Feature 01
経験者が語る、海外赴任のリアル

リアルな事業の現場、人々との交流、
活気に満ちた街の息吹……
海外の最前線で職員が吸収する全てのものが、
未来の国際協力を生み出す力となる。

新卒でJICAに入構した職員は、
入構10年以内に最初の海外赴任を経験することが多い。
業務自体は言うまでもなく、
日々の暮らし、現地の人々との交流といった体験の全てが、
職員にとって大きな財産となる海外赴任。
ここでは、3人の同期入構職員の座談会によって、
JICAにおける“海外赴任のリアル”を、皆さんにお伝えしたい。

座談会出席者

  • 佐藤祥平Shohei SATO

    経済開発部
    民間セクター開発グループ
    第一チーム
    経済学研究科修了
    /2016年入構

  • アイコン クロス
  • 山中 潤Yun YAMANAKA

    地球環境部
    森林・自然環境グループ
    自然環境第一チーム
    アジア・アフリカ地域研究科修了
    /2016年入構

  • アイコン クロス
  • 小岩謙一郎Kenichiro KOIWA

    人事部 人事課
    公共政策大学院修了
    /2016年入構

1.海外赴任はどのようにして決まり、
どういう準備を行うのか?

佐藤さん、山中さん、小岩さんは2016年の同期入構で、それぞれお互いには良くご存知なのだと思いますが、先ず読者の皆さんへの自己紹介も兼ねて、何年から何年までどこに駐在されたのか、また、赴任地の希望はどのようなものだったのかを教えていただければと思います。

佐藤

経済開発部民間セクター開発グループに所属しております佐藤祥平です。2020年9月から2023年8月までナイジェリア事務所に赴任していました。首都アブジャでの勤務を終え、本部に戻って間もないところです。赴任先の希望については、JICAでは年に1回、人事異動に関する希望を含めた意向調査があり、その際に海外拠点についても希望する赴任地域・国を記載することができます。私の場合、そもそもJICAで働きたいと考えた理由の一つとして、ここで働いていないと住めないような国で暮らしてみたいというのがあり、ナイジェリアを含めた生活環境的にもチャレンジングな国を希望し続けていたのですが、それが叶ったという形でした。また、せっかく海外に出るのであれば、技術協力、有償資金協力、無償資金協力といったJICAが持っているあらゆるスキーム・アプローチを経験してみたいと考えていたのですが、その点ナイジェリアは、JICAが展開するほぼ全てのスキームが網羅されている国なので、そうした観点からも、希望通りだったと思います。

佐藤祥平

山中

地球環境部森林・自然環境グループに所属している山中潤です。一般的に、初めての海外赴任は入構3部署目のことが多いのですが、私は2部署目に在外勤務になりましたので他の2人より少し早く、2018年9月から2022年3月まで、ペルー事務所に赴任していました。所在地は首都のリマですね。学生の頃から私は、環境保全、とりわけ、途上国における森林保全といったテーマに興味があり、赴任先の希望としては、森林保全に関するプロジェクトが動いていて、国別開発協力方針の中で環境が重点分野としてフォーカスされているところ、という視点でリサーチし、希望を出していましたね。また、ペルーはスペイン語圏になりますが、赴任前に3ヶ月間、スペインでの語学研修も受けさせてもらいました。

山中 潤

小岩

現在人事部に所属し、人事制度など人事業務全般を担当している小岩謙一郎です。2020年9月から2023年7月まで、バンコクにあるタイ事務所で勤務しました。この3名の中では唯一ですが、赴任時点で0歳だった子ども、妻とともに、家族で駐在していました。私は、学生時代から東南アジア地域に関心があり、JICA入構後もフィリピンをはじめとする同地域のプロジェクトに携わっていましたので、赴任先についても東南アジアの国を希望していました。また、タイ赴任前に所属していた地球環境部では、東南アジア・大洋州における環境関連プロジェクトを担当しており、そのうちの一つがタイの海洋プラスチック問題に関する日タイ共同研究事業でした。タイ赴任の前年には出張で現地を訪れる機会もあり、赴任国の希望を考える中で是非タイに行きたいと考えるようになりました。結果的に、タイ事務所赴任後も環境分野を担当させていただき、地球環境部時代に担当していたプロジェクトを現地事務所員の立場として引き続き関わることができたという、非常にラッキーな経験をすることができました。

