途上国にポジティブなインパクトをもたらすために、
何が必要なのか?
大学院で経営学を学んだこともあり、就職の際には、民間企業かJICAかでずいぶん迷いました。民間企業への関心というのは、企業活動を通じてビジネスとして途上国開発に貢献していくことが、スピード感があり、雇用の創出等も含め、よりサステナブルな取組みになるではないかと考えたためです。そんな時、当時のJICA採用担当の方が、民間連携事業部で働いている先輩職員を紹介してくれたんです。その方がすごく素敵な女性で、「JICAに入れば多くの民間企業と関われて、こんなに生き生きと働くことができるのか」と、影響されやすい私はすっかり感化されました(笑)。以来、民間企業との関わりの中で新しい国際協力の形を模索していくことが、私にとってJICAで働くうえでの大きなテーマになっています。
そうした中で、2022年4月から半年間、アフリカン・テキスタイルを使ったアパレル事業とNPO法人としての活動に取り組むCLOUDY(クラウディ)において、「実務経験型専門研修」の制度を活用し、研修を実施しました。やはり一度、民間企業の事業現場を体験しておきたいという思いから同制度を利用したのですが、そのような思いが膨らんでいった契機は、2015年から3年半駐在したフィリピン事務所での業務経験でした。
フィリピン事務所時代は、教育・保健医療分野、河川の改修や災害復旧・復興事業等さまざまな事業を担当しました。その中でもやはり現地でJICAの民間連携事業を受託した企業の皆さまとの意見交換やサポートはとてもやりがいを感じました。JICAがこれまで築き上げてきた相手国政府との信頼関係のもと、日本の民間企業の優れた技術やノウハウ、サービス等をフィリピンの発展に役立たせたいという想いを持った企業と相手国政府機関との橋渡し役を担います。現地ではあの手この手と知恵を絞り、どのようなタイミングでどうやったら相手に響くのかを考え、JICAの持っているネットワークを活用し、最終的にフィリピン政府からも好評、企業からも感謝されました。でも、そこから企業のビジネスとして事業を展開していくためには、さらなるハードルがあります。
JICAでは、これまで多くの国や地域でモノの生産性や質の向上により、人々の生活を下支えするような事業を数多く実施してきました。これからは「作って売る」からさらにマーケットインの考え方を取り入れた「売るために作る」、そして売れるためにはどんな戦略でどう展開していくのか、もちろんその一連の活動が途上国の発展のために寄与するものである必要がある。それらに照らしてフィリピンでの事業を振り返ると、もっとやるべきこと、できることがあったのではないかということが、自分の中に課題として残されたわけです。開発途上国の人々に寄り添い、現地で本当に必要な協力をJICAならできる。でも、優れた技術や想いを持った企業をサポートするには私自身マーケティングやブランディング、多様な関係者を巻き込み、共に創り出していくための巻き込み力がまだまだ弱い、そこを強化していきたいという思いが強くなりました。
JICAの事業が本当に現地の人々の役に立ち、サステナブルなものとして定着していくためには、魅力的なモノ、サービスを生み出すノウハウや、その先のマーケットにアクセスするための仕組み作りが不可欠で、そうしたビジネスの方法論、考え方を実践的に学んでみたいという問題意識が、こうした経験の中で次第に大きくなっていった形でした。