にとってJICAで働くうえでの大きなテーマになっています。

 そうした中で、2022年4月から半年間、アフリカン・テキスタイルを使ったアパレル事業とNPO法人としての活動に取り組むCLOUDY(クラウディ)において、「実務経験型専門研修」の制度を活用し、研修を実施しました。やはり一度、民間企業の事業現場を体験しておきたいという思いから同制度を利用したのですが、そのような思いが膨らんでいった契機は、2015年から3年半駐在したフィリピン事務所での業務経験でした。

 フィリピン事務所時代は、教育・保健医療分野、河川の改修や災害復旧・復興事業等さまざまな事業を担当しました。その中でもやはり現地でJICAの民間連携事業を受託した企業の皆さまとの意見交換やサポートはとてもやりがいを感じました。JICAがこれまで築き上げてきた相手国政府との信頼関係のもと、日本の民間企業の優れた技術やノウハウ、サービス等をフィリピンの発展に役立たせたいという想いを持った企業と相手国政府機関との橋渡し役を担います。現地ではあの手この手と知恵を絞り、どのようなタイミングでどうやったら相手に響くのかを考え、JICAの持っているネットワークを活用し、最終的にフィリピン政府からも好評、企業からも感謝されました。でも、そこから企業のビジネスとして事業を展開していくためには、さらなるハードルがあります。

 JICAでは、これまで多くの国や地域でモノの生産性や質の向上により、人々の生活を下支えするような事業を数多く実施してきました。これからは「作って売る」からさらにマーケットインの考え方を取り入れた「売るために作る」、そして売れるためにはどんな戦略でどう展開していくのか、もちろんその一連の活動が途上国の発展のために寄与するものである必要がある。それらに照らしてフィリピンでの事業を振り返ると、もっとやるべきこと、できることがあったのではないかということが、自分の中に課題として残されたわけです。開発途上国の人々に寄り添い、現地で本当に必要な協力をJICAならできる。でも、優れた技術や想いを持った企業をサポートするには私自身マーケティングやブランディング、多様な関係者を巻き込み、共に創り出していくための巻き込み力がまだまだ弱い、そこを強化していきたいという思いが強くなりました。

 JICAの事業が本当に現地の人々の役に立ち、サステナブルなものとして定着していくためには、魅力的なモノ、サービスを生み出すノウハウや、その先のマーケットにアクセスするための仕組み作りが不可欠で、そうしたビジネスの方法論、考え方を実践的に学んでみたいという問題意識が、こうした経験の中で次第に大きくなっていった形でした。

研修から得た示唆を活かし、
グッドプラクティスを積み重ねていく

CLOUDYとの出会いは、本当に偶然でしたね。フィリピン事務所勤務の後、私は人間開発部に異動となり、南西部アフリカ地域の保健医療分野を担当しました。その頃コートジボワールに出張する機会があったのですが、アフリカン・テキスタイルを身にまとう現地の美しく力強い女性にたくさん出会い、すっかり魅了されたのです。その後、産休・育休期間中にSNSを眺めていて、たまたま目にとまったのがCLOUDYのバッグを持っている方の投稿で「あ、アフリカン・テキスタイルが使われている、オシャレ! このブランドは何?」と、私は俄然興味をひかれたわけです。調べてみると、ブランドとして展開しているさまざまファッションアイテム、ポーチ、巾着といった商品が魅力的なのは言うまでもなく、組織や事業活動も非常に独自性が高く、面白い。当時、子育てをしながら今後のキャリアについて考えていたなかで、この組織自体にとても興味を持ちました。