小岩謙一郎

皆さん基本的に希望通りの、幸運な海外赴任ができたようですね。それでは、赴任に向けた準備はどのように進めていくのかということを、次に教えていただきたいと思います。

山中

準備の最初という意味ではやはり、赴任前研修になると思いますが、これは海外赴任の前に、全員が必ず受けることになっています。新入職員ですと、海外赴任前に実際に経験できる業務はどうしても限られますが、在外事務所に出ると、これまで担当したことのないスキームの事業を担当する可能性もあります。ですから、有償資金協力、無償資金協力、技術協力といったJICAの協力スキームの概要と、その案件管理の仕方であるとか、また、在外では総務、経理といった事務所を支えるバックオフィス業務を担うことも多いので、そうした業務についての研修もあります。また専門家を招いての、治安・安全対策に関する講習等もありました。

小岩

タイムスパン的に見ると、赴任の約2ヶ月ほど前に赴任先が伝えられ、だいたいこの2ヶ月間で、住居をはじめとする諸々の準備を進め、現地に着任することになります。また、我々のように新卒入構職員の最初の在外勤務は、先ほど山中さんの話にもあったように、3部署目までに海外赴任することが多いので、心の準備はある程度できていました。私の場合、タイは在留邦人が非常に多い国で、例えば住居探しも日本語での情報収集が可能でしたので、前任者に相談しながら準備すれば、ほとんどハードルはなかったと思います。

佐藤

ナイジェリアの場合はやはり治安の問題がありますので、安全管理部の皆さんと相談しながら、JICA職員の取りうる選択肢が示される形でした。私の場合は結果的に、前任者の部屋を、家具もそのままの状態で引き継いで暮らすことにしました。

2.最前線でのドラマティックな仕事、現地の人々との交流……
さまざまな収穫をもたらす、海外赴任体験

それでは次に、海外駐在中のお仕事についてお聞きしたいと思います。赴任中に特に注力された仕事や、その中で皆さんが感じた、在外事務所ならでは仕事の醍醐味、在外事務所で働く職員の役割、ミッションといったものについて、お聞きしたいと思います。

山中

ペルー時代は、もともとやりたかった環境分野や農業関連の事業を主に担当させていただきましたが、特に印象深かったものを挙げるとすれば、円借款によって灌漑施設を造るという案件。ペルーでは、山間部の急峻な斜面でジャガイモ、トマト、とうがらし等の畑作農業が行われていますが、これまで雨水のみに頼っていた農業を、灌漑施設を造り水路を引くことによって、生産を安定させ、収穫量を増大させていくという事業ですね。この案件では、現場にも度々足を運び、完工式にも出席しましたが、日本から見れば地球の反対側、アンデス山脈奥地の村に、日の丸とJICAのロゴが入ったインフラ施設が完成して、現地の農民の皆さんにとても喜ばれている……そうした感動的な光景を目の当たりにすることができました。やはり、こうしたリアルな現場を体験できることは在外事務所で働くことの醍醐味、喜びですし、事業の成果が届く人々の声を直に聞くことで、JICAが手掛ける協力の意義を実感できる日々でした。
 また、こうした現場や日々の案件実施において様々な人々と接していると、JICAのビジョンである「信頼で世界をつなぐ」ということの大切さを、改めて噛みしめるところがありましたね。最後は本当に人と人というか、どれだけロジカルに説明できるか、どれだけJICAのルールを理解しているかといったことを超えて、人間として相手に信頼されることがいかに重要かということを感じました。

山岳地帯の小規模灌漑施設の完工式にて

小岩

仕事面で特に印象に残っているものを挙げるとすれば、先にも少し触れた、地球環境部時代に案件形成に携わった、海洋プラスチック対策に関する日本・タイの共同研究プロジェクトになるでしょうか。これは、SATREPSという、環境問題等の社会課題解決に向けた二国国の共同研究事業なのですが、まさに事業が立ち上がるところを、現地で引き続き担当できたことですね。通常、JICA職員は2~4年程度で部署異動することが多いため、自分が案件形成に携わった案件の実施フェーズに引き続き関わることは多くありません。私は本部担当者から事務所担当者へと立場を変えて、案件形成~実施まで一つの案件に携わることができました。実施段階から振り返ると、形成時にもっとこうしておけば良かったということに気づくこともあり、非常に勉強になった経験でした。
 在外職員の役割、仕事の醍醐味という意味では、本部はやはり現場から距離がありますから、最も現場に近いところで何が起こっているのかをしっかりと掴み、その情報を本部と確実に共有しながらプロジェクトの方向性を本部と共に決めていく、それが在外事務所で働く職員の重要なミッションの一つだと思います。また、案件の種を拾うというか、協力の最初の一歩のところを自分で描いて本部に提案していくことができる……これはやはり、在外事務所勤務ならではの醍醐味なのではないかと思いますね。

タイ人カウンターパートの理事長賞授賞式にて

佐藤

仕事面ではやはり、ナイジェリアにとって約30年ぶりのプロジェクト型の円借款契約となった「ラゴス州及びオグン州送電網整備事業」がとても印象に残っています。この貸付契約調印に向けた最終段階の交渉を私の方で担当したのですが、これがなかなか大変な案件で……。ナイジェリアは“上意下達”“鶴の一声”文化が強く、窓口担当と話しても「上の判断待ちです」で終わってしまい、なかなか先へ進めない。この時の事業実施機関/カウンターパートはナイジェリア財務省と送電公社でしたが、送電公社とはかなり激しい議論になったこともありました。最後、ここで決めなければという交渉の際、私はナイジェリアの民族衣装を着て臨んだのですが、ようやく合意に至った時に送電公社の方から、「いや、良く頑張ったね、服装から何から君はもうナイジェリア人だ」と声をかけていただき、“Abubakar(アブバカール)”というナイジェリア名を付けていただきました。以来、財務大臣はじめ政府関係者の皆さんは、私のことをアブバカールと呼ぶようになって、おそらく佐藤という名前はもう誰もおぼえていないんじゃないかと思いますね(笑)。
 また、ナイジェリア国内のスタートアップを支援する技術協力事業を担当したことも、現在の仕事につながる体験として自分の中ではとても大きいですね。日本には、中小企業の活動を支援する中小企業基盤整備機構(中小機構)という組織がありますが、ナイジェリアにも、ナイジェリア版中小機構のような政府機関があり、ここに日本人専門家の方に入っていただいて、スタートアップ支援能力を高めていくという事業です。このプロジェクトでは、私の赴任期間中に初期スタートアップのインキュベーションプログラムを首都・アブジャで立ち上げたのですが、今では対象都市も拡がる等、ナイジェリア政府による自立的な運用が始まりつつあります。これも、赴任中の確かな成果として、手応えを感じた事業ですね。

スタートアップ支援のイベントにて

やはり、皆さん海外の現場ならではの貴重な経験を持ち帰られているようですね。それでは、日々の暮らしやオフタイムに関してはいかがだったでしょうか?これらも、海外駐在の経験としては大きなものだと思いますが。

山中

生活面では、ペルー、中南米には、マチュピチュ遺跡、ナスカの地上絵、イグアスの滝、パタゴニアの氷河といった、歴史的文化遺産や圧倒的な自然を有する素晴らしい観光地がたくさんありますから、休暇の際にはこうした場所にたびたび旅行にでかけ、感動的な体験をすることができました。また、新たにサーフィンやテニスを始めたり、日本大使館の方々とJ-POPを演奏するバンドを組んで日系社会(ペルーには20万人いらっしゃいます)のイベントに参加する等、プライベートの方もとても充実していました。

ペルー、マチュピチュ遺跡にて

小岩

まずその国を好きになることが大切だと考えていたこともあり、プライベートではタイ国内10都市以上を家族で旅しました。赴任時はコロナ禍だったこともあり、家族も異国での生活は、健康面も含めさまざまな不安があったはずですが、周囲の皆さんのサポートもあり、結果的には家族皆が楽しいと思える時間を過ごすことができて、健康に帰って来ることができたのは本当に良かったと思っています。また、仕事面のみならず、家族のことも含めた生活面においても、事務所のナショナルスタッフ(現地採用職員)にはさまざま形でサポートしてもらいました。彼女らは真の友人だと思っています。

タイ事務所内で、ナショナルスタッフと一緒に

佐藤

先にお話しした民族衣装の件もそうですが、私は先ず“相手を知る”ことが何よりも大事だと考え、休日はナイジェリア人の友人達と食事や映画、ボーリング等に出かけるようにしていました。また、ナイジェリアの民族音楽グループに参加させてもらって、“ジャンベ”という手で叩く伝統的な打楽器を練習し、週末はそのグループの営業について行って一緒に演奏したり、といったこともやっていました。私が離任する直前には、このグループが主催する大きなイベントがあり、そのイベントに私も出演させていただいたことはとても良い思い出です。彼らとは、SNSを通じて未だに連絡を取り合っています。

民族音楽グループで“ジャンベ”の演奏を練習

3.海外での経験から
掴んだもの、
そして、これからの
キャリア

仕事面、生活面ともに、海外赴任中の経験は皆さんの中に大きなものを遺されているようですが、それらを踏まえて、これからJICAの仕事を通じてどのようなことを実現していきたいか、どのようなキャリアを築いていきたいと考えておられるかを、最後にお聞きしたいと思います。