 ここでCLOUDYについて少しご紹介すると、先にも少し触れたようにここは、ファッション・ブランド、アパレル事業を手掛ける株式会社で得た収益の一部を自身が運営するNPO活動に還元する、「循環型ビジネス」を展開しています。ただ、その成り立ちにおいては、アフリカにおける教育機会の提供を2010年から行っており、NPO事業の方が先行していたんですね。アフリカへの支援を始めた当初は学校作りに力を入れていましたが、現地で学校を卒業しても「仕事がない」という現実があり、どうやったら現地に雇用を生み出せるかというのが次の活動のテーマになっていったわけです。そこで着目したのが、アフリカの民族柄や伝統の織物、それを縫製する技術。これを活かしてファッション・ブランドを起ち上げ、世界に販売していくことで、現地に雇用を生み出し、その収益をNPOとしての活動に充てていくというサイクルを作り上げているのが、CLOUDYなのです。ちょうど私がCLOUDYに興味を持っていたタイミングでスタッフの募集が行われていたこともあり、先ずCLOUDYにコンタクトを取り、「JICAにはこういう制度があるのですが、そうした条件で受け入れていただけるなら」というご相談をしました。魅力的な商品を生み出す企画力、異業種を巻き込んで新たなアクションにつなげていく開発力、コラボレーション力といい、それを市場展開しながら社会貢献につなげていく仕組み作りといい、CLOUDYはまさに、私が学びたいと考えていたものを備えている組織でした。まず先にCLOUDYに研修受入を快諾いただき、それを踏まえて、「実務経験型専門研修」の機構内選考に臨んだという形でした。

 CLOUDYは当時、代表も含めて全社員が10人にも満たない小規模な組織で、大まかにNPOチームとアパレルチームに分かれているのですが、皆がどちらの業務にも関わっている、というような体制で運営されていました。私はJICAから来たということもあって、基本的にはNPOチームの配属になったのですが、アパレル業務も経験してみたいと伝え、大手百貨店にポップアップストアを出店するイベントや店頭での接客など、さまざまな経験を得ることができました。CLOUDYでの仕事を通じて学んだことは数々あるのですが、1つは、接する業界、人々が、これまでJICAの仕事で関わってきた世界とは全く異なるということ。ガーナやケニアでNPO活動を行っているとはいえ、日本ではもちろんファッション業界の方たちとビジネスを行っていますから、そこにはとてもクリエイティブな世界が広がっている。センスがいい人がやればこんなにオシャレに社会貢献ができるんだ、というのは、本当に目から鱗のような経験でした。また、NPO法人の方もCLOUDYブランドに統一するという、リブランディングのプロセスにも関わったことも、本当に学びの多い経験でした。自分たちのビジョン・ミッションは何なのか?人々に届ける価値とは?といったことを、メンバー皆でとことん議論する。私にとっては、JICAという組織をどう見てもらいたいのか、見せていくべきなのかを深く考えるきっかけにもなったように思います。

 CLOUDYでの研修を終え、2022年10月からは民間連携事業部に所属しています。CLOUDYでの経験やこれまでの問題意識を活かすことのできる希望していたポジションです。さまざまな企業の方々が持っている製品や技術をどのようなタイミングで、どのように見せていけば途上国の人々に響くのか、受け入れられ、ビジネスとして現地で展開できるのかといったことを考えるうえで、CLOUDYでの経験はとても大きな示唆を与えてくれるものだと思います。CLOUDYの代表は、目の前の課題に対して「工夫する」ことや「本質は何か」を突き詰める方でした。現在の民間連携事業部の仕事は、企業側から提案してもらうことが基本となりますが、今の制度の中でどんな工夫ができるのか、事業を通じた開発インパクトは何かをしっかりと考え、さらに我々の方からもっと積極的に働きかけるようなことをしていかなければならないのではないか、とCLOUDYでの経験を思い起こしながら常々考えています。世の中の社会課題に対し明るく鮮やかに解決に向けて取り組んでいるCLOUDYのように、私たちも受け身にならず、もっと攻めの姿勢を持って事業を開拓していかなければならないということを課長も含め同僚とも、最近よく話していることですね。

 また在外事務所にいた時は、民間連携も技術協力も円借款も、一人の所員がスキーム横断的に担当していたのですが、私が今、自分自身のテーマとして考えているのは、たとえ本部で仕事をする場合でも、さまざまなスキームを柔軟に活用していくような姿勢を持っていたいということ。例えば、こういう企業の技術を取り入れれば、より開発効果を高めていけるというケースがあるとすれば、適切な仕組みやプラットフォームを通じて協働を実現していける……そうした仕事を手掛けていきたいですね。そして、民間企業と共に途上国にポジティブなインパクトを生み出すグッドプラクティスを蓄積し、将来的にはそれを外部に向けて発信して、さらに多くの業界や人々を巻き込んでいくようなムーブメントに繋げていくことができれば、素晴らしいと考えています。国際機関や他の援助機関、民間団体等にも数多くのグッドプラクティスを共有していくことで、途上国に対してもっともっとポジティブなインパクトを届けていきたいというのが、現時点での目標です。

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