小岩

タイ事務所での3年間は、仕事の面では本当にさまざまな刺激を受けたと思いますし、必ずしも簡単ではないシチュエーションの中で、JICAの看板を背負って相手国政府を始めとするさまざまなカウンターパートと交渉するという経験をできたことで、間違いなく、自分が成長できたという実感はあります。それと同時に、自分の不足している部分を感じるというか、もっと成長しなければならないという思いも非常に強くなっていて、JICAの中で活躍していくために、もっともっと力を付けていかなければならないとは考えています。また、特にタイのような比較的所得水準の高い国では、これまでJICAが支援してきた国ではあまり見られなかったような新たな社会課題も生まれてきており、我々自身が前例に捉われていては効果的な協力はできないと感じることもよくありました。そうした意味で、変化し続ける社会をよく観察することで開発ニーズに合致したタイムリーな事業を創り上げ、新たな課題の解決に向けた革新的なアプローチを構想できる人材になりたいということも、自身の課題としては考えています。
 自分自身の今後、という意味では、入構以来、地域部、課題部、そして在外事務所と、ずっと事業のフロントラインにいたわけですが、今は人事部に籍を置いて、より良い組織作りという観点から事業の質の向上に貢献できるかを考えています。先ほど、自分の不足している部分も感じたという話をしましたが、在外での仕事を通じて痛感したことの一つは、調整力、マネジメント能力の重要性ですね。ですから、現在の人事部での仕事も、自分にとっては重要な意味を持つものだと考えています。一方で“環境”というセクターの専門性を強化しながら、マネジメント能力も高めて行く……私としては、この2つの軸を持ちながらJICAの中でのキャリア歩んで行きたいと考えていますし、またいつか在外事務所に出ることがあれば、それまでの経験を最大限に活かして、よりインパクトのある事業を手掛けてみたいと思いますね。

山中

私の場合、もともと森林保全、自然環境保全といったテーマに興味があってJICAを志望し、ペルー事務所ではそうした分野を最前線で担当することができましたから、自分にとっては本当に得がたい経験をさせていただいたと思っています。円借款で廃棄物処分場をペルーの23地方都市に造るという案件では、完工式に大統領も出席されて私もご挨拶させていただくなど、まさに国家開発の中枢を担っているんだという感慨がありました。この事業の実施機関だった環境省の皆さんは、私が離任する際に送別会を開いていただいて、感謝状もいただくなど、最後は本当に涙、涙という感じで……(笑)。ただ一方で、環境や気候変動といったテーマは非常に動きが速く、事業の現場で慌ただしく動きながらも、もっと専門性を高めていかなければならないと感じていたことも事実です。そうした意味では、今、地球環境部森林・自然環境グループで、東南アジアにおける森林・自然環境分野の事業等を担当しており、まさに自分のテーマであった環境分野の専門性を高めるための機会を得ていると思います。
 JICAの中では昨今、「共創」「革新」ということがよく話題に上るのですが、私の中で最近考えているのは、新しいアプローチによる、森林・環境分野の事業を実現できないかということですね。それこそ民間の資金を導入するといった、新しいスキーム、新しい資金循環を持ち込むことで、より革新性を持った森林・環境分野におけるプロジェクトを実現できたらと考えています。

佐藤

ナイジェリアでの経験を通じて得たものは沢山あるのですが、その最大のものはやはり、異文化コミュニケーション力というか、ナイジェリアと日本という大きな文化的なギャップを乗り越えながら、困難な交渉を成立させることができたという自信ではないかと思います。あれを乗り切れたんだから、同じ日本国内なら大丈夫だろうというような……。加えて、現在私は、経済開発部民間セクター開発グループで、“総括”というマネジメント的な役割を担うようになっていますが、ここでも、在外事務所での経験が大いに活きていると思います。ナイジェリアに赴任するまで、自分はあくまで一担当者として、何か決めるためには総括、課長、といった上司に相談しながら進めていく立場にあったわけですが、それがナイジェリア事務所では、ナショナルスタッフのチームメンバーを率いて、チームとして成果が出せるよう自分自身がリーダーシップを発揮して働く必要がある。若手にとってはある種、マネジメント実践のトライアルのようなものでもあり、非常に勉強になったと思います。直近の自分のテーマとしては、こうしたマネジメント的な視点、能力をもっと高めていきたいと考えています。
 先に、ナイジェリアで手掛けたスタートアップ支援事業の話をさせていただきましたが、中長期的な自分のキャリアとしては、日本の民間企業の力を途上国につないだり、途上国における民間企業を支え、活性化したりすることによって、途上国の課題解決につなげていくような事業を手掛けていきたいと考えています。もともと私は、最初の配属が国内事業部で、日本の中小企業の海外展開支援業務を担当しており、そうした知見、ストックをより発展的に展開できたらというのが、現時点での目標でしょうか。

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